地域の人から「相談してもらえる」存在に――新潟佐渡島に赴任した地域おこし協力隊の斉藤千里さんが1年目を振り返る (2016/1/13 マチノコト)
様々な地方自治体で募集され、その自治体に移住・住民票を移し、一定の期間(おおむね1年以上3年以下)、地域を盛り上げるべく様々な活動を行う「地域おこし協力隊」。
実際、現地ではどんな活動をしているのでしょうか?今回は、地域おこし協力隊の一つのケースとして、新潟県佐渡市で活動する斉藤千里さんにフォーカス。
新潟での地域おこし協力隊として活動
斉藤さんは、新卒で都内のマーケティング・PR会社に入社。会社に勤務する一方、休日を使って「理想の生活が出来る」様々な土地を周り、その中で訪れた佐渡市の環境(海の近さ、自給自足が出来る、国内外からその環境を満喫している方が集まってきている)に惹かれ、移住と「地域おこし協力隊」への応募を決意。選考に合格し、2015年3月から活動を開始しています。
斉藤さんのメインの活動は、佐和田という地区の商店街の活性化。それ以外にも、地域の課題・要望に応じて企画を実施・提案していきます。
最初の大きな企画として、2015年10月、ハロウィンに合わせて佐渡の4飲食店(ホテルのラウンジ、ダイニングバー、焼き鳥店(居酒屋)、スナックを男性5,500円・女性4,500円のチケット制)で飲み歩きが出来る「飲食店解放区」の開催を実現しました。
今回は斉藤さんに、「飲食店解放区」開催の経緯と、日頃の活動、「地域おこし協力隊」として活動している中で感じる課題や大切にしている点について、お話を伺いました。
島内のお客さんの循環を良くしていく「飲食店解放区」
――「飲食店解放区」を企画したきっかけは何ですか?
斉藤さん:それぞれの飲食店には固定のお客さんはついているけれど、島内のお客さんの循環があまり良くないという話をお店から聞いていました。佐渡島といっても広いので、違う地域に行こうとすると車で移動しないと難しいので、なかなか島内でお客さんの動きが循環していくということが難しかったんです。
眺めの良いホテルのラウンジで、宿泊客以外(地元の方)でも珈琲を飲めるサービスを行ってみたけれど、敷居が高いと、地元の人が入ろうとしない、自分とは関係ないって思っちゃうんですよね。
他にもスナックだと、そのスナックのママが「女の子が来たら、相談のってあげるから!」という気さくな若い方なのですが、「スナックだとおじさんばかりじゃない?」と思われてなかなか足を踏み入れづらかったりとか。それぞれの店舗が「新しいお客さんを開拓したいけど、どうしたらいいか?」という課題を抱えている中で、相談を受けたことがきっかけです。
――成果と、今後の構想などがあれば教えて頂けますか?
斉藤さん:イベント当日は、34名の方に参加頂きました。参加者から「長年島に住んでいたけれど、住んでいる地域以外のお店は、ほとんど行った事がなくて、イベントをきっかけに新しいお店に出会えて楽しかった」という声もありました。
また、参加したお店の方々も「こういう企画が出来るんだと勉強になった」とおっしゃっているので、これからはそれぞれのお店独自の発信で、実現する企画が増えていったらいいなと思っています。
このフレームワークで、佐渡島内のいろんな地域で継続していけたらいいなとも考えています。今回は島内の方をターゲットにしていましたが、例えば、夏の観光シーズンに合わせて、観光客の方が「夜ご飯どこ行こうか」って考える時に何軒も回れるような、そんな企画にしてもいいかもしれないですよね。
補助金申請から視察研修まで、商店街の活性化をサポート
――まずは直近のイベントとしての「飲食店解放区」について伺いましたが、普段はどのような活動をされているのですか?
