第53回 地獄への道は善意で敷き詰められている-医学部誘致に関する請願書を否決-  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ >  記事 >  連載・コラム >  龍馬プロジェクト >  第53回 地獄への道は善意で敷き詰められている-医学部誘致に関する請願書を否決-

【龍馬プロジェクトリレーコラム】

第53回 地獄への道は善意で敷き詰められている-医学部誘致に関する請願書を否決- (2015/5/1 吉田実貴人/龍馬プロジェクト)

関連ワード : いわき市 吉田実貴人 地方議会 福島 

「地方から日本を変える」を合言葉に、日本全国の国会議員や地方議員などが超党派で集まった『龍馬プロジェクト』。政治山では、龍馬プロジェクトの思いに賛同した若手議員によるリレーコラムを連載しています。いわき市議会議員で龍馬プロジェクトの吉田実貴人氏による「地獄への道は善意で敷き詰められている-医学部誘致に関する請願書を否決-」をお届けします。

◇        ◇

 医師数不足に悩むいわき市に、中長期的な視点で解消を図るべく、一昨年2月に市民から数十人単位の医師を毎年輩出する、医学部・メディカルスクールの誘致の請願書が提出されました。医学部誘致は、医療の質・量の改善が主目的ですが、いわき市にとって、たくさんの副次的メリットや多方面への好影響が期待されます。

 例えば、好待遇の医学部教員・職員が居住することによる消費経済効果、働く場の拡大や、医学部が身近にあることにより高校生の進路の選択肢が増えること、医学部を目指す高校生が増えることにより、個々の生徒が学力を伸ばす動機付けが強く働くこと、そして一部の高校生の学力向上は周辺に波及し他の高校生の進路も広がること、いわき全体の教育レベルが上がれば、安心して首都圏の大企業の幹部サラリーマン家庭がいわきに転勤できること、それがいわきの産業・雇用を下支えすることです。

 さらには、東京を頻繁に往復する医師や技術者が増え、東京とのアクセスである常磐線のスピードアップの道筋が見えてくることにもなります。最終的に選定するのは文部科学省なので、まずは候補地として手を挙げることが大事であり、当初、請願提出者側は粛々と賛成の議決されるものと思っていました。

 ところが、市民から提出された医学部誘致に関する請願に対し、議会では賛成派と反対派が真っ二つに分かれ大激論となり、複数会派が市議会本会議で反対票を投じました。では、なぜ市にとってメリットとなる医学部誘致に反対したのでしょうか?反対派は、討論の中で反対理由として、誘致する大学が明確でない、福島県立医科大学等が医学部新設に反対を表明している、市立病院では県立医大等から医師の派遣を受けておりその信頼関係を失う恐れがある、病院勤務医師が引き抜かれる恐れがある、市立病院が大学病院の付属病院となる恐れがある、市当局も反対である、などを挙げました。

 それらは、反対のためのレトリック、これまでの先例や慣習を重視し既得権益を守るもの、噂や伝聞に基づく憶測からの判断です。そして医師不足解消への対案はありませんでした。新しい取り組みへの理解不足、またこれまでの仕組みが大きく変化することに対する漠然とした怖れが反対の決め手になりました。

 結局、僅差で反対票が多くなり、請願書が否決されたことにより、いわき市は医学部誘致自治体に立候補できませんでした。いわき市が立候補しなかったことで、候補自治体は宮城県仙台市と福島県郡山市に限られ、最終的に仙台市が選定されました。これまで医学部の新設は、1979年の琉球大学を最後に30年間以上も認可されませんでしたが、2012年末に安倍首相が、復興支援のために東北地方に医学部を新設するよう下村文科相に指示を出しての結果です。

 議決が終わった後で非公式の会合で反対に回った議員らから、「事前の情報が足りない」「医療の世界は難しい」「お世話になっている団体が反対している以上、反対せざるを得ない」等の声が聞こえてきました。思うに、既存の団体に過度に配慮する余り、市全体の市民福祉サービスの向上という視点が、欠けていたのではないでしょうか。目の前の特定の既存団体の声は届くけれど、大多数を占める一般市民の声は議員に届いていないのです。その素地は、一般市民の大多数が、選挙や議会へ何も期待していないことにあります。それが、付き合いが良かったり面倒見が良かったりする、いわゆる「いい人」の議員を多数、排出することになっています。

 「地獄への道は善意で敷き詰められている」(The road to hell is paved with good intentions)ということわざがあります。善意を持っている人、いわゆるいい人でも、その考え方が正しいとは限らないし、間違っていることが少なくない、という意味です。そして善意の間違いが多数派になったりすると、それが地獄への道になるわけです。今回のケースが、まさにそれにあたります。これが恐ろしいのは、表向きは悪いことをしているように見えないことと、善意の持ち主である議員本人は悪だと思っておらず、自らの判断の正しさを確信していることです。

吉田実貴人著者プロフィール
吉田 実貴人(よしだ みきと)
1969年3月24日生まれ。シンガポール国立大学大学院卒業。公認会計士・不動産鑑定士。
大手監査法人で会計監査と株式上場支援を経験後、シンガポール駐在。帰国後、企業買収等の財務調査を行い、国際的な不動産投資ファンドの資金運用のチェックを担当。東日本大震災後、被災地である故郷のいわき市議会議員として活動中。趣味は「自転車」。好きな言葉は「素朴な疑問」と「一期一会」。好きな食べ物は「サンマの塩焼き」。
龍馬プロジェクト リレーコラム
第52回 どんな基準で投票する議員を決めていますか?(小林 貴虎)
第51回 理想とする政治家像と選挙の洗礼(植竹 哲也)
第50回 住民全体の利益を目指す候補者の厳しい実情(倉掛 賢裕)
龍馬プロジェクト リレーコラム一覧
関連リンク
龍馬プロジェクトホームページ
facebookページ(ryomaproject)
関連ワード : いわき市 吉田実貴人 地方議会 福島