元反対派も新滑走路建設推進派に、成田空港のこれからのゆくえ【チャーリィ古庄の航空時事評論】 (2016/11/2 Traicy)
中国人旅行者の爆買いも収まった昨今、政府は引き続き訪日旅行の促進を進めており、外国人旅行者の数は年々増加。2015年には約2,000万人の人々が日本を訪れた。そして東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年には訪日外国人旅行者を4,000万人にするという目標を政府は掲げている。しかしそれに伴った首都圏の空港機能が追い付いておらず、早急な空港整備が求められている。
都心の空港は、今後羽田空港が南風時の滑走路の使い方の見直しを行うことで、1時間あたりの発着回数が80回から90回へと増加するものの、都心上空を通過するため落下物や騒音問題などの反対運動もあるほか、便数は増えても滑走路やターミナルビルが増えるわけではなく、これだけでは訪日観光客増加のペースには追い付かない状態である。
そこで現実味を帯びてきているのが成田空港第3滑走路の建設。一部の人は成田は遠いので羽田の増便を願う人もいるが、現実問題としてもう1本滑走路を羽田沖に作るのは巨額の建設費用、さらなる都心上空騒音問題、混み合う飛行ルート、港湾船舶との調整などもあり難しい。そこで首都圏の航空便の増加を担うのが成田の新滑走路で、用地買収と建設費用を考えても現在最も安価で空港整備ができ増便できる案である。
昨今の羽田の国際化により、ビジネス路線は成田から羽田にシフトした路線や撤退した外資系航空会社もあるが、ここ数年の動きを見ると日系航空会社も成田からサンディエゴ、ボストン、クアラルンプール、ヤンゴン、ブリュッセル、デュッセルドルフなど新路線を開設しているほか、格安航空会社(LCC)を含む外資系航空会社や日系LCCの新路線開設、増便が相次いでいる。また今年10月にはイベリア航空が成田~マドリード線を復活させるなど、成田を発着する便数は毎年右肩上がりで増え続けている。
国際空港なのに開港以来長らく1本の滑走路で運用を行っていた成田だが、2本目の滑走路は2002年の日韓ワールドカップで訪日需要増加に対応するために完成した。そして現在は第3滑走路建設の動きが地元の協力もあり動き始めていると共に、運用時間の延長も視野に入ってきている。現在成田では騒音対策のために朝6時~深夜11時までしか運用ができない。2013年より天候や他社のトラブルなどのやむを得ない状況で遅れた場合、騒音が少ない機材に限って深夜0時までの離着陸が認められているが、これを運用時間を朝5時~深夜1時までに延長する案も出ている。これは昔と比べて主力旅客機が低騒音の新機材に変わり、従来よりも騒音が低減していることによるものだ。
ちなみに筆者は生まれも育ちも東京の下町だが、現在成田空港にほど近い騒音迷惑地域に居をかまえている。実際に住んでみると、都内の方が緊急車両のサイレンや車、鉄道など騒音は多く、空港周辺にいてもウルサイとは感じない。もちろん育った環境や騒音の感じ方は人それぞれなので、私個人の騒音の感じ方を他の住民に押し付ける気はないが、現在成田周辺は「空港の街」として発展を遂げているため、空港の発展そのものが地域の発展でもあり、新しい滑走路の離着陸経路にかかる住居の騒音対策などが行われれば運用時間の延長も充分あり得るだろう。
実際朝6時~夜11時という運用時間の制限があるため、成田に本拠地を置くLCCは1便でも多く運航して便数あたりのコストを下げる事が求められているものの、整備などで少しでも遅延してしまうと夜11時までに成田に着陸できず、欠航や他空港への着陸を余儀なくされる場合が多く、利用者にとっても不便を強いられる。そのため成田を本拠地にするLCCの発展が妨げられているのはとても残念なことである。
また、ある外資系航空会社の例を挙げると、成田を夜に出発するとアジアの国には時差の関係もあり、深夜に到着してしまう。これでは成田周辺住民の騒音は困るが、アジアの国の人の騒音はどうでも良いという理論になってしまう。それなら24時間運航が可能な羽田を使えば良いという理屈もあるが、成田は北米からのアジアへの乗り継ぎ空港という大切な側面もあり、羽田は発着枠が少ないためこの機能を全て担うことは不可能だ。そのため、いきなり成田の24時間運用は難しいとしても、運用時間が延長されれば航空会社はもとより利用者にとっても大きなメリットが生まれる。成田空港には建設反対の歴史があるが、今回は周辺市町だけでなく、元反対派の方々の多くも第3滑走路実現へ向けて協力体制をとっており、今でも一部に反対意見もあるが羽田の国際化の影響で成田国際空港会社と周辺市町も地域発展のために羽田に負けるなとばかりに動き出している。そしてある元反対派の方は「俺たちは反対していたら、どうやったら滑走路ができるかが分かっているんだよ、今は成田を盛り上がるために元反対派は推進派になっているんだよ」と言う。
こうして成田に第3滑走路が完成し東京オリンピック・パラリンピックが成功、そして将来さらなる訪日観光客増加により日本に来た外国人観光客にお金を使ってもらい、ホテルや土産店、バス会社などが潤うことで、日本が真の観光立国になれば国の発展にもつながるだろう。
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著者プロフィール
チャーリィ古庄(航空写真家)
1972年東京生まれ、軽飛行機の操縦資格を持つ旅客機専門の航空写真家。世界で最も多くの航空会社に搭乗した「ギネス世界記録」を持つ。主に国内外の航空会社、空港などの広報宣伝写真撮影、航空雑誌の撮影、キヤノンEOS学園航空写真教室講師などで活躍。2016年には伊勢志摩サミットの特別機機記録カメラマンとして外務省よりパスを発行され世界の要人特別機を撮影した。旅客機が撮れるところなら世界中どこでも撮影に出向き、これまで100を超える国や地域に訪れ、行った空港は500か所以上にものぼる。旅客機関連の著書、写真集は20冊を超える。
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