認知症で毎日トマトの買い物―地域包括支援センターの相談事例 (2019/3/17 介護健康福祉のお役立ち通信)
私は、地域包括支援センターで保健師として勤務していました。地域包括支援センターでは、主に高齢者が要介護にならないための取り組み(介護予防)や、高齢者からのよろず相談、情報提供、手続き等を行っています。
地域包括支援センターには、基本的に主任ケアマネージャー、社会福祉士、保健師の三職種が主に在籍しており、それぞれの職種の専門性に応じて相談援助や健康相談等の業務を担います。
地域包括支援センターに勤務していると、いろいろな事例に遭遇します。
地域包括支援センターで対応した認知症の方の相談事例
その中から認知症に関する事例をご紹介します。
Aさんは一人暮らしをしており、買い物等もサービス利用をすることもなく一人で行っていました。しかし、ある時、Aさんがよく買い物をしているお店の方から、地域包括支援センターに電話がありました。
「いつも来ているのに、帰り道がわからないようだ」「毎日たくさんトマトを買っていくようになった」ということでした。
認知症により買い物に来て帰り道がわからない
職員がそのお店に行くと、Aさんがトマトを持って立っています。「帰り道がわからなくなってねぇ。」そう言いました。
ひとまずその日はAさんを家に送り、Aさんについて職員間での話し合いを持ちました。
地域包括支援センターでのケースワーク
「Aさんは、認知症なのではないか」
「金銭管理や家の中はどうなっているのだろう」
「薬の管理はできてる?」
等、各々の専門性に応じた意見が飛び交い、後日Aさんの家を訪問することになりました。
地域包括支援センターで訪問をしてみると…
地域包括支援センターでは、必要に応じて訪問することもあります。もちろん警察のような強制力はないので、お邪魔するにあたってはご同意をいただいた上でになります。
いざ、お邪魔すると…
ご自宅には腐ったトマトの山、賞味期限の切れたものが冷蔵庫にびっしり
Aさんのご自宅には腐ったトマトの山、賞味期限の切れたものが冷蔵庫にびっしりと詰め込まれていたのです。
薬もまちまちにしか飲めていないことがわかり、Aさんに対する支援が必要だということで、行政とも協力して、まずはAさんの生活の基盤を立て直すことになりました。
認知症の症状が出ても毎日トマトを食べるのが日課だった
実は、Aさんはトマトが好物です。毎日トマトを食べるのが日課。認知症の症状が出ても、トマトを毎日買うという習慣は身に付いており、毎日毎日トマトを買いに馴染みの店に行っていたのでした。
ひとまず、ゴミ屋敷と化した家の中、そして服薬の管理、やるべきことはたくさんありました。
そこで1つ1つやるべきことを整理して、ゴミを捨て、賞味期限の「見える化」、服薬カレンダー、等で様子を見ることになりました。
お店の人の見守りや民生委員の方の協力、地域包括支援センターの定期的な訪問で生活を立て直す
幸いにもAさんの認知症の症状は軽く、お店の人の見守りや民生委員の方の協力、地域包括支援センターの職員の定期的な訪問により、トマトは必要最低限、服薬はカレンダーを使っていつ薬を飲めばよいのかが把握できるようになり、また一人暮らしができるようになりました。
Aさんは、要介護認定を受け、要支援の認定が出たために、地域包括支援センターでケース担当をすることとなりました。
今後、症状が進んだ場合には訪問看護や地域住民のさらなる見守り、定期訪問等の介護保険サービスを導入すべきときがくるかもしれません。
地域包括支援センターだけでなく、お店の人や民生委員などの支援の輪が大切
このように、地域包括支援センターや行政で把握されていない認知症の高齢者の方の情報提供をお店の人や民生委員、地域住民の方が行ってくれることで支援に繋がるといった事例がたくさんあります。
認知症サポーター養成講座の受講でオレンジのバンドを
特に認知症については、認知症サポーター養成講座という、認知症の高齢者を支えるためにはどうしたらよいか、どう関われば良いかなどの啓発活動がされており、多くの認知症サポーターが地域で認知症の高齢者を支え、見守っています。
認知症サポーター養成講座は、様々な企業や学校等で行われており、誰でも受講できます。受講後には、オレンジの「認知症サポーターの証」であるバンドがもらえます。これを身に着ければ、立派な認知症サポーターです。
一人暮らしの高齢者は、なかなか異変を察知できず、時には転倒や認知症の症状が出たり、夏場では熱中症等、命に関わるような状態でも発見されないケースもあります。
そのような状況下で、地域包括支援センターでは地域住民の方や民生委員、高齢者の馴染みの場所や人等の情報提供が本当に役立っています。
地域包括支援センターはどんなとこ?知ってもらいたい
地域ではなかなか地域包括支援センターという場所については「どんなところだろう」といった認識の住民の方もいらっしゃるかもしれません。
地域包括支援センターの業務や活動を周知し、地域との結び付きを強くしていくことも今後の地域包括支援センターの課題になります。
今回は、地域包括支援センターでのとある一事例をご紹介しました。
これを機に、少しでも地域包括支援センターについて知っていただけたら幸いです。
ふゆみん
病院での病棟勤務や地域包括支援センターでの保健師業務を経て、今は重度心身障害者福祉施設で看護師として働いてます。ちょこっと特養で働いていたこともあります。今は社会福祉士の資格を取るべく学生と社会人の二足のわらじを履いてます。よろしくお願いします。
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