斉藤さん:担当しているのが佐和田という地区の商店街の活性化なので、そこでの活動がメインになります。
商店街の新規事業に向けて、公共機関の補助金認定を受けるための申請書を商店街で作成しているのですが、より具体的な事業計画が必要になってくるので、その話し合いを商店街の方々と進めています。
新潟県内の先進商店街(十日町・高田市)への視察研修も行いました。商店街の収益事業やイベント事業について、視察先の商店街店主と佐渡の商店街店主が直接話をする姿がとても印象に残っています。自分たちと同じような立場、年齢の人がここまで頑張っている姿に感銘を受けたようで、より「商店街の活性化」が、身近に自分ごと化するきっかけにもなったようです。
また、商店街全体で収入を得られるように、空き店舗を活かした商店街全体で企画運営する店舗を作ろうとしています。これまではアイデアを持ち合って話し合うという場が少なかったので、そういう場をちょっとずつ増やしていこうという話もしていますね。
商店街の活動について、近隣の方へのアンケートを行い、その集計結果をチラシ化して、商店街の大きなイベント当日に来場者へ手渡しで配布したりといった、地道な活動も行っています。
――そうした活動を続ける中で、佐渡に来るまでに予想していた点、予想外だった点があれば教えて頂けますか?
斉藤さん:「地域おこし協力隊」の存在について理解している方は、島内でもまだまだ少ないです。私がどんな活動をしているかはもちろん、何をお願い出来るか・相談出来るかが分からない、ということは多かったです。
そういう中で「こんな企画が出来ます」「広報が出来ます」「様々な制作物を作れます」と実際に見せていくことで「なるほどね、こういうことが出来るんだ」「こういうことが相談出来るんだ」と徐々に相談してもらえるようになったかなという実感はあります。
――「相談してもらえる」存在になれるかどうか、ということですね。
斉藤さん:協力隊の活動として大事なことは、その地域の小さな課題を真摯に受け止めて、地域の人と一緒に考えて、「こういうことが出来た。またこんなことやりたい」とか「もっとこうしていきたい」と心が変わっていくことの手助けだと思っています。
ただ、活動を近くで見ていた方たちは、小さな変化や、地道な活動過程を見てくださっているのでそうは思わないけれど、どうしても任期内での分かりやすい成果・結果だけの判断で見られてしまう…そんな事も多くあるそうです。
地域活性は、進むスピードもかかる時間も、結構かかるものである一方、任期という期限の中での成果も問われる。その点のバランスをどう捉えていくか、これから試行錯誤していかなければいけないです。
まずは、佐渡を盛り上げたいという方がいたら是非協力隊に「声をかけて」ほしいと思っています。もちろん、協力隊のメンバーはその地域に強い関心を持って来ているので、その熱量だけで何か企画をすることも出来るけれど、地域の人が「自分たちには関係ない」と思ってしまっては続かないものになってしまいます。
あくまで、その地域の人が主役になる企画をしていきたいですし、今は小さなことからでも課題や期待に応えていく積み重ねをしていきたいですね。
「飲食店解放区」でも商店街の活動でも、あくまで主役は地域の方々、自らはサポート役として、その地域が活性化するきっかけ・仕組みづくりをしていくという一貫したスタンスで活動している斉藤さん。
今回の取材で特に印象に残っているのは「地道に活動して、信頼・相談してもらえる存在になりたい」ということ。“地域活性化”は、どうしても大きな成果に目がいきがちになりますが、まずは地域の方々との信頼関係と、地域の方々が自ら動いていけるようなきっかけづくりこそが大事なのだろうと感じました。
- IchikiTakato
市來 孝人/Web編集者・ライター・DJ。「ラジオを通して街を盛り上げる」取り組みをしたいと考え、かねてから興味のあった街・福岡で「福岡移住計画ラジオ」(天神のラジオ局「COMI×TEN」にて)を企画、DJとして出演(~2015年9月)。その後は各Webメディアに舞台を移し、福岡に関わる「人」を取材。 福岡でのラジオや取材などをきっかけに、”街”に密着した取り組みへの関心を強める。 @takato_ichiki