満員電車ゼロ、2階建て車両で小池都知事の公約は実現可能か (2016/10/27 政治山)
豊洲移転問題や東京五輪の会場移転問題の対応に追われる小池百合子東京都知事。7月の選挙公約では、「満員電車をゼロへ。時差出勤、2階建通勤電車の導入促進」という知事肝いりの政策課題も盛り込まれていました。
ストレス社会の一因ともいえる朝の通勤ラッシュが解消されれば、首都圏に住む多くのサラリーマンにとって朗報ですが、満員電車の緩和は本当に進むのでしょうか。
2階建通勤電車は過去に失敗例も
何といっても興味深い提案は「2階建通勤電車の導入促進」です。なるほど、単純に電車が2層になって輸送客数が倍になれば、通勤ラッシュもかなり緩和されそうです。着想のヒントになったのは、小池知事自ら本の帯で広告塔となっている阿部等著の『満員電車がなくなる日』(角川SSC新書)のようです。
著書の中で阿部氏は車両を2階建てにしてデッドスペースを有効活用し、ホームも2階建てにすることで輸送力が2倍になると提案しています。しかし地下鉄でこのような整備をすれば莫大なコストがかかるだけでなく、ホームを2階建てにすることで、かえって駅ホームが混雑し動線が複雑化する懸念もあります。
参考となる試みがJR東日本で1992年に運行されました。215系の2階建て電車が、通勤用の電車「快速アクティー」に導入され、10両編成で総座席数が1010席ありました。豊富な座席数が混雑解消につながると期待されましたが、結果は芳しくありませんでした。
利用客からは概ね好評だったものの、各車両片側2ドアなどの車体の構造上の問題で各停車駅での乗降に時間がかかり、遅延が目立つようになりました。また、熱海方面への行楽客を特急「踊り子」に移行させて増収を図る目的もあり、215系は2001年12月1日のダイヤ改正でアクティーの運用から撤退し、湘南新宿ラインに運用の場を移しました。
アクティーは現在、普通列車と同じE233系が10―15両編成で運行され、グリーン車のみ2階建てで、2両連結しています。湘南新宿ラインもその後215系は撤退し、2階建て車両はグリーン車で活躍しています。
JR東日本が現在導入している2階建て電車は、東海道線や横須賀線、宇都宮線、高崎線などのグリーン車が中心で、乗車時間に比較的ゆとりのある路線で活躍していますが、山手線のように乗車時間が平均10分程度の路線に2階建て車両は不向きとみられます。
ワイドドア導入などで乗降時間を短縮するのが現実的?
地下鉄に導入するとなれば、莫大なコスト負担になるだけでなく、通勤ラッシュ時には2分間隔で次の電車が来るような路線で導入すれば、1両での乗降トラブルが路線全体の大きな遅滞につながりかねません。2階建て電車となればカーブや急停車による事故のリスクも増し、輸送人数が多い分だけ被害者も増える可能性が高くなります。
現在の有効な混雑対策としては、1両あたりのドア数増加や、ワイドドアの導入などで乗降時間を短くすることで過密ダイヤの遅滞を少なくしています。このほかに、通常時間帯では8両編成のところを、1部時間帯だけ10両編成に切り替えるなどして輸送力を強化して乗り切っているのが現状です。
1度に運べる人数を詰め込んで危険性をいたずらに高めるよりも、午前8時前後の最も混雑する時間帯での過密ダイヤを遅滞なく運行できる工夫をすることが優先事項といえます。この時間帯の乗降時間が遅れると、あっという間にホームまで大混雑になってしまいます。
都心部からの帰宅時間帯は17時から21時まで比較的ばらばらで出勤時間帯ほどの混雑ではありません。最も混雑する午前8時前後の一部路線の混雑を解消するためのハード面での対策は、上記のようにドア数増加やワイドドアの導入などにより、一度の輸送量ではなくダイヤの遅滞をなくす努力に全力を挙げることが現実的と考えられます。
フレックスタイム奨励で通勤ラッシュ解消も
こうしたハード面の改善と同時に、フレックスタイムやホームオフィスの奨励といった働き方の多様化を促進し、ソフト面を改善することが現実的といえます。
一部の鉄道会社では、ピークの時間帯を避けて出勤する利用客に対して、買い物等に使えるポイントを付与するなどの施策を実施しています。このような取り組みを強力に支援することでラッシュ緩和につなげることも可能です。
小池都知事は環境大臣のときに、夏期にネクタイを着用しないクールビズを導入し、体温を下げることで室内温度も抑え、ヒートアイランド対策にもつなげた実績があります。実績があるこうしたソフト面での政策で実力を発揮できれば、大きな改革の成果として有権者の支持を得ることとなりそうです。
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