トランプ氏 三権分立を軽視? 改めて考えたい三権分立 (2017/2/12 JIJICO)
三権分立とは?
自ら署名した大統領令の効力を裁判所が停止したことを受けて、トランプ大統領が、判断した裁判官個人のみならず司法制度への不満を顕わにしているため、三権分立を軽視しているとの批判が出ています。そこで、三権分立について解説してみます。
国家の作用は、法律を定める立法権、法律を執行する行政権、法律を正しく解釈・適用することによって紛争を解決する司法権の3つがあります。これを1つの国家機関に集中させることなく別々の機関に持たせることにより、権力の濫用や恣意的行使を防止することを目的とした原則のことを三権分立(権力分立)の原則といいます。
三権分立によって権力の濫用や恣意的行使を防止
なぜ、権力の濫用や恣意的行使を防止する必要があるのかというと、人間は、生まれながらにして自由(人権)を享有できる主体であるにもかかわらず、国家権力(具体的には独裁者の専制政治)によってこれを奪われ、侵害されてきた歴史的背景があるからです。
近代市民革命は、人間が国家権力によって侵害されてきた本来の自由を取り戻すために起こった出来事であり、三権分立の原則は、このような歴史の中で国家権力が暴走して人間の自由が再び侵害されることがないように創り上げてきた崇高な仕組みなのです。
国家が存在して人間があるのではなく、人間が存在して国家があるのです。人間が生まれながらにして享有できる自由を国家権力によって再び侵害されないように最高法規となる憲法が定められ、その中に三権分立の原則が定められています。国会が作る法律であろうと大統領令であろうと、最高法規である憲法と抵触する場合は無効となります。大統領自身も憲法に拘束されるのですから、憲法と矛盾する大統領令を発することはできません。大統領が、憲法と矛盾するか否かの最終判断を自ら行えるというのでは、自分が憲法だと言っているのと同じであり、憲法を定めた意味がなくなります。
司法権の独立が必要な理由
また、三権分立の原則が依って立つ原理は、国家からの自由という自由主義です。これに対して民主主義は、国家の主役は国民であるという原理です。後者は、国民の多数決によって国家のルールを作るものですが、多数決で決めることは、ややもすると少数者が排除され、本来享有できるはずの自由を奪うことに繋がりかねません。最高法規たる憲法のもとで、これにストップをかけるのが三権分立の原則であり、司法権の独立が必要となります。
このような意味で、司法権は、人間の本来の自由を守るための最後の砦ということができます。行政権は、最終的には司法権の判断に従わなければならないのであり、司法制度そのものを批判してしまうようでは、専制政治の過ちを繰り返しかねない危険を孕んでいるといえます。
- 著者プロフィール
-
田沢 剛/弁護士
東京大学法学部卒業、同年司法試験に合格。2年間の司法修習を経て、裁判官に。名古屋、広島、横浜などの裁判所で8年間裁判官を務め、退官。裁判官として、一般民事、行政、知的財産権、刑事、少年、強制執行、倒産処理などの事件を担当。2002年に相模原市で弁護士事務所を開業。2005年に新横浜にオフィスを移転し、新横浜アーバン・クリエイト法律事務所を開設。現在に至る。オールラウンドに案件を扱うが、なかでも破産管財人として倒産処理にあたるなど、経営問題に辣腕を振るう。
- 関連記事
- 誰が本当の国民の一員なのか ナショナル・アイデンティティの決定要因とは
- 日本よ、もっとアメリカの肉買って! トランプ・安倍会談に食肉団体が並々ならぬ期待
- トランプ大統領の入国制限令、米大学のレベル低下の恐れ 米学会ボイコットの声も
- トランプ政権でどうなる米国経済 現地メディア、識者の見方とは?
- NYの視点:米国のドル政策をめぐる憶測