米最高裁がGMの訴えを棄却、米連邦倒産法11章とは (2017/4/25 企業法務ナビ)
はじめに
米最高裁は、米ゼネラル・モーターズ(GM)がエンジン点火スイッチの欠陥を放置していた問題で、米連邦倒産法11章の適用を受けたことにより民事制裁金が免除されるとの主張を24日、棄却していたことがわかりました。日本の民事再生法に当たる米連邦倒産法11章。今回はその概要を見ていきます。
事件の概要
米GM社は2014年、同社が製造販売する自動車でエンジンの点火スイッチに不具合があったとして800万台にも及ぶリコールを行いました。対象となる製品は97年型の「シボレー・マリブ」2000年型の「シボレー・インパラ」等で、不具合による事故でそれまでに少なくとも13人が死亡したとされております。
GMは97年にシボレー・マリブを発売した当初からユーザーからの報告により欠陥の存在を把握していたされております。10年以上にもわたって死亡事故につながる欠陥を放置していたということで翌年米司法省により民事制裁金が課されることとなりました。GMは2009年6月、負債総額約1,728億ドルで連邦倒産法11章の適用申請を行い新会社として再建を開始することとなり、それにより民事制裁金の支払義務も免責される旨主張しておりました。
米連邦倒産法とは
米連邦倒産法とは米国連邦法の1種で個人や企業の倒産処理の手続を定めた法を指します。日本の民事再生法や会社更生法、破産法等に当たります。全部で15章からなり、日本の破産法に該当する精算については第7章、民事再生、会社更生に該当する更生については第11章に規定されております。
日本では一般的にこの11章を米国の倒産法という意味で米連邦破産法11条と呼ばれておりますが、正確には多くの条からなる章であり、また倒産処理だけでなく広く再建について規定されております。米国では一般に「Chapter11」と呼ばれあらゆる事業再建に利用されております。
連邦倒産法11章の手続の概要
連邦倒産法11章の適用はまず、倒産裁判所への申立によって始まります。この申立は債務者からでも債権者からでも行うことができます(301条、303条)。申立の要件は緩く、債務者が債務超過に陥っていることや事業破綻の危険性が存在するといった事情は必要ありません。
また裁判所に申し立てれば自動的に開始され、裁判所の開始決定を経る必要はありません。開始されると必ず管財人が選任され再建計画等が策定されることになります。開始後は債務者に対するあらゆる取立行為が禁止され、訴訟だけでなく、既に勝訴していてもその執行や抵当権の実行、相殺なども禁止されることになります(362条)。
連邦倒産法11章の特徴
連邦倒産法11章は上記のとおり債務超過等の要件は無く、また裁判所による開始決定も不要であることから非常に簡易で使いやすい制度となっております。この点は日本の破産法や民事再生法とことなり、倒産処理だけを目的としていないことの現れと言えます。
しかし倒産処理法の側面も有していることから管財人には強力な権限が与えられております。その代表と言えるのが否認権です。これは日本の破産法(161条等)のものと同様に債務者による不公平な弁済行為(偏頗弁済)や債権者を害する行為(詐害行為)等を一定の要件のもとで取り消すことができます。また申立以降に譲り受けた債務者に対する債権での相殺が禁止されていたりもします(553条)。このように倒産処理だけでなく債権整理等にも利用できる柔軟な制度となっております。
コメント
本件でGMは連邦倒産法11章の適用を受け新体制となったことにより民事制裁金の支払義務も免責されると主張しておりました。たしかに11章の適用開始となった場合、あらゆる債権の取立は禁止されることになります。また新たな法人として生まれ変わった場合は旧法人に対する制裁金の支払義務は新法人には無いようにも思われます。しかし米最高裁はGMの主張を退けました。民事制裁金は違法な行為に対する罰金や懲罰金といった意味合いがあることから通常の債権とは性質が異なることが理由の一つではないかと思われます。
以上のように米連邦倒産法11章、通称チャプター11は倒産処理だけでなく労使紛争等にも利用できる使いやすい制度となっております。日本で事実上倒産を意味する民事再生や会社更生とは意味合いが違うと言えます。しかし本件のように制裁金や課徴金等はこれにより免責されない可能性が高いという点に注意が必要です。この点を踏まえて米国で事業を展開する場合は債権整理等に積極的にチャプター11の利用を検討することが望ましいと言えるでしょう。
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