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コンプライアンス (2016/5/17 法、納得!どっとこむ

 企業のコンプライアンス(法令遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)が声高に言われるようになって久しいが、企業の法令遵守に関係した事件などを今回は紹介する。

面談

 ある小売企業で社員による横領事件が発覚した。毎日の売り上げの中からいくらかをレジから抜き取っていたという事案である。それまで売上とレジ精算の金額が微妙に食い違うということがあったようであるが、金額がさほど多いものではないことから放置されていた。これもしっかりとした企業統治ができていれば、その後の横領事件を防ぐことができたかもしれない。

 いずれにせよ、某社員が抜き取っていたことが発覚し、当該社員は即日解雇となった(もちろん労基署への適用除外認定申請・解雇予告手当不支給はされている)。ところが、給料の締日との関係で、2か月分の給料が未払状態となっていた。会社から横領事件の告訴の相談があって分かったことである。

 会社側は、給料を差し押さえたと話をしたので、顧問弁護士が関与しないところで、仮差押えがなされているはずはなく、より詳しく話を聞くと、単に会社が押さえたというにすぎず、裁判所による手続きを経たものではなかった。そもそも、仮差押えができる事案とはいえないが、会社としては、損害を填補するための当然の措置であり、権利であると誤認している。

 納得しがたいことかもしれないが、給料を損害賠償請求権と相殺することは許されないことを説明し、さらに同じ効果を求めるのであれば、元社員との間で示談書のようなものを作成し、そこで相殺合意をすべきであると説明した。

 さて、後日、会社側は示談書を作成してきて、これを検討してくれという。ある種の資格を有している人に依頼して作成したものだから問題はないはずだという。しかし、問題はあった。元社員には、告訴をしないから相殺合意をしろと口頭で説明をしていたようで、示談書の中には、会社側は告訴権を放棄するとの条項があった。告訴権の放棄は最高裁の判例に従う限り許されていないし、何の効果もない。まさか、元社員も放棄されたものと思っているからいいだろうとはいえない。この放棄条項を削除させたことはもちろんである。さらに話を聞くと、もし告訴権放棄条項がなくなったことから、元社員が署名押印しない場合にはどうするかとの話になった。その場合には不本意であっても、給与は支払わなければならないと説明をすると、役員の一人は、そうだとするおかしいことだというがそれは仕方がない。

 そこで私が提案した代替案は、すぐにでも告訴を先行させるということであった。告訴を先行させ「告訴の取消し」を条件として、示談に応ずるようにさせるということである。もちろん、告訴前にもう一度話合いをして、相殺合意をしなければ告訴をせざるをえないことを丁寧かつ優しく説明をして、その同意を得るように努力するように指示をした。決して恫喝的に言うべきでないことも申し添えた。

 話が脱線するが、かつてテレビで詐欺師を追い詰めた弁護士が、警察にいくぞとかなり恫喝的に和解を迫っていた番組をやっていた。品位のないやり方であるし、下手をしたら恐喝すれすれである。最近ではよくCMを目にするが、弁護士の内輪では芳しい評判をきかないし、むしろ悪い噂ばかりであるが。

 さて、くだんの会社の話合いに私も参加をして、懇切丁寧に給料と損害の相殺をしてくれるように説得をし、告訴権放棄はできないからその条項を盛り込むことはできないが、告訴することのないことを口頭で約束し、無事に示談が成立した。

 さて、コンプライアンスの件であるが、結局のところ、会社役員などの、法的知識の欠如ということになろうか。せめて最低限の労基法などの条項は知っておくべきだし、マニュアル本などもあるから、それで調べるということをしていかねば、コンプライアンスを達成することはできないだろう。

提供:法、納得!どっとこむ

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