花粉症はなぜなくならない!?膨らむマーケットと失われる生産性 (2018/3/9 日本公共利益研究所 代表 西村健)
ハーックション
目がかゆ~い
鼻がむずむず~
またこの季節がやってきた。各地に猛威を振るった大雪や寒さの厳しい冬が過ぎて、春がやってきたと喜び勇んだ人も多いだろう。春一番が吹き、春の息吹を感じられる一方、花粉が舞いはじめた。
皆さんの中にも、長年苦しんでいる方がいるかもしれない、お友だちにも花粉症という方が数多くいるだろう。相当の人が悩まされているように思える。
まさに「国民病」。
私は幸運にも花粉症ではないが、なぜ何年も皆が悩まされるのか、なぜ行政は問題解決ができないのか、いろいろな事情が複雑に絡んでいるのだろうとこれまで不思議に思ってきた。
しかし、被害を訴える友人が年々増えるにつれ、なんとかならないかという思いを強くするようになった。
実は定義はあいまい
花粉症の正確な定義はというと・・・・
- 体に入った花粉を異物と認識し、その抗体を作って排除しようとする反応
- 具体的には、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、嗅覚異常、目のかゆみや涙が出る、耳のかゆみ、皮フのかゆみ、頭痛、せきの発作、微熱、だるさなども
- 病名ではなく、症状
となる。きわめて多義的である。現れる症状も幅広い。
医師に聞くと、アレルギー性鼻炎と診断されてしまうことも多いそうだ。鼻炎、風邪との境界があいまいで、どちらかに診断されてしまうこともあるらしい。さらに、重症と軽症に幅がある。
花粉症というのは、患者の心身に現れる様々な個別の状態変化のことで、正確には「花粉病」ではない。
目がかゆい、涙、目の充血というのは軽い症状レベルで、喉のかゆみ、咳、鼻づまりによる頭痛、鼻や喉の炎症反応による微熱、だるさという「症状」になるとまさに花粉症。その症状が悪化すると、睡眠不足、集中力欠如、イライラ感、食欲不振等も生じてくるそうだし、うつなど心理的影響までもある。そこまで行くと、大変な事態であるが。
苦しむ人はどれくらいいるのか?様々な説がある。
- アレルギー性鼻炎総患者数(花粉含)66万人
- スギ花粉症有病率26・5%
- スギ花粉症だけで1500万人以上
- 花粉症総人口は2000万人、有病率29.8%
などなど、その被害レベルもさまざまである。どの情報が正しいのかさっぱりわからない。そもそも全国的な調査も少ないので、数字もばくっとしたものになる。花粉症は抗アレルギー薬など医者に受診しなくても買えてしまうため、全体像をつかみにくいそうだ。
中には、第2回『花粉症意識・対策実態調査』(アサヒ飲料実施)によると
- 5500万人が花粉症自覚症状者
- 「花粉症対策」にお金をかけている人は花粉症自覚症状者全体の80%
- 金額の1カ月平均は2,300円/月
という驚愕の結果まである。
なぜ花粉症がなくならない?
