「異常」な日本、「普通の国」へ一歩 海外識者、集団的自衛権の行使容認を論評 ニュースフィア 2014年7月7日
集団的自衛権を行使するための憲法再解釈が閣議決定されたのを受け、国内外で賛否両論の声が渦巻いている。海外メディアでもさまざまな意見が交わされているが、これまで特異な「平和主義」を貫いていた日本が、良くも悪くも「普通の国」に近づいているという見解は概ね一致しているようだ。
一方、現在も抗議デモが続くなど反対世論が過半数を占めていることも関心を集めている。知日派の学者の一人は、その原因が“戦後日本のトラウマ”にあるとする見解を述べている。
【日本はほんの少し“普通”に近づいた】
「平和主義の日本がジワジワと“普通”に近づいている」と評したのは、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のコラムだ。世界中の「ほぼ全ての国が集団的自衛権を有している」とし、日本と同じ第2次大戦の敗戦国であるドイツでさえも「西(ドイツ)がNATOに加盟した1955年以来、同盟国を守る義務を負ってきた」と記す。そして、「主要国の中で日本だけが異常だった」と表現している。
同紙は、日本が再び戦争を起こすという懸念や「安倍首相の国粋主義的なレトリック」に対する反対論者の嫌悪を皮肉りながら、「日本はほんの少し“普通の国”に近づいただけだ。我々はそのことを冷静に認めなければならない」としている。
また、戦前・戦中の日本の行為に対し、中国と韓国が戦後幾度となく謝罪と賠償を求めてきたことについて、「(平和憲法のもとで)日本は1945年以来、ただの一度も紛争に関わっていない」とした上で、中韓が求める日本の“誠意”はそうした戦後の歩みによっても汲み取られるべきだと論じている。そして、今回の再解釈は再び中国の怒りに火をつけることになるだろうが、「日本がよりノーマルな防衛姿勢を取ることを否定するのは難しい」と結んでいる。
【戦争へのトラウマが9条を神格化】
一方、複数のメディアが、閣議決定に至るまでに国民的な議論が欠けていたと指摘している。エコノミスト誌はそれに加え、首相官邸を連日大勢の反対派市民が取り囲んでいることや、閣議決定の2日前に東京・新宿駅前で男が抗議の焼身自殺を図ったことに触れている。FTは、この自殺未遂事件をほとんど報じなかった日本メディアを「中国メディア同様に選択的だ。我々はそれを検閲と呼ぶ」と批判している。
テンプル大学ジャパンキャンパスのジェフリー・キングストン教授(アジア研究)は、日本の一般市民の世論が再解釈反対に傾いている理由について、戦後の日本人の心に刷り込まれた平和主義が「日本の国民的なアイデンティティになっているからだ」と指摘する。
同教授は、APが配信した識者座談会で、「日本の子供たちは修学旅行でどこへ行く?広島と沖縄だ。そこで反戦感情が強化され、教科書などで語られる戦時中の悲劇の記憶がそれを後押しする」などと述べ、日本人には戦争への「消えることのない恐怖がある」と指摘する。外国人から見れば、中国や北朝鮮の脅威のまっただ中にあるにも関わらず、集団的自衛権を放棄し続けようとする感情は奇異に映るかも知れないが、それが日本人が「9条に救済を見出す」トラウマの正体だという。
【「アジアのNATO」を目指す?】
同じ座談会で、安全保障を専門とする道下徳成・政策研究大学院大学准教授は、中国の脅威にさらされているベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国の日本に対する期待が高まっていると指摘する。「これまでの日本は『我が国は集団的自衛権を行使できないので、地域に貢献することができない』としか言えなかった。しかし、日本は今、その言い訳を失った」。
これに呼応して、岩屋毅・自民党安全保障調査会長は「長期的視点に立てば、アジア太平洋地域全体をヨーロッパのように安全保障の傘で覆わねばならない」と発言。将来アジアにもできるであろうEUのような自由貿易ブロックを守るため、NATO(北大西洋条約機構)のような「集団的安全保障の枠組みの構築」が、将来的な目標だと述べた。
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