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金融庁が改定案を発表、日本版スチュワードシップ・コードとは (2017/3/29 企業法務ナビ

はじめに

金融庁の有識者会議は28日、機関投資家の行動原則である日本版「スチュワードシップ・コード」の改定案を発表しました。企業のコーポレート・ガバナンスの実効性を高める上で大株主である機関投資家との対話は欠かせません。今回はスチュワードシップ・コードの概要と改定案について見ていきます。

東京証券取引所

スチュワードシップ・コードとは

多くの株式を保有する機関投資家は資産運用を委託した顧客だけでなく、投資先である企業の中長期的な成長にも積極的に役割を果たすべきであるとの考え方から英国で生まれた行動規範をスチュワードシップ・コードと言います。

日本においてもコーポレート・ガバナンスを強化し企業価値向上に機関投資家がより関与すべきとの考えのもと安倍内閣の閣議決定を経て平成26年2月26日に策定されました。これはあくまで機関投資家のあるべき行動のガイドラインという位置づけであり法的拘束力はもっておりません。

しかし本コードの受け入れを表明した機関投資家は信託銀行、生命保険、投資顧問会社、年金基金等200以上に上り、事実上本コードに沿った行動と対話が求められることになると言えます。以下本コードの具体的な内容について見ていきます。

スチュワードシップ・コードの内容

(1)「機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。」これは顧客の利益と投資先企業の成長を見据え、機関投資家としてどのように役割を果たすかの指針の策定を求めております。自己と顧客だけでなく投資先企業の成長戦略にも寄与すべきとの考えです。

(2)「機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。」機関投資家は多くの顧客から信託を受けて投資先の議決権を行使します。その際、機関投資家自身と顧客、顧客間、顧客と投資先企業といった間で利害が対立することがあります。その際にどのように互いの利益相反を適切に管理するかの方針策定が求められます。

(3)「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。」機関投資家は企業の大株主として、ガバナンス体制、業績、収益、リスク、コンプライアンス体制等、財務面、非財務面の両面において適切に把握できるよう体制を構築すべきというものです。

(4)「機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。」投資先企業の中長期的視点から企業価値を高め、成長を促すためより積極的に対話を行い、具体的にどのような問題が発生すればどのように対話を行うかの方策の策定に取り組むべきというものです。

(5)「機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるような工夫すべきである。」機関投資家は保有株式の議決権の積極的に行使し、その方針についても企業と対話を通じて策定すべきとするものです。

(6)「機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。」機関投資家は、定期的に顧客に本コードについての活動を報告するべきとしています。特に年金基金等のアセットオーナーに対しては少なくとも年に1度は報告を行うべきとされております。

(7)「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するように、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。」機関投資家は投資先企業の成長を促す上で、事業環境等について自らも理解を深め経験を蓄えるべきとしています。

コメント

本コードが策定されて3年経過しましたが、現段階においてはいまだ形式的な対応がなされているに過ぎず、実効性のある運用には至っていないとされております。そこで機関投資家にはより具体的で詳細な指針の策定等を求める内容に改定する方向で案が纏められました。特に議決権行使の際の利益相反対策に重点が置かれていると言えます。

会社法では機関投資家等の「他人のために株式を有する者」は議決権の不統一行使ができます(313条1項、2項)。その際に会社、信託者、機関投資家等の間で利益相反が起こり得ます。その場合には、当事者に詳細に説明をした上で一方との契約を断念する等のより具体的な方針を策定しておくことが望まれます。

またグループ企業内でも株主としての利害が対立しないよう、対象グループごとの管理体制を整えることが望ましいと言えます。業務として株式を保有し運用していく場合には、有識者会議の動向を注視しつつ、できるだけ具体的な指針の策定を心がけることが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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