星空がスクリーンになる「森の映画祭」―数学と感性でつくる「偶然の出会い」 (2017/4/28 70seeds)
真っ暗で静かな夜の森。しかし、あるイベントの間だけは各地からたくさんの人がやってきます。彼らが見つめているのは、自然の中に出現したスクリーン。
「夜空と交差する森の映画祭」は、自然豊かな場所を舞台にオールナイトでさまざまな映画を鑑賞するイベント。2014年にスタートして以来「野外映画フェス」として注目を集め、今年からはゴールデンウィークにも開催されます。
代表のサトウダイスケさんは、学生時代から映像クリエイターとして活動中。数学科で培ったロジカルな視点を活かし、映画祭の企画・運営を行っています。なぜ野外での映画祭なのか、一過性の流行ではなくカルチャーとして生き残るには何が必要なのか。お話を伺いました。
作りたいのは、映画との「偶然の出会い」
――まずは映画祭立ち上げには、どういった想いがあったんですか?
「自主映画を撮っている人は世の中にたくさんいる」という事実です。音楽をやっている人にはわりと身近だと思うんですが、インディーズバンドと同じ立ち位置で、インディーズ映画の監督や役者がいる。趣味にしても本気にしても、バンドより役職が多いので、実は関わっている人は世の中にいっぱいいるんです。
彼らが作品をお披露目する場所としては、映画祭やカフェで自主上映会、YouTubeでの公開などがあります。自主上映会はかなり目的意識がないと行かないですよね。音楽と比べてみたとき、音楽にはフェスがあるなって。フェスでは、そこまで有名じゃないアーティストが小さめのステージに出たりしますよね。映画も同じことをやりたいなと思ったんです。そうすると「たまたま知る」という偶然を作れるなと。それが野外映画フェスをやる一つのきっかけですね。
――偶然そのアーティストを知って好きになるのは、私もよくありますね。
やりたかった理由の2つめは、前々からスクリーンを空に向けて張りたいと思っていたんです。映画のスクリーンって、だいたい目の高さじゃないですか。これを、ちょっと見上げる位置にしたかったんです。クッションとかレジャーシートとか、柔らかいところで寝そべって、スクリーンの外側には星空が広がっていて。そんな場所で宇宙をテーマにした映画を観たらおもしろいかな、と。
――「空にスクリーンを張りたい」というのは、どこから着想を?
ニコニコ超会議で、初音ミクを空中に浮かせる技術がいくつか発表されたのを見たんです。そのうちの一つが「アミッドスクリーン」という、メッシュ状の素材を使ったスクリーン。向こう側が透けて見えるんですが、これを映画に使いたかったんですよ。向こう側に星が透けて見えつつ、映画もしっかり映ったらいいなと思ったのが原点です。
実行委員会は毎年解散。
――昨年は2,700人近く来場者があったそうですが、そんな規模のフェスを運営するってとても大変なイメージがあります。実行委員などどんな工夫をされているんですか?
そこにはこだわりがあって、毎年、映画祭が終わったあとにいったん解散するんですよ。そして半年ぐらい経ってからまた説明会を開くんです。参加希望者1人1人ヒアリングをして、委員会の構成も毎年作り直しています。
――解散ですか!できたものを解体して新しく作り直すのは、けっこう骨の折れる作業に感じますが。
心配性なので、1個1個ステップを踏みたいんですよね。計画的かつ大胆にクリエイティブなことをやるには、スクラップアンドビルドでやっていくのが有効だと思っています。どうしても固執してしまうので、1回見直しをして、そこで新たにやりたいことを組み込んで……というふうに。
僕けっこうマメなので、そういう記録を残すのも好きなんですよね。過去4回の映画祭を開催しましたが、どのような順番でプロジェクトを進めていけばいいかログを残してフェイズ0からフェイズⅣまでまとめています。
――うわぁ、これはすごいノウハウの蓄積ですね。欲しいです(笑)。
映画祭に人格?
――ゴールデンウィークの映画祭も、メジャーな作品がある一方で、自主制作映画もありますね。
入口は「なんかおしゃれだな」とか「メジャーな映画が観たい」とかでいいんです。それで会場で自主制作映画を知って、「おもしろい」とか「この役者好きだな」と思ってもらえるといいかなと。その機会を増やすためにも「ゴールデンウィーク何しようか?」というときに候補で挙がるような、おなじみイベントとして確立したいですね。
――ゴールデンウィークは山梨、10月は愛知の佐久島と、いろんな場所で開催されますよね。場所を変えるのには、なにか意図がありますか?
