米大統領選:賛否両論のスーパーPACが流れを変えるか? 700億円超の誹謗中傷合戦が本格化 ニュースフィア 2016年2月19日
米大統領選の戦いがますますヒートアップしているが、その裏で巨額の資金が動いている。通常は個人や団体からの献金が選挙活動に充てられるが、候補者の選挙運動とは別途に、独自の活動で候補者の援護射撃をする「スーパーPAC」という団体が、選挙戦に影響を及ぼしている。
◆候補者とは無関係。献金額に制限なし
大統領選の資金源として上げられるのは、各候補者への個人献金と、PAC(Political Action Committee政治行動委員会)という候補者の当選や立法議案の成立を援助するため組織された、政治資金団体を通しての献金がある。FEC(連邦選挙委員会)の規則では、候補者への直接献金は1人2,700ドル(約30万円)、PACへの献金は1人5,000ドル(約57万円)まで。企業、団体からの政党、政治家への直接献金は禁じられている。
ところが、企業、組合、個人が、「候補者やその選挙運動から独立した団体」に献金する場合は、金額に上限はない。スーパーPACはこの団体に当たり、選挙運動に直接資金援助をしたり、候補者と連携して行動することは許されないが、集めた資金は広告宣伝を中心とする、特定の候補者への支援活動に投じられている。2012年には、スーパーPACは総額6億ドル(約700億円)以上を大統領選に注入しており、今年はそれを上回る額が予測されている(米ヤフー・ニュース)。
◆本選を前に集中砲火
スーパーPACのなかで最も有名なのは、ヒラリー・クリントン氏を支持する『Priorities USA Action』と、ジェブ・ブッシュ氏支持の『Right to Rise』だろう。ニューハンプシャー予備選で勝利したバーニー・サンダース氏、ドナルド・トランプ氏の衰えない人気が、両スーパーPACに火をつけたようだ。
ワシントンポスト紙(WP)によれば、『Priorities USA Action』は、本選で活動を本格化する作戦だったが、サンダース氏を封じようと、今後の予備選や党員集会のため500万ドル(約5億7,000万円)を投入。早期のアフリカ系、ラテン系(ヒスパニック)、女性票の取り込みが狙いで、サウスカロライナ州ではラジオ宣伝で民主党正統派としてのクリントン氏をアピールする。
一方、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、共和党本流候補のライバル、マルコ・ルビオ氏とジョン・ケーシック氏へのネガティブ・キャンペーンに集中してきた『Right to Rise』は、ニューハンプシャー州予備選後、標的をトランプ氏に変え、サウスカロライナ州でテレビCMによる猛攻をしかけている。いまだブッシュ氏の浮揚にはつながっていないものの、『Right to Rise』は昨年11月の時点ですでに3,200万ドル(約37億円)を同氏支持に注入していると、ウェブメディア『Slate』は指摘している。
◆サンダース氏には悩みの種
米ヤフー・ニュースは、スーパーPACの在り方には、賛否両論あると述べる。CM等が送るメッセージは言論の自由にあたるとし、スーパーPACの活動に賛成する人もいれば、巨額の寄付をする金持ちの声ばかりが届くとし、反対する人もいる。
平均1人27ドル(約3,000円)の少額献金をオンラインで募り、クリントン氏を上回る勢いで資金を集めるサンダース氏は、票を買うための金の力のシンボルであるスーパーPACを嫌い、自分はそれに頼らないと宣言(WP)。しかしアトランティック誌によれば、サンダース支持者のなかには、スーパーPACに賛成する意見もある。
看護師の組合である『National Nurses United』は、サンダース氏のためにスーパーPACを設立し、すでに55万ドル(約6,300万円)を広告などに費やした。同団体の事務局長、ローズアン・デモロ氏は、「バーニー支持の気持ちを知らせたい看護師たち」の活動だとし、大金持ち、企業から無制限に流れる莫大な額の金と結び付けられている、腐敗したスーパーPACとは別物だと主張している(アトランティック誌)。
このような熱烈な支持者の動きには、サンダース氏も困っているとアトランティック誌は指摘。自らの信条や公約に合わないスーパーPAC設立を速やかに断らなければ、票を失うことにもなりかねず、かといって厳しく批判すれば、大切な味方を遠ざけることにもなるからだと説明する。支持者の中からは、大金から距離をおくサンダース氏にとって、今後の選挙戦が不利になるという指摘も出ており、対応に苦慮する問題となっているようだ。
2016年の長い選挙戦は、時間とエネルギーと、特に金が必要だと米ヤフー・ニュースは述べる。スーパーPACがどのように影響するのか、今後の戦いに注目していきたい。