【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2)◆加水経済と難破船計画◆ 株式会社フィスコ 2017年3月12日
上海閥消滅危機、北朝鮮リスクの背後に中国情勢
昨日早朝の北朝鮮のミサイル発射は、リスク回避として円高に振れ、米株も地政学リスク=他の政策遅れになるとの見方が圧迫した。対北朝鮮が優先事項になることで、少なくとも対中東政策などの動きがパタッと止まってしまった。何が起こるのか、不透明感の強い地合いを市場が嫌う動きと受け止められる。
北朝鮮の命運は中国が握っていることに変わりはない。米軍が攻撃するにしても、中国の(暗黙でも)同意が必要と見られるためだ。その中国の出方をウォッチする時、金正日体制時の北朝鮮が江沢民・上海閥の庇護の下にあったと見られるため、政治攻防が大きなカギになる。金正恩体制で、張成沢処刑後は上海閥と切れ、軍部(瀋陽軍区)との密貿易に活路を見出していた可能性があるが、表面上、石炭輸入禁止で一段の窮地にあるように見える。習近平政権としては、北朝鮮を内部混乱のカードに使われるリスクを排除しなければならない。目下、その攻防にあるように見える。
6日付新華社は、習主席が全人代で「上海が国内の改革・革新に向けた取り組みを主導すべき」との見解を示したと伝えた。上海自由貿易区を改革や金融革新の要所と位置付け、(国内企業が)外の足を踏み出す経路とし、他地域に対する模範となる必要性を指摘した。上海が変わらざるを得ない。
全人代に先立ち、今秋の19大(19回党大会、習後継や政治局常務委員の大幅交代を決める重要会議との位置づけ)に向けて、4つの改選ルールが示された。1)中央政治局委員8割以上の賛成、2)自身の抱負を発表、3)本人、配偶者及び家族の収入、資産公開、4)党機関の審査、監査を受け入れ。19大準備作業チームは既に組織されているが、組長は習主席、副組長は李克強、王岐山の両氏とされる。上海閥の3人の常務委員は外されている。李克強首相は、習主席に従順を表明、スッカリ飲み込まれていると見られている。また、江沢民周辺の不正蓄財に関わっていた疑いがある、富豪・肖建華氏が行方不明になって久しい。全人代後、事件化するか注目されている。
全人代で、昨年12月の経済中央工作会議通り、成長率6.5%前後の目標が示されたが、焦点は過剰生産能力の削減(ゾンビ企業退治とのスローガンは止めたようで、金融リスクと実効力を睨んでいるようだ)。元々、肉に水を注射して重さを加える経済(加水経済と呼ばれる)で、価格統制も強めざるを得ない。全人代に向けて上向かせた経済に何処でグラつきが表面化するか、注視することになろう。
また、12年に行った内部調査で、党中央委員、候補委員、紀律委員会委員の85%以上が、その親族と子女が海外で不動産を購入、いつでも海外逃亡できるように備えているとされた(難破船計画と呼ばれる)。16年6月の会合で。習主席は「我々は党が崩壊し、国が壊滅すると言う状況までほとんど来てしまっている」と危機感を訴えたと言われる。資産流出による人民元安を食い止める方策が、その後講じられている。
北朝鮮を庇護・利用してきた上海閥は風前の灯に見える。経済改革で北朝鮮の資源(石炭、鉄鉱石など)の利用価値も変わる。米国との貿易摩擦懸念では、一定の妥協を、北朝鮮問題で行いえる可能性がある。その分、トランプ政策に歪みが生じるリスクがあり、利益確定の要因になっている公算がある。新たに、中国が締め付け強化の台湾の企業が、米国シフトを強めると報じられた。あちら立てれば、こちら立たずの状況で、中国の「平穏」が維持されるか注視したい。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/3/7号)
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