森の映画祭の魅力をどこに置くか、という視点で考えています。「森の映画祭だから来た」と言われるようなイベントにしたい。森の映画祭自体をエンタメ化したいんです。
その上で「映画祭がいろんな場所に移動する・旅をする」というコンセプトにしています。開催地を定期的に変えることで「今回はここでやるのか」と、その場所に行く機会になればなと思って。
――旅をする映画祭。映画祭に人格を感じますね。ここまでお話をきいて戦略的できっちりした面とクリエイティブな面。両方を兼ね備えているのは強みだなぁ、と思います。
そこには僕のルーツである数学が生きているのかもしれないです。数学の証明は、まず素材をそろえて、その素材で勝負する部分があるので。1個1個のパーツがそろわないと、次のフェーズに行けないんですよ。 スクラップアンドビルドしたときに、全ての要素が一番最初に決めたテーマに沿っているように心がけています。例えば2016年に上映した『アメリ』『ソラニン』『パプリカ』は、「ゆめうつつ」というテーマにのっとって選定しました。作品以外でも、水彩画を使おうとか、フォントはこれにしようとか、どういう色を使おうとか……あらゆる点で世界観を合わせます。
例えば今年のテーマは「しゅわしゅわ」。コンセプトは「現れては消える、はかなくて切ないもの」です。気泡みたいな世界観にしたくて、シアン寄りの青を使おう、フォントはこうしようと決めていきました。たった一晩のイベントなので、そのうたかたさを出したいなと。
アナログな体験を通して、「ならでは」の魅力を生み出す
――少し話は変わりますが、野外映画祭って海外だとけっこうメジャーだと思っていて。反対に日本では、そこまで浸透しきっていないというか。
日本でも20年前ぐらいにドライブインシアターが流行ったんですが、騒音など課題が出て、減ってしまって。野外映画館はなくなってしまったんですよね。その後最近いくつか野外映画祭ができてきました。
ただ、うちの野外フェススタイルのイベントは初めてでしたね。「ただ映画祭をやるだけだったら、誰でもできる」という考えがあるんです。自分が映像を作っていた経験も活かしたいので、自主映画を観てもらうというミッションを解決したい。
――なるほど。インディーズ映画のためのミッションを持っているから、他との差があるんですね。佐藤さんはいろいろな映画イベントが増えている中で、この先どういうものがカルチャーとして日本に残っていくと思いますか。
今はいろんなところで野外映画イベントをやっていますが、ブームが落ち着いたら減ってくるんじゃないかな…と。そのとき何が残るかというと、イベント自体のファンじゃないかなと。だから、僕はただ映画を外でやっているだけではなく、「森の映画祭だから行きたい」「森の映画祭の世界観が好き」と言ってくれるファンを増やしていきたいと考えています。野外映画というジャンルに囚われず唯一無二の森の映画祭カルチャーにしていけたらと考えています。
――「偶然の出会い」というのは、自分で選んだものをすぐに得られるインターネット的なもの、現代の主流と相反するところにあると思うのですが、あえてアナログな場を設けることの意義ってどこにあるんでしょう?
映像作品をYouTubeにアップする方法もあるんですが、まず母数が違うなと思います。一方で映画祭では3000人のお客さんが来て、選択肢(=観る映画)が50しかない。いくつか同時に上映していることを考えると、さらに狭まってくる。そんな制限された中での自由を作りたかったんです。
なんでリアルなアナログイベントを選ぶかというと、今は複製できるものの価値が薄れてきた時代だと思うんですね。映画祭は、行かないと分からない・体験できないので、アナログ的なところに体験をプラスして、エンタメ性を出したいんです。家で観られるけれど、映画祭に来れば映画の世界観を表現した美術もあったりとか。
参加人数より大事なのは、コンセプトの一貫性
――この先の課題としては、どんな点があるのでしょうか?
映画産業に関わる人口って全体的に見るメジャー作品に従事している人が多いと思うんですけど、インディーズを底上げする人は少ないので、僕はどちらかというとインディーズの側に振り切っていこうかなと思います。
でも映画業界も多様化しているので、この先どこに集束するのかなとは考えています。映画館に行くのは僕も好きですし。一方で野外上映、体験型の応援上映や、4DXみたいに席が動くところも出てきて。体験型にシフトしているのは確かだと思います。それはしょうがないし、逆行できない部分だろうなと。
それに今年からは、お客さん同士でコミュニケーションがとれるエリアを考えているんです。その辺もおもしろく思ってもらえたらと。フェス好き、映画好き同士でも「偶然の出会い」があれば嬉しいですね。
――聞いていてすごく行きたくなってしまいました!
ありがとうございます。毎回運営委員会がまず楽しんでやりたいなと思っているんです。このイベントに限らずですが、僕は「自分が面白いと思うものを作ってみて、世の中の人に『いいね』と思ってくれる人がいたらいいなあ」くらいのスタンスで。流行りだからと世間に合わせるのは、あまりやりたくないというか。もっと言ってしまえば、やりたいことでも世間からはおもしろくなくて、人が来なくなったら畳もうかな、ぐらいに考えているんです。
――どうしてですか?
一番プライオリティーが高いのはあくまでコンセプト。大事なのは参加人数ではなくて、コンセプトのスケールアップだなと思っていて。コンセプトや世界観といった要素のファンを作って、結果的にはインディーズ映画を知るという仕組みを作りたいなと思います。まだまだ認知されてないので、知っている人を増やしたいですね。
――なるほど。
可能であれば、これもまた大きな話なんですけど、屋外のシネコンを作りたいですね。アウトレットみたいな感じで、都心から少し離れた場所にあったらおもしろいかなと思います。建物や飲食ブースがあって、野外スクリーンが3つぐらいある、みたいな。究極の長期目標は、宇宙で開催することなんですよ。そういう時代が来れば、無重力で映画を観ることもできるんじゃない?と思います。
――いいですねぇ。今後の活動もチェックしたいです。
◇ ◇
ネットのおかげで情報を取捨選択できる今日だからこそ、人は行かなければわからない場所に興味を持つのかもしれません。夜空の下、自然豊かな場所で、たまたま出会った映画を観る。唯一無二の体験は、インディーズ映画のありかただけでなく、そこに集う人々まで変えることになりそうです。
- WRITER
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鈴木賀子
意志ある人の、レールガン!
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・エンタメ・オタクコンテンツ・自転車・食・地域創生・アート・デザイン・クラフトなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。
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