増税時の落とし穴にも!?消費税の転嫁拒否行為について (2016/11/16 企業法務ナビ)
1 事案の概要
学習指導事業を行うKグループ(以下K)は、自社が契約した生徒に対する学習指導業務を、Aらに継続して委託していた。Kは、Aらに対して、学習指導業務について、学習指導対象の生徒ごとに、消費税を含む額として報酬単価を定め、同単価に一定期間の指導回数を乗じて委託料を算出し、支払っていた。そして、Kは、前記報酬単価について、平成26年4月1日以後も消費税率引上げ分を上乗せせず、同年3月31日までの指導報酬単価と同額に定め、Aらに対して前記の方法で算出した額を支払っていた。
これが、下記の消費税転嫁対策特別措置法3条第1号後段に規定される「買いたたき」に該当するとして、公正取引委員会より消費税転嫁対策特別措置法第6条第1項の規定に基づく勧告が行われた。
※尚、Kは、中小企業庁が本件について調査開始後、前記学習指導業務の委託料について、消費税率の引上げ分に相当する額まで引き上げることをAらとの間で合意し、平成26年4月1日に遡って当該引上げ分相当額をAらに対して支払った。
※なお、本事案では、教室施設等の賃料について、その賃貸人との間でも同種の行為が行われ、上記と同様の事後処理がなされました。
2 消費税の転嫁とは何か?
(1)そもそも消費税の転嫁とは・・・
ア 消費税について
消費税は、物品・サービスの提供について担税力(税負担の能力があること)を見出し、納税義務者を「事業者」と規定しています。一方で、税負担者を消費者とする間接税方式を採用しているため、消費者が負担し、事業者が納めるという関係となっています(間接税方式の採用 cf.直接税~)。
また、製造・卸売・小売といった各取引過程において、各々の段階で生じる付加価値について課税がなされます(多段階課税+付加価値課税の採用 cf.単段階課税)。
イ 転嫁について
上記アによると、売り手(ex.納入業者)側が、価格にこの税負担を上乗せすることが、予定されているものの(このように、税金が価格の一部として移転することを転嫁といいます)、買い手(ex.小売店)との力関係等により、売り手側が適正に上記付加価値分の上乗せができない事態が想定されます。
ウ 「消費税転嫁対策特別措置法」の制定
このような事態を避けるために、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため、買い手側(「特定事業者」)による売り手側(「特定供給事業者」)に対する消費税の転嫁拒否等の行為を規制するため、「消費税転嫁対策特別措置法」が制定されました(※なお、同法は価格の表示方法の規制も含むものです)。
※1「特定事業者」(法2条1項各号の事業者)
・大規模小売事業者
・法人である事業者で、次に掲げる事業者から継続して商品又は役務の供給を受けるもの
-個人である事業者
-人格のない社団等である事業者
・資本金の額又は出資の総額が3億円以下である事業者
※2「特定供給事業者」(法2条2項各号の事業者)
前記※1の特定事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者
3 禁止される行為(法3条)
転嫁拒否等の行為の具体的内容は、以下の通りです。
ア 減額(同条1号前段)
ex.「本体価格に消費税分を上乗せした額を対価とする旨契約していたが、消費税分の全部又は一部を事後的に対価から減じること」
イ 買いたたき(同条1号後段)
ex.「原材料費の低減等の状況変化がない中で、消費税率引上げ前の税込価格に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定めること」
ウ 役務利用・利益提供の要請(同条2号)
ex.「消費税率引上げ分を上乗せすることを受け入れる代わりに、取引先にディナーショーのチケットを購入させること」
エ 本体価格での交渉の拒否(同条3号)
ex.「転嫁拒否をされた事業者が、ア~ウの行為が行われていることを公正取引委員会などに知らせたことを理由に、取引の数量を減らしたり、取引を停止したりするなど,不利益な取扱いをすること」
4 コメント
消費税の構造は一見シンプルに見えるものの、複雑であり、上記の買いたたき行為等は、措置法に対する認識が不十分であったことに起因する場合も少なくないと考えられます。
また、価格競争下におかれる事業者において、税の価格への転嫁は、実質的な値上げとなり、増税後も価格を維持するという判断が止むからぬものという認識が買い手、売り手の双方にあるということも考えられます。何れにしても、行政による積極的な調査等も行われていることから、法務担当者としては、制度理解は必須です。
同じ問題が繰り返されぬよう、現行取引における価格の見直し、将来の増税を見越した準備を、下記リンクでご紹介する行政による説明会等も活用しつつ、進めていく必要があります。
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