トランプ氏、本戦見据え“温和な”外交政策を披露 識者「具体性なし」と酷評、有権者は支持 ニュースフィア 2016年5月9日
ドナルド・トランプ氏が4月27日、自らの外交政策についてのスピーチを披露した。保護主義、孤立主義とも言われるその経済政策同様、外交に関してもアメリカ優先の持論を展開したが、メディアや専門家からは具体性がないと酷評されている。その一方で、共和党有権者からの人気は高まっている。
◆外交スピーチは控えめ。イメチェンを意識か?
ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、このイベントは米外交専門誌、「ナショナル・インタレスト」の主催で、各100名ずつの招待客とジャーナリストを招き、ワシントンのホテルで開催された。
お馴染みの保護主義、愛国主義的なテーマを打ち出し、「無謀で指導者のいない目的無き外交」を正すと約束したものの、この日のトランプ氏はいくらか控えめで、メキシコへの不満、イスラム教徒の入国禁止、核拡散の黙認といった話は出てこなかったらしい。かねてからトランプ氏の外交への理解の低さは問題視されており、今回トランプ陣営は、同氏のイメージチェンジに動き出したとのことだ(WP)。
◆ディテールなき外交
スピーチの中でトランプ氏は、中東の混乱、中国の台頭、ロシアの敵対心、アメリカの権威失落は、すべてオバマ大統領に直接の責任があると批判。もし自分が大統領になれば、友には報い、イスラム国を破壊することも含め、敵は罰すると述べた(WP)。さらに、自身の外交政策は、つねにアメリカ国民、アメリカの安全を何よりも優先するものだと説明。敵への抑止力としての軍備増強に言及するとともに、同盟国は米軍の提供する防衛に対し、アメリカの負担軽減のため、さらなる対価を支払うべきだと述べ、異論がある国には、自主防衛をさせるしかないと主張した(ロイター)。
このようなトランプ氏の外交観に、政治家や識者からは批判が噴出している。リンジー・グラハム米上院議員は、「支離滅裂な思考に取り巻かれた孤立主義で、我々が直面する脅威への理解の欠如を表している」、「誰がトランプ氏の外交アドバイザーかは知らないが、なぜその人物が名前を明かさないかは分かるというものだ」とツイートしている。米シンクタンク、戦略国際問題研究所の中東プログラムディレクター、ジョン・アルターマン氏は、トランプ氏のスピーチには戦略と呼べるほどの十分なディテールがないとし、トランプ氏は「夢を売っており、いまだにプランがない。彼は営業マンだが、だれが設計者でだれが建設を手掛けるのか全く示してはくれない」と述べている(ロイター)。
◆海外の評判は?
「アメリカ・ファースト」の外交を語ったトランプ氏だが、その分他国を不快にさせる発言を連発しており、その外交能力は問われるところだ。トランプ氏発言への各国の反応をCNNが紹介し、その不人気度を報じている。
トランプ氏に核開発を批判されているイランのロウハニ大統領は昨年12月に、そもそも共和党候補者は議論はするがだれも地図上のどこにイランがあるのか知らないのではないか、と嘲笑している。他国の核兵器を語る前にその国の場所ぐらい確認しておけ、というのがロウハニ氏のつっこみらしい(CNN)。
イラクでのミスがイスラム国を作り出したとし、オバマ政権の対応が生ぬるいと主張するトランプ氏に対し、世界がテロと戦っているときに、選挙に勝ちたいトランプ氏が無責任な発言をしているとイラクのアルアバディ首相が批判している。また、イスラエルは友達だというトランプ氏に対し、ネタニヤフ首相は、「我が国はすべての宗教をリスペクトし、すべての国民の権利を守る」と声明を出し、イスラム教徒を差別するトランプ氏の意見を拒絶した。「まぬけ」、「親父の金でアメリカの政治家をコントロールしようとしている」とトランプ氏に言われたサウジアラビアのアルワリード・ビン・タラル王子は、「共和党だけでなく全米の恥だ。勝ち目はないから選挙戦から降りろ」とツイッターで反撃している(CNN)。
◆有権者からの人気は衰えず
内外から批判が集まるトランプ氏だが、直近の5つの予備選を制し、いまやヒラリー・クリントン氏との本選に照準を合わせつつある。本当に大統領になる可能性も現実味を帯びてきただけに、この外交政策で大丈夫かといささか心配になるが、有権者からの人気は依然として高いようだ。
ロイターによれば、今回のスピーチに対するツイッター上の反応は1分間に100ツイートほどあり、否定的なものよりも肯定的なものが上回ったという。また、NBC News/SurveyMonkeyによる最新の調査では、共和党および共和党寄りの有権者における同氏の支持率が、初めて50%を超えたということだ。