八丁味噌の老舗を“排除”したGI登録、あなたのまちの名産品は大丈夫? (2018/3/15 政治山 市ノ澤充)
400年続く岡崎の八丁味噌
宮崎あおいさん主演のテレビドラマ「純情きらり」の舞台となった八丁味噌の産地、愛知県岡崎市。市内には、およそ400年にわたり八丁味噌の生産を続ける合資会社八丁味噌(株式会社カクキュー八丁味噌)と株式会社まるや八丁味噌があり、「八丁味噌協同組合」(以下、八丁組合)を構成しています。
一方、岡崎市を除く愛知県内にも中利株式会社や合資会社野田味噌商店など八丁味噌を生産する6社が「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」(以下、県組合)を結成しており、こちらの生産開始時期は100年近く前から10年ほど前までと幅広く、生産方法においては使用する桶や熟成の方法・期間など、八丁組合の方がかなり厳しい要件を定めています。
元祖抜きのGI登録に不服申し立て
この両者が、農林水産省の「地理的表示(GI)保護制度」登録をめぐって争い、昨年暮れに結論が出されました。2015年6月に両者から申請を受けた農水省は、地域内で争いがある限り登録を認めないとの見解を示し、八丁組合は過去の商標出願における「拒絶査定」のような事態は避けたいと、2017年6月にGI申請をいったん取り下げました。
そして、その半年後の2017年12月、農水省は片方が申請を取り下げたため争いはなくなったものとして、申請を取り下げなかった県組合をGI認定。これに対して八丁味噌の元祖を自認する八丁組合は3月14日、元来の八丁味噌がもつ地域性や製法、品質が損なわれるとして、農水省に対して不服審査請求を行いました。
GIの趣旨に反する決定―重徳衆院議員
このような事態を受けて、愛知12区(岡崎市・西尾市)選出の重徳和彦 衆議院議員は、「どちらが地域に密着し、より長い年月をかけ、伝統製法を守って品質を維持してきたかは一目瞭然です。八丁組合の2社が県組合に加入すれば八丁味噌を名乗ることはできると農水省は言いますが、それこそ本末転倒というべきです。地域の特性を活かし、伝統的な生産方法によって特別な品質を維持する名産品を保護するという制度の趣旨に反しています」と憤りを隠しません。
決定の過程も判断基準も不透明
また、重徳議員は「農水省は有識者による検討の結果、県組合の商品を八丁味噌として認定・登録したと言っていますが、その議事録は非公開で、有識者と言われる人たちの判断基準も明らかにされていません」とGI登録決定の過程に疑義を呈し、当事者が納得できないまま登録されてしまう制度自体の問題点を指摘しています。
地域の文化を育んでこその地方創生
不服審査請求が退けられると、八丁組合には「先使用権」があるため国内での販売等は続けられますが、先使用権は取引先には及ばないため、老舗2社から八丁味噌を仕入れて「八丁味噌○○」といった加工品を製造・販売している企業は、県組合の企業に仕入先を変えないと継続販売できなくなります。さらにEUとのEPA(経済連携協定)が締結されると、EU圏内では老舗の2社も八丁味噌を名乗ることが許されなくなります。
重徳議員は不服審査請求について、「八丁組合は、他社を排除しようとしているわけではありません。八丁味噌には、長い歴史の中で培われてきた生産方法と独特な品質があります。その伝統を正しく継いでいくために、GI保護制度の趣旨に則った裁定をお願いしたい」と述べており、岡崎市議会も国に対して意見書の提出を検討しています。
地域の文化を育んでこその地方創生
伝統文化として地域に根差した名産品をどのように守り育てていくかは、地方創生においても重大なテーマの一つと言えます。地域内または地域間の争いを解決するには時間がかかりますが、公平な立場で丁寧な合意形成を支援するのも行政の役割です。今後、同様の争いが起こらぬよう、申請から登録までの過程を可視化し、判断基準を明確に示すことが望まれます。
皆さんの地域の名産品は、大丈夫ですか?
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