災害に学ぶ「リスク管理」 (2018/9/28 セキュリティレポート)
今年は例年になく多くの災害に見舞われた夏として記憶されることは間違いないでしょう。
東日本大震災以降、国内では様々な防災対策が見直され、従来のような「防災」に加えて「減災」という考え方も広がりましたが、それでも想定外の被害や犠牲者が出てしまったシチュエーションもあります。
「防災」や「減災」とは結局のところ「予測しうる災害」に対して「どのような備え」ができるか・実現可能かを検討・実施するということに他なりません。
考え方としてセキュリティ対策に通じる部分もあり、この夏明らかになった被害から学ぶべきものも多いのではないかと思いますので、「リスク管理」とは何か考えてみたいと思います。
西日本豪雨におけるダム放水と避難誘導の成否
西日本豪雨では各地でそれぞれ異なった状況による様々な被害が発生しましたが、その中でも愛媛県の肱川流域における水害は「自然災害」なのか「人災」なのかを巡って大きな議論を呼んでいます。
そもそも上流に設置された2つのダムは多目的ダムとして設計されており、平時における利水や発電と降雨時における流量調節の役割を担っていました。
つまり洪水に対するリスクコントロールがそもそもの目的だったと言えます。
本来は上流で降った雨をダムで一旦受け止め、下流での洪水を防ぐことがその目的ですが、今回のような異常な大雨の際にダムへの流入量とほぼ同じ水量を放流せざるを得ず、結果として下流部での洪水を防げなかったというのが外形的な事実でしょう。
放流のオペレーションやタイミング、さらには下流域住民への告知の方法など、それぞれが適切だったのかはこれからの検証待ちですが、必ずしも行政側が一方的に非難されるのはやや酷ではないかという印象もあります。
台風21号による関西国際空港孤立問題
近畿地方を中心に大きな被害をもたらした台風21号では、関西国際空港が高潮により冠水し、加えて唯一の連絡橋にタンカーが衝突し文字通り「孤島」になってしまい、多くの利用客や職員が閉じ込められ被害が大きな注目を集めました。
関空にしてみればまさに想定外の事故が重なったという状況で、事前に予測して防ぐことが難しかったのではないかと想像されます。
元々、何らかの災害が発生した際に「孤島」になってしまうリスクは想定されており、大量の備蓄食料なども確保されていたことを考えると、必ずしも関空を非難することはできないと思います。
いざとういときのために連絡橋を2本架けておけという乱暴な主張も見受けられますが、平常時の輸送量を考えると持て余す可能性もあり、メンテナンスコスト等も考えると経済性に疑問符がつきます。
そもそも関空が大阪湾の孤島に開設された経緯は、伊丹空港における騒音問題や成田空港における用地買収に端を発する「成田闘争」を反省として、それらの騒音リスクや用地買収リスクを回避するために現在の位置に現在の設計で開設されています。
結果としては今回のような事態が発生してしまったわけですが、「孤立化・水没リスク」と「騒音・住民対策リスク」を比較した上で存在していることを覚えておいてもよいかもしれません。
北海道胆振東部地震における大規模停電
北海道で発生した地震に関連して、苫東厚真火力発電所が緊急停止、連鎖的に道内の他の発電所も停止し、道内全域でブラックアウトが発生する事態となりました。
直接的には道内の約半分の電力供給を担っていた発電所が停止し、需給バランスが著しく崩れたため他の発電所も施設破壊防止のために自動的に停止したためと言われています。
北海道電力の発電能力計画が特にリスク管理の観点から適切だったのかが議論を呼ぶところで、もちろんそのために発電所の立地を分散させたり、エネルギーミックスの考え方があるのは言うまでもありません。
一部では泊原発が稼働していれば防げたという論調もありますが、その辺りはこれからの検証結果次第でしょう。
それを差し引いても、北海道電力管内で100万kW以上の出力を持つ発電所が苫東厚真火力発電所1ヶ所だけというのは、リスク管理としてどうだったのかという議論になると思われます(それもあって石狩湾新港発電所が建設・計画中ではありますが)。
一方で、近年北海道はデータセンタ立地として注目を集めてきましたが、今回の大規模停電によって致命的な障害が発生したデータセンタはなく、いずれのデータセンタにおいても非常用自家発電機等への切り替えがスムーズに行われたように見受けられます。
データセンタがそもそもの生命線である電源に対する備えをきちんとしていたからということに他なりませんが、急な地震にも想定していた切り替えのオペレーションを粛々と実施したデータセンタ関係者には頭の下がる思いです。
いずれの事例においても、一定程度のリスク予測をしてそれに対する備えをしていたことは見て取れますが、その予測を超える事態が起きた時の対応の良し悪しが評価を分けます。
一部のマスコミや一般の反応を見ていると、「あらゆる事態を想定して、想定外の事態が起きたとしても完璧・安全にこなせ」という論調もあるような気がします。
もちろん金や時間や手間を際限なくかければ可能なのかもしれませんが、経済合理性の問題もありますし、複数存在するリスクの中からどれかを選ばなければならないという状況もあるということは知っておく必要があるのではないでしょうか。
勘違いされがちですが、「リスク管理」とは被害や損失を「回避・防止」するだけでなく「低減」することも目的のひとつです。
何事においても完璧を求めるのはやや過大な要求という状況も時として存在します。
そして何より重要なことは、事前に可能な限りでのリスク想定をすることとあわせて、いざ問題が起きた後に対応が適切だったのか、他に方法があったのかなどを評価することではないかと思います。
こういった災害にまつわるものはある程度落ち着くと忘れられてしまうか、反対方向に振り切って裁判などで検証されてしまうかのどちらかのような気がしますが、どちらにせよ建設的で今後につながる評価をして欲しいと願わずにはいられません。
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