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2016年度1人当たり医療費の地域差、最大の要因は「後期高齢者の入院受診率」―厚労省 (2018/10/4 メディ・ウォッチ

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 2016年度の1人当たり医療費(市町村国保+後期高齢者医療)は全国では54万3931円だが、都道府県別に見ると最高の福岡県(64万6488円)と最低の新潟県(47万1857円)との間では1.37倍の格差がある。医療費の地域差には、入院における受診率と1件当たり日数(つまり在院日数)、入院外における1件当たり日数が大きく関係している―。

 厚生労働省は9月28日に、2016年度の「医療費の地域差分析」を公表し、こういった状況を明らかにしました。

病院

医療費「西高東低」の傾向は依然継続

 2025年度には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、今後、医療・介護ニーズが急速に増加するため、「医療費の適正化」対策が重視されています。この点、「1人当たり医療費には大きな地域格差があり、これを是正していく必要がある」ことが骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)でも指摘されています。

地域別の医療費は、「地域の人口」と「当該地域の1人当たり医療費」に分解することができます。ただし、1人当たり医療費は年齢との関係が強く、また地域によって年齢構成は区々であるため、「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたっては、「地域ごとの年齢構成(高齢者割合など)の差」を調整することが重要です。

市町村国保加入者と後期高齢者医療制度加入者を合計した「1人当たり年齢調整後医療費」は2016年度には、全国54万3931円となりました。都道府県別に見ると、最高は福岡県の64万6488円(全国の1.189倍、前年度に比べて0.005ポイント低下)。次いで、高知県64万1114円(同1.179倍、同0.007ポイント低下)、佐賀県63万5168円(同1.168倍、同増減なし)と続きます。

また、最も低いのは新潟県の47万1857円(同0.867倍、同増減なし)。次いで、岩手県48万1479円(同0.885倍、同0.007ポイント低下)、千葉県48万6182円(同0.894倍、同0.006ポイント上昇))、静岡県47万8000円(同0.890倍)などと続きます。最高の福岡県と最低の新潟県では1.37倍の開きがありますが、前年度からわずかですが地域差が縮小している状況が伺えます。

医療費の地域差を、日本地図を色分けした医療費マップで見てみると、「西日本で高く、東日本で低い」(西高東低)傾向が依然として継続しています。

<診療種別計>

市町村国保+後期高齢者医療における都道府県別の「年齢調整後の1人当たり医療費」をマップ化したもの。西日本と北海道で高く、東日本で低い

入院医療費の地域差、「受診率」が大きく影響、不要な入院がないか検証が必要

 では、1人当たり医療費の地域差が生じる原因はどこにあるのでしょう。この考察には、医療費を次の3要素に分解することが有用です。

▼1日当たり医療費:単価(単価の高低の評価は容易には行えませんが、例えば「不必要な検査をしていないか」「後発品の使用は進んでいるか」などを考えるヒントになります)

▼1件当たり日数:1回の入院や外来でどれだけの日数、医療機関にかかるのか(例えば、同じ疾病、同じ重症度の患者間で入院日数が大きく異なれば、「退院支援がうまくきのうしているのか」などを考えるヒントになります)

▼受診率:どれだけの頻度で医療機関にかかるのか(例えば「頻回受診、重複受診がないか」などを考えるヒントになります)

また医療費の地域差に、「入院」「入院外」「歯科」がどれだけ影響しているのかを見ると、「入院」の影響が大きいことが分かりました。

<地域差指数の診療種別寄与度>

市町村国保+後期高齢者医療の地域差への寄与度は、入院医療費が最も大きいことがわかる

 そこで、入院医療を3要素に分解して、地域差にどの要素が影響しているのか(寄与度)を見てみると、入院医療費の高い地域(高知県、福岡県、鹿児島県など)では「受診率と1件当たり日数が医療費を高める方向に寄与し、1日当たり医療費は低くする方向に寄与している」傾向があることが分かりました(前年度と同じ傾向)。また、入院医療費の小さな地域(静岡県、新潟県、岩手県など)では「受診率が医療費を低くする方向に寄与している」ことも分かります(やはり前年度と同じ傾向)。

