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第三者による情報取得制度について (2018/11/29 企業法務ナビ

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1 はじめに

 平成30年10月4日、法務省法制審議会民事執行法部会総会において、民事執行法改正についての要綱が採択されました。審議された事項はほかにもありますが、今回は財産開示手続の見直しに焦点を絞り、制度の概要・予想される実務への影響を検討していきたいと思います。

通帳

2 改正の経緯

 債務者の財産を差し押さえて執行するためには、財産を特定して執行の申立てをしなければならないとされています(民事執行規則23条・133条)。強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在・範囲・債権者・債務者を表示した公の文書を債務名義といい、裁判でこれを取得することにより、強制的に財産を差し押さえて執行が可能になります。一般的に、債権者は債務者の財産情報を保有していないため、債務名義を取得していても権利が実現できないということがありました。

 そのため、平成15年には財産開示手続が設けられましたが、(1)財産の情報提供は債務者による陳述を待つしかないこと(2)債務者不出頭などの違反に対する制裁が過料に過ぎないことで実効性を欠き、活発に利用されてはきませんでした。

3 改正点

(1)財産開示手続の見直し
 現在の制度では、債務名義の範囲について、仮執行宣言付き判決・支払督促・執行証書等では財産開示を申し立てることができないとされています。改正案が実現すれば、これらにも申立資格が認められるようになる見込みです。また、実効性担保のため、違反に対する罰則も強化されるとのことです。

(2)第三者からの情報取得制度の創設
 第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度を新設する案が出されています。

・預貯金情報
 判例(最決平23.9.20民集5巻6号2710頁)では、預貯金債権の差押えでは申立ての際に取扱支店を特定しなければならないとされています。差押えにあたり、預貯金財産情報を取得しておくべき実務上の必要性が高いため、預貯金情報を第三者から情報を取得できるようになる見込みです。

・預貯金情報以外
 預貯金情報以外については、情報取得の必要性・第三者が負うこととなる情報提供義務等の根拠・債務者の個人情報等への配慮から、不動産情報・給与債権情報について、第三者から情報を取得できるようになる見込みです。第三者情報取得も強制執行の準備制度であるため、手続要件は財産開示と同じものになると考えられています。

 公的機関が有する不動産情報・給与債権情報を得る場合には財産開示手続を先に行わなければなりません。他方、預貯金等の金融資産は流動性が極めて高く、事前に財産開示手続を前置すると差押えを回避されてしまう可能性があるため、事前手続は必要無いとされる見込みが高いです。

4 今後の実務について

 今回の改正により、金銭給付判決等の債務名義の実効性が高められ、司法による紛争解決機能がより強化されたということができると思います。

 預金債権の差押えをする場合、これまでは「〇〇支店に預金があるだろう」という予測を立て、債権者が金融機関を特定する必要がありました。弁護士照会制度を利用して金融機関から預金の有無等を答えてもらうことができますが、口座名義人の同意が必要であることが多く、回答が貰えない可能性もあります。照会制度を利用した場合、東京弁護士会の場合は8344円(手数料7560円・郵便代784円)かかります。法テラスを利用できる法律扶助事件の場合は郵便代のみです。

 今回の改正案が通ることで公的機関から情報を得ることができるようになるため、強制執行の手続もスムーズになると思われます。また、紹介制度にかかる手数料を節約することもできます。これらの改正は、商取引に与える影響も小さくないと考えられます。法務部としては、差押え手続を取りたいときの現在の流れを確認し、「法改正後はこのように変更されるだろう」という見通しを立てておくことで、改正にスムーズに対応でき、業務を円滑に進めていけることかと思います。

提供:企業法務ナビ

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