東京地裁がロッテ創業者解任を有効と判断、取締役会決議の瑕疵について (2017/4/19 企業法務ナビ)
はじめに
ロッテグループ創業者の重光武雄氏が取締役会で代表権を剥奪されたことを不服として決議無効確認を求めていた訴訟で東京地裁は13日、決議は有効として棄却していました。取締役会の決議に法令の定める手続違反等がある場合の有効性はどうなるのでしょうか。今回は取締役会決議の瑕疵について見ていきます。
事件の概要
判決文等によりますと、ロッテホールディングス(東京都新宿区)は2015年7月の取締役会で、創業者である代表取締役重光武雄氏(94)を代表権のない取締役名誉会長に任命する旨の決議を行いました。ロッテHDでは近年、経営権を巡り重光氏とその長男に対して副会長と重光氏の次男側が対立しておりました。今回の取締役会では重光氏に対する招集通知は取締役会の前日の深夜にメールで送られており、重光氏は出席できず、発言の機会は得られなかったとしています。重光氏はこのような招集通知は法令の定める適法な招集通知ではないとして、取締役会決議の無効確認を求める訴えを東京地裁に起こしておりました。
取締役会とは
取締役会とは、取締役の全員で構成され(会社法362条1項)業務執行に関する会社の意思決定を行うとともに、各取締役の業務執行を監督する機関を言います(同2項、416条1項)。取締役会では代表取締役の選任・解任だけでなく、株主総会の招集事項の決定や株式の譲渡承認、利益相反取引の承認、重要な財産の処分、多額の借財の決議、支配人等の選任・解任等が行われます。取締役会は特に招集権者を定款や取締役会で定めている場合を除いては各取締役が招集を行うことになります(366条1項)。招集権のない取締役でも目的を示して招集権者に招集を請求することができます(同2項)。招集に際しては取締役会の1週間前までに各取締役に対して通知をしなければなりません(368条1項)。この1週間という期間は定款で短縮することができます(同括弧書き)。なお取締役全員の同意がある場合には招集手続きは省略できます(同2項)。
取締役会決議の瑕疵
取締役会で決議がなされても、その取締役会に法令等によって定められた手続違反があった場合、その決議の効力はどうなるのでしょうか。株主総会の場合、その手続等に瑕疵がある場合は一定の要件のもとに株主総会決議取消の訴え(831条)、決議無効・不存在確認の訴え(830条)を提起することができます。決議に瑕疵がある以上、本来は無効であるはずですが、会社の最高意思決定機関の決議であり、多数の利害関係人が生じることから、法的安定性を確保するために、一定の場合にのみ無効等を主張して争うことができるとしております。これに対して取締役会決議に関しては会社法上の規定は存在しません。したがって決議に瑕疵がある場合は原則として無効となると解されております。株主総会のような制限はなく、訴えの利益がある以上、いつでも誰からでも決議無効確認の訴えを提起できると考えられております。
判例の考え方
一部の名目的取締役に対し招集通知がなされていなかった事例で、最高裁は「名目的取締役に対して通知を要しないと解すべき合理的根拠はない」とし「一部の者に対する招集通知を欠く場合には特段の事情がないかぎり、決議は無効」としています。そして「その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効になる」としています(最判昭和44年12月2日)。他の事例では特別利害関係を有する取締役が存在する場合でもその者を控除せずに定足数を算定し、またその定足数は会の最初だけでなく全過程で維持されるべきとしています(最判昭和41年8月26日)。また持ち回り決議の方法でなされた決議は無効としています(最判昭和44年11月27日)。持ち回り決議とは一人が議案を書いた書面に印を押し、他の取締役に順次書面を回していくという方法です。この方法では全員が一堂に会して実質的な議論が行えないということです。
コメント
本件で東京地裁の小野寺裁判長は「重光氏への招集通知は取締役会の前日深夜にメールで送られており、適法な招集手手続ではない」と招集手続きの法令違反を認めました。その上で「他の取締役の意思は固く、重光氏が出席してもなお影響はなかった」として決議自体の有効性を認めました。これは上記最高裁判決の考え方に依拠したものと言えます。なお今回の取締役会で上程された議題は代表取締役解任についてですので重光氏は特別利害関係人に当たり決議には参加できませんが(369条2項)、定足数を算定する上での基礎には算入されることになります。取締役会は経営のトップの集まりとして株主総会よりも機動的な運営が求められますが、手続に不備がある場合は無期限で無効の訴えが提起できるなど、瑕疵の影響は小さくないと言えます。判例上結論に影響を及ぼさなければ無効判断がなされない可能性があるとはいえ、原則的には無効であるということを念頭に、招集手続きや、定足数、特別利害関係人の関与は無いか等に注意して取締役会を運営することが重要と言えるでしょう。
- 関連記事
- 済州島到着の国際クルーズ客船、中国人観光客3400人が下船拒絶
- 東京地裁が転籍無効判断、会社分割と従業員について
- 公取委が積水化成品の審判申立を棄却、独禁法の不服申立制度について
- 同一労働同一賃金に関する中間報告について
- 定年後再雇用の賃金減額に「合理性」 原告側が逆転敗訴