「住所地特例」って何?介護保険制度の被保険者と保険者 (2016/9/11 介護健康福祉のお役立ち通信)
介護保険の被保険者と資格要件
介護保険では、65歳以上(第1号被保険者)と医療保険に加入している40歳~64歳(第2号被保険者)は、本人の意思にかかわらず強制適用されます。
◇介護保険の保険者は「住民基本台帳上の住所を有する区市町村」
介護保険の保険者は現在の住所の区市町村です。住所とは、住民基本台帳上の住所のことで、住民票に記載された住所のことです。
住民基本台帳法では、外国人でも3か月以上日本に滞在していると適用対象になり、住民票が作成されます。日本国籍があっても海外での長期滞在などで日本に住民票がない場合は被保険者になりません。
◇生活保護を受給している被保険者の場合
生活保護の受給者の場合、住所がないと生活保護が受けられないため、住民票の要件は満たしており、65歳以上であれば第1号被保険者となります。
40歳から64歳の生活保護受給者の場合は、医療保険に加入していれば第2号被保険者となりますが、その数は少ないです。
介護保険の被保険者適応から除外される人
以下のような特殊な施設に入所・入院している方は、長期間の入所をして、その施設が既に介護を提供している事が多いため介護保険の被保険者としないことになっています。
- 指定障害者支援施設 -障害者総合支援法
- 障害者支援施設 -身体障害者福祉法・知的障害者福祉法
- 医療型障害児入所施設(旧 重度心身障害児施設) -児童福祉法
- 国立ハンセン病療養所などの療養病床
- 医療型児童発達支援を行う医療機関(旧 肢体不自由児施設支援を行う医療機関)
- 救護施設 -生活保護法
- 被災労働の受ける介護の援護を図るために必要な事業にかかる施設 -労働災害補償保険法
- 指定障害福祉サービス事業者である療養介護を行う病院 -障害者総合支援法
被保険者資格の取得と喪失
医療保険加入者が40歳の誕生日を迎える前日から、自動的に介護保険の被保険者になります。つまり、40歳になる前日からは介護保険料の支払いが自動的に開始となります。なぜ誕生日の前日なのかというと、年齢の到達について「民法」で誕生日の前日が年齢到達日として定義されているからです。
資格の喪失は、死亡した翌日、住民票を移した翌日(保険者は引っ越しの翌日変わる)、医療保険の加入者でなくなった当日になります。
基本的に、住民基本台帳法の届け出(転入届・転居届・転出届・世帯変更届など)と連動しているため、介護保険の被保険者資格自体はそれらの届け出があれば介護保険上の届け出とみなされます。
住所地特例と対象施設、地域密着事業・地域支援事業
住所地特例制度をイメージしやすいように、2つ例を紹介します。
- 東京都足立区に住んでいた方が、埼玉県さいたま市の有料老人ホームに入所して住所変更した場合
- 東京都足立区に住んでいた方が、埼玉県さいたま市の有料老人ホームに入所して住所変更したあと、埼玉県川口市の特別養護老人ホームに入所して住所変更した場合
◇住所地特例とは
介護保険では、住民票に記載されている住所地の区市町村が被保険者となることが原則で「住所地主義」と言います。しかし、それでは介護保険施設がたくさんある区市町村の介護費用負担が重くなってしまい、区市町村間に財政上の不均衡を生じてしまいます。そのため、住所地特例対象施設に入所・引っ越しするために住民票を移した場合は、移転前の区市町村を保険者とする住所地特例が設けられています。移転前の住所地の区市町村の被保険者とされた人のことを「住所地特例適用被保険者」と言います。
◇住所地特例対象施設
介護保険施設
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設が住所地特例の対象施設です。
特定施設
介護付き有料老人ホーム、養護老人ホーム(行政による措置施設で市町村主体の老人福祉法施設)、軽費老人ホームが住所地特例の対象施設です。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)-2015年から
2014年の介護保険法改正で、有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅は住所地特例の対象施設に加わりました。
◇住所地特例対象外と地域密着型サービスの利用
特定施設や老人福祉施設は住所地特例対象施設ですが、入居定員30人未満の有料老人ホーム・軽費老人ホーム・特別養護老人ホーム(地域密着型介護老人福祉施設、地域密着型特定施設)は住所地特例対象施設ではありません。
2015年(平成27年)4月からは住所地特例施設に住民票があっても、地域密着型サービス(認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、夜間対応型訪問介護など)と、地域支援事業(要支援者など)を利用する場合は、現住所の市町村の指定を受けたサービスを利用できるようになりました。
住所地特例施設を移転・転居で保険者はどこになるか
◇自宅から別の市町村の住所地特例施設に入所したケース
自宅で生活していた要介護認定の方が、在宅生活困難となり違う市町村の住所地特例施設に入所した場合、保険者は入所前に住民票があった市町村になります。
◇別の市町村の住所地特例施設を2回以上移ったケース
例えば、特別養護老人ホームの空きがなく、つなぎで住所地特例の有料老人ホームに入所して住民票をそちらに移したとします。
そして、別の市町村の住所地特例対象の老人ホームに入居できることになり、また住所をそちらに移したとします。
この場合も介護保険の保険者となるのは住所地特例対象施設に入所する前の住所の市町村です。
住所地特例対象施設をいくつ転居してもその前の住所が保険者になります。ただし、その間で住所地特例施設でない親戚の家などに住民票を置いた場合はその住所地の地町村が保険者となります。
国民健康保険(国保)・後期高齢者医療制度にも住所地特例が適用
国民健康保険(国保)の被保険者が転出をして住所地特例対象施設に直接入所する場合は、引き続き転出前の区市町村の国保に加入することになります。
国保は住民登録されている市町村で加入いただくことが原則ですが、住所地特例に該当する施設に入居・入院する場合は、転出先の市区町村で新たに国保に加入する必要はありません。
「後期高齢者医療制度」とは
都道府県ごとに後期高齢者医療広域連合が保険者となり、75歳以上の方と65歳以上で障害認定を受けた方を被保険者とする医療保険制度です。
◇国民健康保険(国保)の住所地特例対象施設
- 病院または診療所
- 児童福祉法に規定する児童福祉施設
- 障害者総合支援法に規定する障害者支援施設
- 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園の設置する施設
- 老人福祉法に規定する養護老人ホームまたは特別養護老人ホーム
- 介護保険法に規定する特定施設または介護保険施設
国の医療費・介護費が増大する中、保険者のリスク分散の仕組みがいろいろあります
いかがでしたか?
今回紹介した住所地特例の仕組みは、介護・医療費が増加する中で、地町村間の不均衡を調整するためにあるものです。
老人ホームなどに引っ越しした場合でも、介護保険費を支払っているのは元の住所の地方公共団体となっていることが多くあります。
普段は気にしないですが、市町村、都道府県、国家で不均衡がないようなお金の流れになるよう、いろいろな制度と歴史がありますね。
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