図表4-14 三要素別寄与度

市町村国保+後期高齢者医療における「入院医療費の地域差」を3要素に分解したもの、「受診率」の要素が強く影響していることがわかる

 大づかみに、次のような傾向があると言えそうです。

▽「1日当たり医療費」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与する(1件当たり日数の低い地域では、短い入院期間中に濃密な医療を行うため、必然的に単価が高くなる)

▽「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与する

▽「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与する

 とくに「受診率」が入院医療費の地域差に大きく寄与していることが分かります。「入院医療が必要な疾病の罹患率に違いがある」のか、「入院が不要であるにもかかわらず、入院医療を提供している」のか、など詳細な分析が待たれます。

入院外医療費の地域差、「1件当たり日数」が大きく影響、不要な受診や訪問はないか

 次に、入院外医療費(調剤を含む)について、同様に▼1日当たり医療費▼1件当たり日数▼受診率―の3要素に分解した寄与度を見てみると、入院外医療費の高い地域(広島県、大阪府、佐賀県など)では「受診率と1件当たり日数が医療費を高める方向に寄与し、1日当たり医療費は低くする方向に寄与している」傾向が、逆に入院外医療費の小さな地域(新潟県、沖縄県、富山県など)では「受診率や1件当たり日数が医療費を低くする方向に寄与している」傾向があることが分かります(入院と同じ構造)。

図表4/17 三要素別寄与度

市町村国保+後期高齢者医療における「入院外医療費の地域差」を3要素に分解したもの、「1件当たり日数」の要素が強く影響していることがわかる

 入院外については、「1件当たり日数」が地域差に大きく寄与していることが分かり、「一連の治療において、不必要な外来受診・訪問診療などが行われていないか」確認する必要がありそうです。

入院医療費には「後期高齢者の受診率」が大きく影響、社会的入院が生じていないか

 また医療費において、「どの年齢層の医療費が地域差に寄与しているのか」を見ると、高齢者、とくに75歳以上の後期高齢者の影響が大きなことが分かります。

図表4-10 年齢階級別寄与度

市町村国保+後期高齢者医療における「医療費の地域差」を年齢階層に分解したもの、「高齢者」の要素が強く影響していることがわかる

 そこで、高齢高齢者に限定して、入院医療費(やはり地域差への寄与度は入院外や歯科に比べて入院で大きい)を3要素に分解し、地域差にどの要素が影響しているのか(寄与度)を見てみると、「市町村国保+後期高齢者医療」と同様に、▼受診率▼1件当たり日数―が、地域差に大きく影響している、つまり「入院医療費の高い地域では、後期高齢者の受診率が高く、入院日数も長い」ことが分かりました。

図表3-14 三要素別寄与度

後期高齢者医療における「入院医療費の地域差」を3要素に分解したもの、「受診率」の要素が強く影響していることがわかる

 「本当に入院医療が必要な医療で、入院をしているのか」「いわゆる社会的入院などの是正は進んでいるのか」などを適切に分析する必要があるでしょう。

年齢調整後の1人当たり医療費、市町村別に見ると北海道雨竜町が最高

 次に、市町村別に「市町村国保+後期高齢者医療の1人当たり実績医療費」(年齢調整をしていない)を見てみると、最も高いのは高知県大豊町の93万1830円。次いで高知県馬路村92万1224円、北海道雨竜町90万7190円、北海道積丹町89万456円、高知県北川村87万3927と続きます。前年度は高知県の自治体が上位を独占していましたが、やや様相が変わってきています。

 逆に1人当たり実績医療費が低いのは、下から東京都御蔵島村27万9309円、長野県川上村31万169円、東京都青ヶ島村31万6262円、沖縄県北大東村32万9493円、福島県檜枝岐村33万2012円となっており、離島や山間地が目立ちます(医療資源が少ないため、必然的に医療費が低くなる)。

 また年齢構成を調整した上で、医療費が全国平均からどれだけ乖離しているのかを示す「地域差指数」を市町村別に見てみると、もっとも高いのは北海道雨竜町の1.469で、北海道積丹町1.391、北海道壮瞥町1.384、高知県奈半利町1.356、高知県芸西村1.354と続きます。

 逆に地域差指数が低い自治体は、長野県売木村0.640、長野県天龍村0.648、新潟県津南町0.657、山形県大蔵村0.662、東京都小笠原村0.665となっています。

提供:メディ・ウォッチ

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