お寺は劇場、法要は演劇―よそもの住職が救った廃寺の危機 (2018/4/12 70seeds)
福井県越前町。山と海に囲まれた人口2万人程度の自然豊かなこの町に、善性寺という浄土真宗本願寺派の小さなお寺があります。
実はこのお寺は、最近まで廃寺の危機に直面していました。その危機を救ったのが、新聞社勤務やレストラン運営という異色の経歴を持つ、住職の山田靖也(山田黙鐔)さんです。
お隣の鯖江市から車を走らせること数十分。シーズン中は、越前がにを求めて、多くの観光客で賑わう飲食店や民宿が立ち並ぶエリアを抜け、善性寺に到着。にこやかに出迎えてくれた山田さんから語られたのは、「お寺」が持つローカルでグローバルな可能性でした。
僧侶になったことで自分の生き方に肉付けができた
――まずは山田さんの経歴を教えてください。
明治大学を卒業後、読売新聞に勤務しましたが、なにしろ休みがなくて。冗談かわかりませんが、健康だと「もっと働け!」って怒られるような環境でした(笑)。どんな仕事でも苦しいことは多いと思うんですが、そんな環境で働く中で「意味あるのかな」「これ以上いたら辞められなくなるな」と感じるようになって、25歳で退職したんですね。
その後は、四国にお遍路に行ったり、ワーキングホリデーでカナダに行ったり、ヴィーガンレストランを運営したり、善性寺の住職になったりと色々なことがありました。
――僧侶になったのは何がきっかけだったのでしょうか。
僧侶みたいな、公的な生き方をしたいと思っていました。自分の喜びが他の人にも広がるような喜びを提供したいと思ったんです。社会的に意味のあることをしたいと思っても、普通の人では信用がないですよね。でも僧侶が言うと、説得力がある気がしませんか? その分責任はありますが、僧侶になることで「自分の生き方に肉付けができた」ような気がします。
ただ、最初から僧侶になりたいという思いがあったわけではなくて。2年前に隣の集落のお寺の法要に参加したのが、大きなきっかけとなりました。法要後すぐに「僧侶になりたいです」と住職さんに話して、そのご縁で出家することができたんですね。
僧侶になったからには、いずれ住職にという思いが生まれ、資格取得の勉強をしていたところ、善性寺が廃寺の危機だという話を聞いて、9月末に住職になりました。
――きっかけとなった法要は、どのようなものだったんでしょうか。
法要なのに、ファッションショーや寸劇が行われる珍しいものでした。最後の法話では、仏様のお話をするのかなと思っていたんですが、震災で被災した福島の子どもたちとキャンプをしたり、向こうにボランティアに行ったりした話で、すごく実践的な内容だったんです。そのときに「お寺って良いな」と思ったのが、大きなきっかけでしたね。
――福井では「テクノ法要」が有名ですが、私たちがイメージする法要やお寺、僧侶とは大きく違っているような気がします。思っているよりファンキーですよね(笑)。
法要は、浄土が素晴らしい世界だと演出するための演劇のようなものなんです。娑婆(しゃば)とは違って、いずれ行く世の中は素晴らしい場所だと人々に分かってもらうための劇場だと思っています。だから、そのための空間づくりを上手にしていきたいです。
昔はお経をあげたり法話をしたりするだけで十分だったのかもしれませんが、今は違いますよね。娯楽も溢れているので、より面白さを提供できなければならないと思っています。
――善性寺では、面白さを提供するために具体的に何を行っているのでしょうか?
