【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第8回「国策の対立に翻弄された福井県~大飯再稼働をめぐって~」(2012/10/24 福井県議会議員 鈴木宏治/LM推進地議連)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第8回目は、福井県議会議員の鈴木宏治氏による「国策の対立に翻弄された福井県~大飯再稼働をめぐって~」をお届けします。
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福井県は人口80万人の典型的な田舎県です。同時に、14基の原発と1基の廃炉中原発、2基の建設準備中原発を抱える日本最大の原子力県でもあります。この春、大飯原子力発電所3、4号機の再稼働をめぐって全国から注目を浴びました。その顛末をご紹介します。
まず、再稼働論議の経過を見てください。
- 4月14日 枝野経済産業大臣が福井入り。西川県知事に再稼働を要請。
- 4月26日 国がおおい町で住民説明会。
- 5月30日 関西広域連合が再稼働容認の声明。
- 6月 4日 細野原発担当大臣が福井県入り。あらためて知事に再稼働要請。
- 6月 8日 野田総理大臣が記者会見で原発の安全性と必要性を訴え。
- 6月14日 県議会全員協議会で各会派からの意見表明。
- 6月16日 西川県知事が上京。野田総理大臣に再稼働容認を伝達。
この2カ月間、福井県は大揺れに揺れました。前半から中盤は『国vs関西広域連合』のバトルに振りまわされ、後半は『国vs福井県』の神経戦でした。
『国vs関西広域連合』は、電力確保のために原発を動かしたい国と、事故の際には被害地元となり得るとして、原発の再稼働を阻止したい関西地域の争いだったと言えます。その際、全国の反対派住民からは福井県へ強烈なプレッシャーがあり、議員の自宅には毎日数通~数十通のハガキやファクスが届き、再稼働に反対するよう訴えていました。また推進派からも陰に陽に働きかけがあり、神経をすり減らす日々が続いたのです。
特に、反対派から「福井県が原発を動かすせいで、日本の環境が破壊される」というエキセントリックな批判があり、福井県民はやるせない思いを持ちました。福井県にしてみれば、国策としての原発推進に協力してきたという思いがあり、もちろん雇用や交付金を得ているとはいえ、多少なりとも電気の消費地から感謝されているという自負を持っていたのです。それが真っ向から否定され、電気の供給地としてのプライドは引き裂かれました。
最終的には、関西広域連合が「関西の現在の発展は、福井県の取り組みがなければあり得なかった」と再稼働を容認したことで決着に至りました。
『国vs福井県』は、原発を国策でやっていくのであれば、「時の首相が前面に出て国民を説得すべき」という福井県と、そうはいっても矢面に立ちたくない国との争いでした。国は前面に出るのを相当渋っていましたが、これは野田首相が記者会見を行うという形で決着を見ています。
私も、自分自身が渦中に放りこまれ、供給地の悲哀を嫌というほど味わいました。結局のところ、「トイレ掃除を誰がやるか?」という永遠のテーマでもあります。これは「NIMBY(ニンビー)」とも言われ、「Not In My Back Yard(自分の裏庭には来ないで)」の略です。
例えば米軍基地、例えばゴミ焼却所、例えば刑務所、例えば火葬場。どこかには必ず必要だけれども「自分の裏庭には来てほしくない施設」をどうするか。最終的には地元雇用と交付金・補助金で解決しなければならないのですが、それを受け入れた地域に対して「お前はお金をもらったんだから仕方ないだろう?」と言えるのでしょうか。その地域は多少なりとも、国のため、県のため、市のためという理由で、自分を納得させているのです。
原発は、これからもしばらくの間は不可欠のものです。これから日本は原発のない社会を目指していくことになりますが、だからといってこれまで原発を受け入れてきた功績が否定されるとは思えません。
福井県はお金と同時に「国家への貢献」という自負心を持って、リスクのある原発を受け入れてきました。その思いを全国の、何気なく電気を使い続けている人たちに知ってもらえればと願って、本稿を書きました。
- 著者プロフィール
- 鈴木宏治(すずき・こうじ):29歳で福井県議会議員に当選して10年目。議会改革、行政改革や産業政策を専門としてきました。2011年3月の福島事故を受け、今や専門はエネルギー政策。日本のエネルギー安全保障をもう1度、立てなおしたいと強く願っています。
HP:鈴木こうじ オフィシャルウェブサイト