【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第16回 「気づき」からの産物 (2016/3/1 長野県小諸市 総務部財政課 財政係長 大井芳知)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。第16回は長野県小諸市 総務部財政課 財政係長の大井芳知さんによる「『気づき』からの産物」をお届けします。
◇ ◇
私は2014年度、早稲田大学マニフェスト研究所(以下、マニ研)の人材マネジメント部会(以下、人マネ)に参加し、2015年度は長野会場の運営委員として関わらせていただきました。
小諸市は2006年の人マネ発足時から参加し、今年度で10周年というメモリアルイヤーを人マネと共有しているものの、この間組織としてあまり変化が見られないという、人マネの足を引っ張るような状況があります。
小諸市にあった感情的な問題
なぜそのような状況になっているのか、当然マネとも(人マネ参加者)にも原因はありますが、一番の原因は「早稲田アレルギー」であり、それは変革の途中で目的・目標・ありたい姿を見失ってしまったことと、感情の問題によるものだと考えています。
1つの例として「選挙の開票事務改革」があります。10年ほど前にマニ研から提唱され実践し、「日本一早い」と言われるほど結果を出したのはいいけれど、本来は「意識改革や事務改善、経費削減のため」であったものが、途中から「何のためにやるのか」が方向転換され、上層部は「時間短縮ありき・順位ありき」になっていきました。その上、失敗した際の、上層部の怒りの感情むき出しな叱責、それにより職員は嫌悪感が発生し「やらされ感」満載になりました。
その結果、提唱したマニ研が悪いという「とばっちり」につながります。また、そのころ、若手職員が早稲田大学に研修に行くようになり(人マネ参加もその1つですが)、そこもつながっているように見られ、研修参加者もほかの職員から「とばっちり」を受けます。この感情的な「とばっちり」が小諸市にある「早稲田アレルギー」の所以(ゆえん)です。
小諸市で人マネ提唱による変革が難しい土壌である状況をご理解いただけますでしょうか……。
そんな中ではありますが、感化されやすくまじめ気質の私(これはドミナントロジック【思い込み】?)は、人マネに参加し言われた「自分が変わること」や「組織変革」について、一緒に参加したマネともと熱く語りあい、共に考えてきました。幹事団の皆さんからのアドバイスをいただきながら、「学んだことを自分だけのものにしてはいけない」という強い思いから、職場のマネともと共に人材育成の観点での職員研修の実施につなげることができました。
自ら考え実践する研修
こうした小諸市の現状から、対象を「早稲田アレルギー」の無い(薄い)係長と若手職員に絞りました。忙しい総務課職員に協力するという形で企画運営全般を仕切り、オフィシャルな研修として2014年に1回、2015年に3回実施しました。
歴代マネともと協力し行ったこの研修では、係長にはダイアログによる参加者間の気づきや情報の共有と、現在の財政状況から個別に「ありたい姿」に向かって係長として何をすべきか、また、若手職員には職員として何ができるか、「自分にできること」という課題を出して、定期的に振り返りを行いました。若手職員には「知らないということを知る」という良いきっかけにもなり、アンケート結果からも物の見方・考え方は伝わったと思います。
この研修以降、目に見えて変化のあった職員もおり、企画運営に携わった私たちにも多くの学びを与えてもらえた研修でした。自ら考え実践する研修を今後も継続して実施していきたいと思いました。
どんなカレーを、誰のためにつくるのか
人マネでもそうでしたが、研修を通じて改めて、ありたい姿の明確化と詳細な現状分析がどれだけ重要なことか気づくことができました。
私は料理が好きなのでカレー作りに例えるならば、どんなカレーを作るか(ありたい姿)、調理にかけられる時間やお金、本人の調理技術(現状)などによって、買う材料や調理方法(取り組み)が変わる。プラス、それが「誰のためのカレー」か、という視点で考える。幼児に激辛カレーを食べさせるわけにはいかないですから。
さらに大事なのはPDCA(Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Act(改善))サイクルの「CA」の部分。食べてみてどうだったか、味だけでなく完成までの過程を検証し分析する。材料や調味料などはどうだったか。美味しくするにはどこをどう変えればいいか。次に作るときはこうしようと決めて作る。そしてその繰り返しにより深まる味…。
私はつい「現状+取り組み=ありたい姿」的な数式で簡単に考えてしまいます。ですが、何事も現状を深掘りした上でのありたい姿は「誰のため」の取り組みか、というように考えると、「より良いものにするにはどうすればいいか」と考えを深めていけるのではないでしょうか。
ただし、考えを深めるためには、一人ではなく複数人による「対話」と「気づき」、「視点」が重要だと人マネで学びました。
忙しい中でどれだけ楽しみながら頑張れるか
人マネ参加は私にとって大きな転換期となり、自分史では「第三次自分革命」と呼んでいます(笑)。
2年間の人マネでの学びによって私が一番変わったことは、「気づき」を増やすためにいろいろな物事に対して「意識」しようとしていることです。言い換えれば何に対しても「興味を持つ」ということでしょうか。
また、人マネでは「立ち位置を変える」と称されていますが、常に「視点を変えて物事を見る」ということを強く心がけるようになりました。
取り組みたいことがまだまだたくさんあり、優先順位付けをしながら進めていきたいと考えていますが、今一番の課題は自分のモチベーション維持です。忙しい中でどれだけできるか、頑張れるか、楽しみながら継続できるか。人マネ長野会場のマネとも、運営委員の皆さんは気持ちの熱い方が多く、モチベーション維持につながる取り組みを毎年、同窓会として開催しています。その流れに乗って、これからも多くの仲間を“マネ込んで(巻き込んで)”頑張っていければと思います。
- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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