ヘリウム枯渇危機、一気に解消か タンザニアに巨大ガス田 初めて探知・発見に成功 ニュースフィア 2016年7月1日
ヘリウムは、身近なところでは風船を浮かばせたり、声を変えるパーティーグッズに使用されている。一方、医療、科学、産業などの分野で、代替の容易でない重要な役割を果たしている。需要は世界的に伸びているが、供給側に余裕がなく、近年、世界的な供給不足に見舞われたこともある。近い将来にも、再び供給不足となる可能性が危惧されている。そんな中、イギリスのオックスフォード大学、ダラム大学の研究チームは、東アフリカのタンザニアに大規模なヘリウムガス田を発見した。そのガス田の一部だけでも、世界の年間需要の7倍近く蔵している可能性があり、研究者らは「状況を一変させる」発見だと語っている。
◆ヘリウムガス田自体の探知・発見は実は初めて?
この発見は、日本で開催中の地球化学の学会「ゴールドシュミット国際会議2016」で、28日発表された(インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙=INYT)。ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、ヘリウムガス田をターゲットとして探知、発見すること自体が初めてだという。これまで使用されてきたヘリウムは、全て天然ガスから分離されたもので、石油・天然ガス探査の際に(ヘリウムガスの含有が)偶然発見されるのが典型的だったという。
経済産業省がみずほ情報総研に調査委託した「平成26年度製造基盤技術実態調査 ヘリウムの世界需給に関する調査」(2015年2月、以降「みずほ調査」)によると、これまでヘリウム単独での採掘が行われてこなかったのは、採算性の観点からだという。
しかし需給の逼迫(ひっぱく)などにより、ヘリウムの取引価格は近年大きく値上がりしている。研究チームのメンバー、ダラム大学のジョン・グルヤス教授(地中エネルギー学)は、ガーディアン紙に、「ヘリウムガスの埋蔵地は(何ヶ所も)あるが、それらは非常な早さで枯渇しつつある。価格はこの15年間で5倍になった」と語っている。同紙によると、ヘリウムガスを低い割合で含有する膨大な天然ガス田が、カタールで発見されたにもかかわらず、この価格急上昇が起きたという。「私たちはもっとたくさん発見していかなければならない。ヘリウムは再生も、他で代替もできない」と同教授は語っている。しかし「みずほ調査」によると、一部分野ではヘリウムガスの回収、代替ガスの利用はすでに始まっているそうだ。
◆医療、産業、科学分野でのヘリウムの多様な用途
ヘリウムは沸点が4.2K (セ氏零下268.9度)と極低温で、医療用MRI(核磁気共鳴画像)装置やJR東海の中央新幹線超電導リニア、はたまたCERN(ヨーロッパ原子力研究機関)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)といった設備で、液体ヘリウムが超電導電磁石の冷却に使用されている。INYTによると、LHCでは約120トン使用されている。
「みずほ調査」によると、産業分野では、MRI、光ファイバー製造、半導体製造、リークテスト(漏れ確認)が主要4用途だ。科学分野では、人工衛星やロケットで使用されることがある(BBC)。ヘリウムが多くの機械、産業活動で非常に重要な要素である理由は、主として、ヘリウムが安定しており、他の化学物質と容易に反応しないからだ(WP)。
日本は2012年末、ヘリウムの世界的な供給不足から「ヘリウムショック」に見舞われた。日本経済新聞(2014年の記事)によると、国内ガス会社の備蓄庫からヘリウムが消えたという。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、MRIや核磁気共鳴装置(NMR)などの停止を余儀なくされたそうだ。
CNNは、ここ数年はヘリウムが世界的に不足しており、東京ディズニーランドがヘリウム風船の販売の一時中止に追い込まれたこともあった、と伝えている(2012年11月。2014年に再開)。
◆発見されたヘリウムは世界使用量の7年分?
WPは、世界ではヘリウムが危険なまでに残り少なくなっていると語る。世界的なヘリウム不足は、医療、製造業などに悪影響を及ぼす可能性があったが、研究チームによるヘリウムガス田の発見は、不足の懸念を和らげるのに役立つ可能性があると語っている。
研究チームが発見した場所は、アフリカ大地溝帯のタンザニア領内だった。INYTによると、この地溝帯は地球の構造プレートの1つが裂けている場所で、火山活動が盛んだ。ヘリウムは、ウランとトリウムの放射性崩壊によって生じたものが、通常、岩石の結晶格子の中に蓄えられる。それが火山活動の熱などによって岩石外に放出され、地層内に集まればガス田となる。
研究チームがノルウェーのスタートアップ企業ヘリウム・ワンと共同で試掘し、そのガス田を発見した。WPによると、発見に必要な地質学上の特徴と、探査手法の研究に数年間費やしたそうだ。研究チームは、そのガス田の一部だけでも、埋蔵量が約540億立方フィート(約15.3億立方メートル)に達する可能性があると推測している(CNN)。これは医療用MRI装置120万台以上に充填できる量だという。ガーディアン紙は、パーティー用風船であれば540億個膨らませることができる、と伝えている。なお、ヘリウム不足を心配する一部の医師からは、パーティー用風船でのヘリウム使用禁止を求める声が上がっていたという。
研究チームのメンバー、オックスフォード大学地球科学部のクリス・バレンタイン教授によると、世界のヘリウム年間消費量は約80億立方フィート(CNN)。「みずほ調査」によると、2015年当時、世界のヘリウムの約8割がアメリカから供給されていたそうだが、その米国内の既知の埋蔵・備蓄量は、バレンタイン教授によると合計約1530億立方フィートだという(CNN)。うち、世界最大の供給元である米連邦ヘリウム備蓄所の現在の貯蔵量は、わずか242億立方フィートだという。
研究チームは、得られた知見をもとに、さらに世界中でヘリウムガス田を探すことを期している。気兼ねなくヘリウム風船を膨らませられる日がまた来るかもしれない。