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現時点でAIは診断支援ツール、診断・治療の最終責任は医師に―保健医療AI開発加速コンソーシアム (2019/1/17 メディ・ウォッチ

関連ワード : 医療 科学技術 

 AI(人工知能)は画像診断やゲノム解析分野などで極めて有用なツールであるが、判断に誤りもある。現時点では「AIを活用した診療」であっても、最終責任は医師が負わなければならない。ただし、あくまで「現時点の技術」を前提とした整理であり、今後AI技術が進展する中で、その整理も逐次見直していく必要がある―。

 1月16日に開催された「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」で、こういった点が再確認されました。

1月16日に開催された「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」

1月16日に開催された、「第4回 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」

AIは極めて有用だが、判断に誤りもある、「AI判断を鵜呑みにしない」ことが重要

 大量の知識データに対し高度な推論を的確に行うことを目指す人工知能(AI:artificial intelligence)の技術が進み、保健医療分野での活用が既に始まっています。厚生労働省は、(1)ゲノム医療(2)画像診断支援(3)診断・治療支援(問診や一般的検査等)(4)医薬品開発(5)介護・認知症(6)手術支援―の6分野を、AI活用を重点的に進める分野に定め、専門家で構成される「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」(以下、コンソーシアム)においてAI活用推進方策などを議論しています。

 AI活用を進めるにあたりさまざまな課題がありますが、その1つとして、「AIによる診療支援」と「医師の判断」の関係性をどう考えるか、という論点があります。現時点では、「AIを用いた推測結果には誤りがありうる」「AIの解釈と専門医の解釈は完全に一致はしない」ためです。

 1月16日に開催されたコンソーシアムでは、「AIを活用した医療」研究の第一人者である横山和明参考人(東京大学医科学研究所附属病院・血液腫瘍内科助教)から、「AIを用いた画像診断支援」(内視鏡画像をAIが解析し、がん診断を補助する)や、IBM社の「Watson for Genomics」(WfG)を活用した白血病全ゲノム解析(遺伝子の変異状況を確認し、最適な治療法の選択を補助する)の現状が報告されました。

 例えば後者の白血病全ゲノム解析では、ヒトが文献等をもとに最適な治療法を選択するには多大な時間(1-2週間)と労力が必要ですが、WfGを活用すれば、わずか3分で最適な治療法の候補が示されるなど、AIが非常に有用な診断支援ツールであることが再確認されています。

保健医療分野AI開発加速コンソーシアム2 190116

 もっとも前述したように、AIの推測結果も現時点では完璧ではありません。例えば前者の画像診断については、「がんが疑わしい」との判定結果がAIと内視鏡専門医とで異なることがあることなども報告されています。

保健医療分野AI開発加速コンソーシアム1 190116

保健医療分野AI開発加速コンソーシアム3 190116

 横山参考人は、▼診察▼検査▼診断▼治療―の診療のステップには、「医師による結果判断・解釈」のサブステップが存在し、現時点でAIは「医師主体判断のサブステップにおいて、その効率を上げて情報を提示する支援ツール」に過ぎないとし、AIを活用した診療においても、「医師が、最終的な判断の責任を負う」ことが原則ではないかと訴えました。

 厚労省大臣官房の迫井正深審議官(医政、医薬品等産業振興、精神保健医療、災害対策担当)(老健局、保険局併任)も、横山参考人の研究結果等を踏まえて、「現時点ではAIを活用した診療を行う場合も、診断、治療等を行う主体は医師であり、医師が最終的な判断の責任を負う。当該診療は医師法第17条の医業として行われる」ことを昨年(2018年)12月19日付の通知「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」で再確認・周知した旨を説明しました。

 ただしAI技術は急速に進化し、将来、「医師の判断を凌駕するAI」が登場する可能性も否定できません。このため、迫井審議官は「将来の技術がどうなるのか明らかでなく、個々の事例でも変わる」とし、上記通知等は「現時点での技術を前提として整理したもの」であることを強調しています。

 この点について山内英子構成員(聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)は、「将来、技術が進化する中では『医師が確認できない』高レベルのAIが登場すると思われる。そうした場合にも『最終的な判断の責任は医師にある』となればAI活用を躊躇する医師も出てきかねない」とし、技術進化に合わせた解釈の必要性を訴えています。AIの判断・解釈が専門医を凌駕するなど、AIが「診断支援ツール」の域を超えた活用がなされるようになれば、上記通知等の見直しも検討されることになるでしょう。

 また横山参考人は、「医師に対し、診療支援AIについての適切な教育を行い、安全性を確保していくべき」とも提案。その際の留意点として横山参考人は、「AIの判断を鵜呑みにしない」ことを適切に教授する必要があると強調しています。

 コンソーシアムでは、今後もAI活用に向けた課題と解決方向などを練り、6月を目途に議論を取りまとめる予定です。

認知症高齢者の状態を把握しAIで解析することで「BPSD」防止ケアが可能に

 なお、1月16日のコンソーシアムでは「(5)介護・認知症」分野でのAI活用事例も報告されています。認知症高齢者では、粗暴行動などの周辺症状(BPSD)が問題視されていますが、BPSDは、認知症高齢者が「不快な状態」から逃れるための行動であると考えられています。この点、認知症高齢者の状態をリアルタイムで観測し、AIを用いてそれを解析することで、BPSDの前提となる「不快な状態」等の発生を検知。あわせて、「不快な状態」等を改善するための適切な介護・ケア案をAIが提示し、介護者がそれを実施することでBPSD発生を防止できると考えられます。

 AIは、画像診断等の支援やゲノム解析など医療分野での活用が進められていますが、深刻な人手不足等が危惧される介護分野での活用も進められていきます。

提供:メディ・ウォッチ

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