『当確師』著者・真山氏「東日本大震災の被災地を定点観測していて…」独占インタビュー(3)  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   『当確師』著者・真山氏「東日本大震災の被災地を定点観測していて…」独占インタビュー(3)

『当確師』著者・真山氏「東日本大震災の被災地を定点観測していて…」独占インタビュー(3) (2016/2/4 政治山)

当確師を語る 真山仁インタビュー3

前回までのインタビューで、真山さんの生い立ちや新著『当確師』(中央公論新社)に込めた狙いから、政治や小説に対する熱い情熱が伝わりました。最後に、今の日本に対する思いを語っていただきました。

『当確師』著者・真山氏 独占インタビュー(1)
『当確師』著者・真山氏 独占インタビュー(2)

政治的対立やテロの脅威高まっている

政治山
東日本大震災から5カ月後の2011年8月に、政治山で対談をしました(政治山特別対談「震災とリーダーシップ-フィクションとノンフィクション)。あれから4年半。菅政権末期だった当時から、日本は良くなったと思われますか?
真山氏

経営者や官僚の方々に会うと、景気は良くなったと言います。私は東京と関西を行ったり来たりしていますが、確かに、東京五輪が決まってから新幹線は平日昼間でも混んでいます。インバウンドで訪れた外国人も、出張の日本人もいます。ただ、タクシードライバーに聞くと「全然儲からないし、同業者は減った」と言います。

企業は本社機能を東京に一極集中したので、東京出張が増えたのかもしれません。生活や経済という面では多少落ち着いたと思いますが、政治的対立やテロなどの脅威はものすごく高まっていると思います。

震災復興は最悪…

政治山
東日本大震災から3月11日で5年になりますが、震災復興については?
真山氏

まったく進んでいないという印象です。2014年3月に『そして、星の輝く夜がくる』を出版しました。阪神・淡路大震災で被災した教師・小野寺が、東日本大震災の被災地にある小学校に赴任して繰り広げられる6篇の連作短編集です。私自身、阪神・淡路大震災の被災経験があるので、そのときの思いもふまえて、被災後1年の様々な問題や復興に向けた課題、そして希望を込めて書きました。

実は東日本大震災の被災地を3、4カ月に1回のペースで訪れて、定点観測しています。3日間くらいかけてレンタカーで釜石から仙台まで沿岸の町を見て回ります。1年ほど前から土地の嵩上げが始まり、防潮堤が完成した地域もあります。そのために、海が見えなくなりました。ああいうものを災害に強いまちづくりと言うなら進捗していますが、そこに人の営みはありません。

真山仁さん

阪神・淡路大震災からの1年は、東北の5年よりも復興進んでいた

真山氏
阪神・淡路大震災から1年の復興状況は、東北の5年よりもはるかに進んでいました。都会と地方の差という意見もありますが、都会だからこそ被害も甚大でした。しかし、在来線や横転した阪神高速は1年で復旧しました。20年経過して復興の声も随分と大人しくなりましたが、東日本の場合は、今年3月11日に訪れる節目の5年が、どうかすると同じような雰囲気になるのではないかと危惧しています。
政治山
復興が進まない理由は何でしょうか?
真山氏

どういった産業で生きていくのかという、東北の沿岸部が抱える問題が根本的に解決されていないからだと思います。補助金頼みのまちづくりで果たしてどこまで営みが戻ってくるのか、疑問です。

中央省庁にも「何で復興が進まないのか?」と尋ねました。すると、補助金申請にしても、申請書があまりにも杜撰で許可できないことが多いそうです。これまでは県の申請書を参考にして申請していたので、復興政策のように自治体ごとに申請内容が異なると、対処できない。

結局、震災復興とは関係のないことに補助金が使われてしまい、問題になりました。地方が自主的に生きるためのノウハウを持っていないことに問題があります。

選挙権年齢よりも、まず被選挙権年齢の引き下げを

政治山
今夏の参院選で選挙権年齢が下がります。
真山氏
年齢を下げる目的が分かりません。20歳から18歳にした理由がきちんと説明されていないからです。「世界は18歳が多いから18歳でいい」というふうに受けとれます。穿った見方をすれば、若い人を早めに参加させておいて「投票なんてムダだ」と10代のうちに気づかせて20代から行かせないためなのかなとさえ想像します。
政治山
若い人は選挙に失望するでしょうか?
真山氏
するでしょうね。なぜなら、投票所に行っても選びたい人がいないからです。選挙権年齢を下げるのであれば、同時に被選挙権も下げるべきです。極端に言えば、10代枠、20代枠を作って、別枠で当選しますと。一票の格差も、地域でなく年齢でやるくらいの方がいいと思います。選挙権年齢よりも被選挙権年齢を重視するべきだと思います。

