[企業による復興支援の5年]地域と向き合う企業力、東北から全国へ  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   [企業による復興支援の5年]地域と向き合う企業力、東北から全国へ

[企業による復興支援の5年]地域と向き合う企業力、東北から全国へ (2016/3/20 東北復興新聞

関連ワード : 地方創生 災害 福島 

企業にとって復興支援を続けることは、東北の枠にとどまらず、地域とどう向き合っていくかという命題に挑むことでもある。それを裏付けるように、5年を経た今、東北で培ったノウハウを全国各地に波及させようという動きが出てきた。連載2回目は、企業と地域の関係にスポットを当てる。

グーグル

あの日から5年を前にした3月7日、都内で復興支援に熱心な企業関係者らがディスカッションを繰り広げていた。主催したのは、インターネット検索大手のグーグルだ。「震災から5年 未来への記憶、未来への学び」と題し、企業による復興支援のあり方を改めて見つめ直そうと企画した。またこの日は、自社を含む企業各社の活動とその「学び」を記録したWebサイト「未来への学び」も紹介。グーグルは自社だけにとどまらず、企業による復興支援の価値を広げる活動も積極的に行っている。

そんな同社が東北で仕掛けた新たな取り組みの1つに、新しいチャレンジに取り組む被災事業者と、それを応援したい外部のプロフェッショナルな人材(サポーター)をマッチングさせるクラウドプラットフォーム「イノベーション東北」がある。

2013年5月の公開後、新商品の開発からブランディング、ネット販売、海外進出まで幅広いマッチング事例を積み重ねてきた。津波で店が流失した宮城県の寿司店は新たなロゴマークとホームページの制作を、また岩手県のある生産組合は、海藻の「アカモク」を健康食品としてブランディングするのに必要なパッケージとキャラクターのデザインを、それぞれサポートしてもらうなどした。

こうした取り組みが今、東北以外の全国47都道府県へと広がっている。現在、新潟県や島根県、岡山県など計27のプロジェクトが進行しており、例えば新潟県十日町市では旧商店街の活性化アイディアを、長野県小谷村では若者たちによる「むらのこし」活動をSNSやブログで発信するサポーターを募集している。

長野県小谷村にある人口70人の集落で「むらのこし」活動を行う若者グループ

長野県小谷村にある人口70人の集落で「むらのこし」活動を行う若者グループ

これらを含みこれまでに掲載されたプロジェクトの数は440を超え、1850以上のサポーターによる支援をマッチングしてきた。防災・復興プロジェクトプログラムマネージャーの松岡朝美さんは「地域の外の人材と、支援を超えた新しい関係が生まれている。地域活性化のためにインターネットがどう貢献できるのか、様々な知見を得ることができた」と成果を見出した様子で、さらに今後は「この知見はより広い地域に拡大、活用できる」と日本全域へ応用していくことに意欲を見せている。

アクセンチュア

福島県会津若松市を拠点に活動する経営コンサルティンググループのアクセンチュアは、2011年の活動開始当初から、復興支援とともに地域課題解決のモデルケースとして全国各地に波及させていくことを目的に据えた。

2011年7月に基本協定を結んで以来、アクセンチュアは会津若松市に深くコミットしながら地域課題解決のモデルケースづくりに取り組んできた

2011年7月に基本協定を結んで以来、アクセンチュアは会津若松市に深くコミットしながら地域課題解決のモデルケースづくりに取り組んできた

会津若松というと、意外な印象をもつかもしれない。しかし、福島イノベーションセンター長の中村彰二朗さんは、「会津地方は一次産業に加えてITや自然エネルギー、観光など雇用の受け皿となる産業が数多く存在し、またIT専門の会津大学が立地しており人材育成や研究開発の基盤もある。新たな地方都市のモデルを構築し、他の地域に展開できる素地が揃っていた」と、と市が抱える潜在的な資源の価値に着眼した。そうして今、最先端のICTを活用して高付加価値産業を誘致し、大都市の一極集中ではなく地域で自立できる産業・雇用モデルの構築に力を注いでいる。

地方は歴史的に製造メーカーの工場が地元雇用の受け皿となってきた側面がある。しかし、近年は製造コストの低い海外に移転するケースが増え、若者を中心に人口が大都市に流出する負のスパイラルに直面している。

それを打破しようというのが、まさに同社の狙いだ。具値的には、あらゆる公共サービスを標準化し、データをオープンにする「都市OS」を基盤に付加価値の高いICT産業が参入しやすい環境整備を進めてきた。並行して、会津大学とともに全国的に不足気味な「データサイエンティスト」の養成講座を実施。さらに、福島イノベーションセンターでは若い人材を中心に、5人のデータサイエンティストを地元から雇用している。

工場ではなく高付加価値のビジネスを誘致し、若い人材が都市圏でなくても自身のスキルを活かせるような職を生み出す。いよいよ今後は、こうした具体的な「機能移転」のフェーズに入っていく段階にあるという。中村さんは「『東京と同じ仕事があれば地元で就職したい』と考える若者は少なくない。東京など首都圏を中心とした価値やマインドにとらわれ過ぎず、覚悟をもって幹部レベルの優秀な人材や仕事を地方に送り込むことができないか検討するべきだ」と指摘する。

地方創生に企業の力を

企業が地域に対し、これほど真正面から向き合ったことはかつてあっただろうか。「グローバル」から「グローカル」へ。最近、こんな言葉をよく耳にするようになった。企業は新興国を筆頭に海外へ成長を見出そうという動きを強めているが、それとは別の軸で、地域に寄り添い、まちを活性化させることも新たな成長のカタチとして注目されている。世界で活躍するこうしたグローバル企業が今、地域に目を向ける理由がここにあるのかもしれない。

一方の地域も、企業の力を必要としている。豊富な資源があるにもかかわらず、それを戦略的に活用するノウハウに乏しいケースが多い。東北での知見を元に、企業と地域の関係が変わり、全国の地方創生を大きく押し進める。それこそが「創造的復興」のひとつの形と言えるのではないだろうか。

文/近藤快

提供:東北復興新聞

関連記事
500人を超える遺児が進学、夢への一歩踏み出す
5年は節目ではない~経済学と法律学の融合による被災地相談データの分析
調査から見る石巻8000人の子どもの声。復興への関心にどう応える?
JR東日本、2019年度末までに常磐線を全線運転再開へ
17日告示の富岡町議選―選挙期間が10日の理由
関連ワード : 地方創生 災害 福島