原因は高度成長期のスギの植林とわかっている。しかし、なぜ問題解決が進まないのか。
まずは背景から見てみよう。花粉症の原因とされているスギ。花粉症問題の根源、いや起源は、高度経済成長期にある。当時、住宅建設需要が急増し、住宅用の建材が需要を増やした。木材需要量の増大に対して、行政は植林を奨励。そこで、スギ・ヒノキの植林、「ブナ退治」が行われた。このようにしてスギの木が各地で植林されていったのだ。伐採された木材は住宅用建材・パルプ・木材チップなどとして使われていった。
それでも供給が足りなかったので、外国材輸入制限枠を拡大、さらには、自由化することにして対応。そういう流れで外国材を輸入するようになったのだが、これが想定外の結果を生んだ。外材の競争力が高く、国産材が売れなくなったのだ、結果、国内の林業は儲からない産業となり、衰退。間伐すらままなくなり、「林業」とはいえない今の状況に至る。
まとめると以下の図1のようになる。
住宅メーカー、業者は国産材より外材を選択したわけだ。経済的にみて合理的な行動である。ただし、間伐できないため、下生えがなくなり、地表の栄養を含んだ土は雨で流れる、地盤が緩くなる、スギの成長も止まるなどの自然環境への影響も言われている。
そして、成長したスギの木が花粉をまき散らし、現在それが国民に猛威を振るっている現状。
まさに高度成長の負の遺産。
続いて、関連市場規模が500億円とも1000億円ともいわれる規模になってしまったこともあげられる。製薬会社も研究開発に相当の投資をしたわけで、その意味でありがたい限りだが、ここまで売上があると「花粉症撲滅に向け立ち向かう!」などとは、CSR報告書などには書けないだろう。さすがにここまでくると、問題解決を進めることは、利害関係が確立している今、難しい。撲滅を掲げた政治家さんが、本気で取り組むことに政治的なリスクも発生する。
問題解決が進まない理由
そもそも行政や森林関係者に対して、「先送りをしている!」と行政を批判するのは簡単だが、彼ら・彼女らも頑張っている。徐々にではあるが予算の範囲内で、花粉症対策事業や植林を進めている。担当者の問題意識も強いし、しっかりした現状認識を持っている。しかし、予算がふんだんにはつけられない事情があるのだ。
そもそも林を植え替えるのには時間がかかる、成果が出るのに時間がかかるというのが前提だ。そして、どうしても重要性が低い。
どういうことか、多くの人が困っているが、人の生死にかかわるものではないため、予算の優先順位が低いのである。つまり、花粉症で人が死なないのだから、もっと重篤な病気の対策にお金を使え!となってしまうのだ。多くの人に広い範囲で、薄く軽度な被害がある、こういうタイプの事象はたいていこうした状況に置かれがち、その典型である。
経済的な問題も莫大
現在、働き方改革が求められる中、
- 働いている花粉症の人に生産性の損失を金額換算:1日当たり平均5949円
- 「花粉症を理由に休んだことがある」が4.9%、「風邪など他の病気を理由にして休んだことがある」が9.7%
という結果もある。すでに個人が我慢すればよいというわけではないレベルになっている。そもそも原因が明確にもかかわらず、対処しない段階で「我慢せよ」というのは行政の怠慢だといわれても仕方がない。医療費については次回に譲るが結構な金額になっている。
法律ができた!
平成27年12月に施行された「アレルギー疾患対策基本法」という法律がある。
筆者が罹患するアトピー性皮膚炎のほか、アレルギー性鼻炎、気管支ぜんそく、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーの6疾患について行政が医療機関の整備、予防・治療法の開発、学校での教育などに取り組む努力義務を定めている。
自治体の仕事をしている私ですら当時は知らなかった(恥ずかしいけど)が、とってもまともな法律である。
しかし報道では、アレルギー疾患対策基本法で定められた6疾患すべてで、対策を進めている自治体は全体の1割にとどまっているらしい。
このままでいいのだろうか。専門家に言わせると、花粉症が低年齢化している傾向があるといわれている。そして、花粉量はアスファルト上だと飛散する。
自治体には花粉症対策に本気で取り組んでもらいたい。本気で取り組む自治体があれば、我々は喜んで協力する。本気で取り組めば、成果(アウトカム)として、花粉症の罹患率の減少はもちろん、苦しむ人の生活が改善する。住民満足度や定住の際の市のイメージや評判にも大きく寄与するだろう。
内閣府地方創生人材支援制度の派遣者であった筆者から見ても、定住促進やシティプロモーション、シティセールスなどに取り組むより、地方創生としては相当のインパクトがある。
そもそも皆が待ち望んでいた解決を、公共機関・企業・住民が協働して挑戦できる(新しいまちづくり)という意味で行政の信頼を取り戻すことになる。花粉症対策に取り組む自治体は、住民満足度も高まり、「花粉症対策の町」としての「価値」は目に見えない形で出てくるであろう。
◇
【注意】筆者は政策データ分析の専門家ではありますが、医療の専門家ではありません。また本記事の内容は所属機関とは関係なく西村個人の見識に基づくものです。お問い合わせなどはkenchanomnimedia@gmail.comまでお願いします。
西村 健(にしむら けん)
1975年生、東京都杉並区出身。人材育成コンサルタント、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII)代表。組織改革、人事評価、人材育成、キャリアカウンセリングが専門。JIPIIでは行政評価、人工知能、公共性の専門家としてソーシャルイノベーションを進めている。
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