人工知能は地方創生に貢献できるのか… (2017/5/11 瓦版)
AIが秘める革新性だけでは計れない可能性
AIは地方を良くするのか? 人工知能の驚異的な進化が注目される中、興味深いイベントが実現した。世界初の人工知能型の次世代ERP「HUE」を提供するワークスアプリケーションズCEO・牧野正幸氏と徳島県知事の飯泉嘉門氏が、AIの可能性と地方創生について熱くトーク。同社の新研究拠点となる「ワークス徳島人工知能NLP研究所」の開所記念イベントして行われた。
業務の大幅な効率化、さらにはヒトからの仕事の強奪…。ビジネスシーンでは、そんな文脈で議論されがちなAI。そこには、利便性の次元を超える可能性は感じ取れても、地方を活性化する余地は見いだしづらい。果たして、AIは地方創生という難題でも、その解決策になり得るのか…。
牧野氏はまず、AIによる、産業構造の激変を指摘する。「いまの状況を第四次産業革命とかコネクテッド・インダストリーズとかいうが、私は“第二次産業革命”とみている。つまり、“第一次”では肉体労働が奪われ、今回はAIによって知識労働が激減する」。いきなり不穏な空気で幕を開けたが、飯泉氏も同調する。
「パターン化された業務がほどんどの役所の仕事も、たちどころにAIに代替されるでしょう。何日もかけていた仕事もAIなら1時間もあれば終わるんじゃないでしょうか」と飯泉氏は当然のように言い放つ。地方創生どころか、業務代替による仕事の減少。AIは、やはり、仕事を奪う脅威。そんな展開が支配的となった。
だが、決してその真意はネガティブなことではない。経験や知見の積み上げで作業をするというこれまでの働き方の常識が、AIの登場で崩壊。新しいスタイルの働き方が必要になるという状況になったに過ぎない。牧野氏はいう。「蓄積した知識や経験から予測することはAIにとってたやすいことだが、それらを駆使して新しいことを創りだすことになるとAIでも難しい」。つまり、こうしたことができる人材がこれからの時代、必要とされ、躍動するということだ。
AI時代はあらゆるものがネットでつながる時代でもある。それはつまり、時間や場所に関係なく働けるということだ。飯泉氏が知事を務める徳島県はブロードバンド環境がすぐれており、首都圏とそん色ない。首都圏企業のサテライトオフィスも多く、IT企業が軒を連ねるエリアもある。ワークスアプリケーションズが徳島県に拠点を構えた理由のひとつはそこにある。
創造力優位社会では地方の方がむしろ、拠点としてマッチ
産業構造、そして社会構造が変わったいま、従来の価値感に捉われていては、取り残されるどころか不幸になる可能性さえある。飯泉氏は力説する。「地方衰退の原因はいうまでもなく若者の首都圏流出。でも、東京へ出ていって本当に幸せになれているのか。徳島なら職住近接で、サーフィンのメッカもある。波に合わせて仕事を切り上げるというメリハリをつけられる。こんなことは東京では到底無理でしょう」。
AIが地方を良くするという話とは一見ずれているようみえる。だが、AIにより、単調作業が代替されると、ワーカーにより求められるのは創造力。そう考えると、ストレスまみれの都心より、地方でストレスレスに生活し、仕事をする方が理にかなっているようにも思える。なにより、これまでの常識が根底から変わり、地方に拠点を求めるワーカーが増えれば、地方に人もカネも、そしてモノも流れ込む好循環が生まれる。
こうした流れにスマートに乗るために重要なこと。それは逆らわないことだ。牧野氏が指摘する。「新しい技術が出てくると、それを否定する人が一定数出てくるのが日本。受け入れることで最初は不便な部分も出るが、そこを諦める勇気がないと、革新は起こせない」。最新テクノロジーを使うか否かは、各自の自由。だが、もはやすぐそこまで来ているその波は、拒絶しても現状キープさえ難しい。その点は強く認識しておく必要がある。
ツールとしてのAIは、仕事の中身を変える。職場へのAIの浸透という現象は、働き方の常識を変える――。単調作業は今後、限りなくAIで代替可能になることを踏まえれば、人口減少の補完にもなるだろう。煩雑業務に追われがちだったワーカーは、やるべきことややりたいことに労を集中投下できるようになる。いつでもつながる社会では、首都圏にいることが必ずしも優位ではない。直接的ではないが、AIが地方への人材還流を後押しする。そんなイメージが湧き上がりつつある中で、イベントはその幕を閉じた。
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