ネット選挙は候補者を知る情報ソースとして意味がある

政治山
ネット選挙についてはどう思いますか?
真山氏
各世帯で新聞を取らなくなったので、選挙公報の折り込みを読めない人にとっては貴重な情報源になります。情報ソースのチャンネルは多い方がいいと思います。しかし、候補者の容姿やサイトデザインなどを見るだけでは意味がない。公約を読み込み、候補者を見抜く力を有権者が持つことが肝要です。
政治山
将来的に導入が期待されるネットでの投票については?
真山氏
認識システムなどがしっかりとできるようであればやるべきだと思いますが、一方で選挙に出やすい制度づくりが必要だと思います。候補者が変わらない顔ぶれだったら、投票の仕組みを変えても政治は変わらないと思います。

真山仁さん

小選挙区制になって政治家が小粒になった

政治山
選挙制度について伺います。真山さんは先ほど、小学校時代に見た派閥政治がある意味日本では理想の政治だったとおっしゃいました。小選挙区制になって、政治は悪くなったと思いますか?
真山氏

悪くなりました。政治家が小粒になりました。以前、取材で議員秘書の方々に1週間のスケジュールを見せてもらったのですが、自治会のクリスマスから商店街の忘年会にまで出席しています。市議と同じレベルなんです。それはそうですよね。選挙区が市議と同じ範囲ですから。県議よりも持ち票は少ない。小粒になっちゃったなぁという実感と、死に票の多さが問題です。実際の票差は少なくても勝者の票だけが結果に貢献しています。

日本人は均一性を好むので、1人しか選べないと皆同じ色になります。「二大政党制は素晴らしい」と言って小選挙区制を導入しましたが、自分たちの制度が素晴らしいと思っている二大政党制の国は、実は一つもありません。

政治山
中選挙区制に戻して派閥政治を復活すべきと?
真山氏

派閥政治はあった方がいいと思います。自民党内で政権交代をしていれば、ある一人のリーダーが振り切れることはありません。しかし、小選挙区制の下だと、均一性とムードに弱い国民性なので、一般ウケすることだけを言えば、昨日と今日で違うことを言っても支持されてしまいます。

派閥政治だと、党内で異論が出て矛盾が質されます。それを、二大政党でできれば良かったのでしょうが、うまくいかなかった。パワーバランスの仕組みが弱まり、政策の優先順位を指摘する議論がないので、ブレーキが効きません。

国会でバカな議論をする政治家は恥を知ってほしい

政治山
衆院解散と絡めて、SMAP解散騒動が予算委員会で話題になりました。
真山氏
恥を知ってほしい。絶対にやめてほしい。政治家が小粒になったせいだと思います。国会で限られた時間で議論すべきことは山のようにあるはずです。政治家の資質が問われます。
政治山
「政治と無関係なことを聞くな」と政治家が言えば、それはそれで「つまらない人間」と報道されるかもしれません。
真山氏
いいんです、つまらない人間で。そんな報道がまかり通るほうがおかしい。以前は、最低限の「してはいけないルールやマナー」というものがきちんと守られていた。ところが、それを打ち破る人が逆にカッコいいという風潮になってきたように感じます。
政治山
鈍感力とかKY(空気読まない)が評価されるようになった?
真山氏

そうです。パスタをズルズル吸う人がカッコいいとなってきた。本来は「そういう人は出て行って」というのがルールでした。

いまこの国で、決めなきゃいけないことは山のようにあるのに。芸能人の解散騒動を国会で話題にするなと怒るべきです、本来は。そんな質問をする議員を「いや、すごい。国民の方を向いている」というのだけは、やめてほしいです。

政治山
真山さんの政治的なメッセージを今後も注視していきたいと思います。本日はありがとうございました。

聞き手:上村吉弘(うえむら・よしひろ)

真山 仁(まやま・じん)
1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒。新聞記者、フリーライターを経て2004年、企業買収の実像を描いた小説『ハゲタカ』でデビュー。NHKでドラマ化され話題に。ハゲタカシリーズのほか、『ベイジン』『コラプティオ』『黙示』『売国』『そして、星の輝く夜がくる』など著書多数。

当確師(真山仁著)『当確師』あらすじ(真山氏ホームページより転載)
請け負った選挙の当選確率は99%以上であることから『当確師』を名乗る選挙コンサルタント聖達磨(ひじりたつま)は、敏腕だが傲慢な選挙のプロ。「選挙は戦争だ」と立候補予定者を脅し、その一方、胸の内では「選挙で、この国を浄化してやる!」と企んでいる。
そんな聖が請け負ったのは、最近、大災害時に備えた首都機能補完都市に指定された政令指定都市・高天(たかあま)市長選挙で、現職市長を打倒するというミッションだった。
3期目を伺う現職鏑木(かぶらぎ)次郎は元検事で、前職の腐敗打倒を叫んで初当選以来、破綻直前だった市を立て直し、全国的に名を馳せる敏腕市長だ。「組織票だけで、当確が打てる」ほどの盤石な市長を打ち破ることなんてできるのか。
聖は、意外な人物を候補に擁立し、鉄板の市長の牙城に挑む…

関連情報
『当確師』著者・真山氏 独占インタビュー(1)
『当確師』著者・真山氏 独占インタビュー(2)