導入すると「大選挙区制」に移行!?
ネット選挙の可能性を探る~宮川龍一郎氏インタビュー~ (2013年3月4日)
2013年夏の参議院選挙から導入される見通しとなった、「ネット選挙」(インターネットを使った選挙運動)。政治山でもたびたび取り上げてきた、政界・IT業界を巻き込んだ大注目のトピックです。このたび政治山では、ネット選挙解禁に向け、電子投票に詳しい電子投票普及協業組合代表理事の宮川龍一郎氏にインタビュー。ネット選挙が求められている理由や導入後の情勢、電子投票のあり方などをお聞きしました。
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なぜネット選挙が求められているのか(7分)
人は見た目で「この人はいい人だな」などの印象を持たれます。今の選挙戦は政策で判断するものではなく、「直感選挙」になってしまっています。現行の選挙法だと、候補者が演説日程をアップしたり、Facebookの「友だち申請」を許可したりするのもままならない状態です。インターネットの場合、情報量に制限はありません。制限がなくなれば、いわゆる「脱法文書」がなくなると思います。それと同時に、図表やグラフなど「ビジュアル面」や、政策面での活用を期待したいです。2012年の総選挙は投票率が低く、多くの無効票が出ました。これは「参加しない方が多い」ということです。以前から思っていたのは「なぜ制限するのか」ということ。これでは、候補者が「今言いたいこと」を発信できません。有権者は、テレビを見て判断するしかないのが現状です。
「電子投票」の定義(2分)
電子投票について、総務省は3段階に分けて定義しています。第1段階は、投票所へ行ってタッチパネルを操作し、画面を押して投票するもの。第2段階は、投票所同士の通信を利用するもの。これにより、当該選挙区のどこの投票所からでも投票することができます。第3段階は、インターネット投票。つながってさえいれば、どこからでも投票が可能になります。
電子投票のあり方(3分)
電子投票に取り組んだきっかけは、「民意をどのように反映すればいいか」が原点でした。“疑問票”が多いのも気になっています。日本では、体が不自由な人は「代理投票」を頼まなくてはなりません。これでは「投票の秘密」が担保できないです。アメリカではDRE(Direct Recording Election=直接投票)が発達し、「人間が入れば入るほど、煩雑になって不正がある」との考え方をしています。
海外の電子投票事情(4分)
フランスでは、2012年の大統領選でインターネットでの在外投票を実施し、成功しました。韓国でも、政党の代表を選ぶときにネット投票を導入済みです。これは、投票権をクレジットカードやキャッシュカードの暗証番号とひもづけているので、票の売買などの「不正」が起きにくい構造です。「電子投票先進国」のエストニアでは国民全員が住基カードを持っていて、それと連動させて本人認証を行っています。イギリスでは2005年、サーバがハッキングされ、集計がおかしくなってしまいました。これを受けて、エストニアは地域ごとに電子的投票所を設け、リスクを分散させています。これらの成功や失敗の事例を踏まえて、日本も取り組むべきだと思います。
ネット選挙が導入されたら……(3分)
遠い将来か近い将来かは分からないが、選挙区がなくなるのではないでしょうか。衆院選の場合、現在の比例11区にすべての定数が収まる「大選挙区」に発展すると思います。そうすれば、今は違憲と言われている「定数是正」の問題も解消されます。
「インターネット」の情報格差はどうすればいいのか(3分)
パソコンやタブレット、スマートフォンなどを持っている・使えるのは、すべての有権者ではありません。デジタルテレビの場合、ほぼすべての人が持っていますよね。「デジタルディバイド(=情報格差)」はインターネットにつきもの。情報発信は、テレビの「Dボタン」で行えばいいと思います。格差をなくすためにも、みんなが持っているツールでの情報発信が重要となってくるでしょう。
- 宮川龍一郎(みやがわ りゅういちろう)
- 1964年7月29日生まれ。身延山高等学校卒業。選挙専門のキャンペーン会社、株式会社政治広報センター戦略企画部長として、調査、分析、企画、広報などの選挙プロデュースを担当。選挙の近代化の研究に参加。その後、電子投票の開発に参加した企業に働きかけ、電子投票普及協業組合を発足し、監事に就任。日本初の実施からシステム管理、実施運営、マネージメントなどの統括管理者として、実施したすべてを成功におさめる。現在、電子投票普及協業組合代表理事。