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新しい行政経営と公会計について学者、議員、首長らが議論 公会計改革シンポジウム2012開催(2012/08/24 政治山)

 国や地方自治体の会計を表す「公会計」に企業会計の手法を導入し行政部門の効率化・活性化を図る「公会計改革」を推進するための「公会計改革シンポジウム2012」が8月21日、東京都新宿区の早稲田大学で開催された。テーマは「公会計改革による行政経営の革新―変革が求められる行政経営―」で、東京大学名誉教授の神野直彦氏や参議院議員の尾立源幸(おだち もとゆき)氏による講演会のほか、岩手県北上市長や長崎市副市長らによるパネルディスカッションも行われた。主催は早稲田大学パブリックサービス研究所。

 公会計とは国や地方自治体の会計のことで、これまでは「現金主義」と呼ばれる、収支を現金の受け渡し時点で認識する会計手法を用いてきたが、資産や負債の正確な算定をし、将来の負担の想定や施策の評価をするのが困難だった。そこで、取引時点で収支を認識する「発生主義」という企業会計の手法導入を、総務省中心に進めようとしているが、統一的なモデルがないなど、活用が進んでいない。

 関連ページ:政治山ニュースまとめ 行財政改革につながる公会計改革のまとめ

神野直彦・東京大学名誉教授 神野直彦・東京大学名誉教授

 シンポジウムではまず、財政学を専門とする神野氏による「公会計と行政経営」というテーマで講演が行われた。国家の信用不安を表す「ソブリン・リスク」が公会計に問うものとして、ユーロ危機を例に挙げて説明が行われた。EU加盟国は、統一通貨「ユーロ」による通貨統合によって、各国政府が持つ財政上の権限である「通貨高権(注1)」と「財政高権(注2)」のうち、通貨高権を持っていない状態にある。このため、課税による財政調整のみが可能で、通貨発行量による財政調整機能が乏しいため、ユーロ圏内においてはギリシャやイタリアの経常収支は赤字になり、ドイツが経済的に1人勝ちする「財政の一極集中」状態が起きたと指摘。この状況を脱するためユーロ圏は、一極集中した国から周辺国に資金を配分する「財政調整制度」を将来的に導入するしか解決方法はないとした。

 参院財政金融委員長も務める尾立氏は、「初代事業仕分け人」として、国が1年間に行う約8,000事業のうち約440事業の仕分けに携わり、計3.3兆円を削減した実績を報告。事業仕分けで作成された、事業主体・目的・予算・効果などを明記した各省庁の「事業シート」について、「おおざっぱなコスト情報しか出てこない。予算や決算のチェックは国会議員の役割だが、これではどういう予算なのかこれ以上つかめない」と政府のコスト情報提供の不十分さを語った。また、予算・決算が法律で規定されているのに対し、財務書類の作成が法定化されていないことが問題だと指摘している。その他、国の財務情報の公表に1年半かかっている現状について批判。1月ごろまでに公表し、国会が財務情報やコスト情報を予算審議などで利用することが必要とした。

尾立源幸・参議院議員、財政金融委員長 尾立源幸・参議院議員、財政金融委員長

 パネルディスカッションでは、早大パブリックサービス研究所所長の小林麻理早大教授を司会に、公認会計士で国際公会計基準審議会委員の伊沢賢司氏、岩手県北上市長の高橋敏彦氏、長崎市副市長の古賀友一郎氏、京都府精華町財政課長の浦本佳行氏が議論を行った。

 古賀氏は、総務省からの出向で複数の自治体で財政に関わった経験を持ち、現在は長崎市の副市長を務めている。その経験を踏まえ、財務書類について、「一覧性と普遍性」というキーワードを使い、住民への説明にはわかりやすくなじみのあるものを提供すべきだとした。

 浦本氏は、京都府精華町の財政課長。同町は、同研究所が2年前から開始した「パブリック・ディスクロージャー表彰」の第1回グッド・プラクティス賞を受賞している。2004年度から「まちの会計簿」という財務情報の冊子を町内に全戸配布し、住民目線の情報提供を行っている。現在の財務書類課題として、公表の仕方や指標が違うため他の自治体と比較ができない点を指摘した。

 自治体間の比較に関連し、総務省の「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」のメンバーでもある伊澤氏は、ベンチマーク化(指標作り)には複式簿記の導入といった公会計改革が必要だとし、その情報は、自治体の意思決定に有用なものでないといけないと話した。

 高橋氏は、市長就任以前にNPO代表として約10年間活動していた経験を踏まえて、市が1999年から取り組んでいた行財政改革の流れと平行して動きのあった、市民活動支援・情報共有の取り組みについて報告を行った。市民ホールの建設に市民が関わることでほぼ100%の稼働率を達成しているなど、まちづくりに市民が参加することの効用を紹介した。

 同研究所では、地方自治体の財務情報を有益に開示している団体を表彰する「グッド・パブリック・ディスクロージャー表彰2012」を行っている。9月に応募を開始し、10月末に締切。2013年1月に結果を発表する予定だ。詳しくは、同研究所のサイトを参照。

パネルディスカッションの登壇者
パネルディスカッションの登壇者
会場の様子
会場の様子

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