お彼岸に法要を行っているのですが、そのときに精進料理教室を開催しました。まだ越前町には、法事や法要の際にふるまう精進料理の伝統がわずかながら残っています。
この伝統は廃れてきているものの、現代風にアレンジしながらも作り方を教室で教えて、コンサートもはさみながら食べてもらいます。(2017年)12月には25人ほど、2018年3月には35人ほど集まり、いずれも好評でした。
お寺が地域の人々の拠り所であってほしい
――現代人は、特別な時にしかお寺に行く習慣がありません。用事がない時は入っていけないのでは?くらいに思っているかもしれません。しかし、全く逆で、お寺はもっと人々の近くに存在するものなんですね。「駆け込み寺」という言葉を思い出しました。
駆け込み寺。まさにそうですね。善性寺でも、戦後は日本に戻って来た人を預かっていたそうです。私はヴィーガンレストランの運営など食にも携わる人間なので、お寺が単に人のよりどころとなるだけでなく、食料なんかも置いておくべきだと思っています。
お寺はソーシャルビジネスだと思っていて。お寺は主に檀家さんからのお布施などを収入としているので、いただいたお布施などを、どのように使うかは非常に重要です。私利私欲のためでなく、お寺の維持や、地域の人が喜ぶ公的な使い方をしていきたいものです。
――お寺へのイメージがガラッと変わりました。過疎地域で、お寺や住職さんが担う仕事はとても大きそうですね。
お寺をどう運営するかで、まちの運命が左右される。それだけお寺というのは、大きな意味を持つ場所だと思っています。善性寺は築200年を超えているので、地域の宝物だと思っています。維持できなくなって壊されてしまうのは、もったいないですよね。
時代の流れがあるので、廃寺が増えてしまうのは仕方がないことでもあります。でも、少ないながらも人が住んでいる地域のお寺が廃寺になると、人々の拠り所がなくなってしまったり、みんなが守って来た思いが途絶えてしまったりすることになります。
――善性寺としては、どのようにお寺を守っていきますか?
お寺を中心に、地区ぐるみで町の未来を考え、活性化させられたらいいですよね。だから、僕は時間が許す限り、地区の総会やイベントに参加するようにしています。善性寺の行うことが自然と地区の活性化につながるようになればと思っています。
超ローカルと超グローバルが同居するお寺づくり
――町の活性化のために、今後やりたいことはありますか?
「善性寺まんじゅう」!(笑)。近くに15年くらい前に辞められたお菓子屋さんがあるので、その場所を活用できないかなと思っています。
――なぜ「おまんじゅう」なのでしょうか。
お寺を雇用を生み出す場所にしたいんです。とはいえ、月に十数万を支払うような雇用ではなく、お小遣い稼ぎする人をたくさん増やしたいという感じですね。周辺にはお年寄りもたくさんいるので、体を動かして充実した生活をしてもらえる一助になれたらいいなと。
でも「やりましょうよ!」と働きかけるのも何か違うと思うので、お年寄りにも親しんでもらえる「おまんじゅう」で、なんとなくから関わってもらえたらと思っています。
――まさにお寺が町を活性化させる取り組みですね。ぜひ作って欲しいです!
善性寺まんじゅうは超ローカルですが、僕は「超ローカルと超グローバル」を目指したいんです。以前3カ月ほど、タンザニアの農業研修生が来たことがありました。冬だったので、やることはあまりなかったのですが、クワの使い方がすごく上手くて驚いたんです。
昔は外国人に偏見を持っていたことがありましたが、カナダで助けられたことも何度かあって、偏見がみるみるうちに尊敬に変わりました。外国人が来て、地元の人と交流してもらうことで、お互いの偏見がなくなって何かが起こるかもしれないと思うんです。
――外国の方にもお寺は人気があるので、いい化学反応が起きそうですね。外国人の方でも僧侶や住職にはなれるんでしょうか?
外国人の僧侶は増えているんですよ。例えば善性寺が、国籍を問わず僧侶養成所のようになって、空き寺に行かせるような仕組みも作れたらいいなと思っています。外国の方とも一緒に汗を流して交流することで、善性寺がまちの活性化の一助となれば嬉しいです。
◇ ◇
【編集後記】
福井県は全国トップクラスで寺院数が多い県です。文化財のお寺も至るところにあるのですが、勝手に見学していいのかな?と思うことがしばしばありました。
しかし、今回のお話を伺って、お寺はもっと私たちのそばにあるものだということに気づき、お寺への意識がガラッと変わりました。お寺と私たちの距離はずいぶん離れてしまっている現代ですが、私たちに歩み寄ろうとしてくれるお寺は増えているようです。
お寺が拠り所であるという意識を持てたら、世の中も何かが変わるのかもしれません。
- WRITER
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江戸しおり
2015年にパティシエからフリーランスライターに転身。福井県鯖江市の体験移住事業「ゆるい移住」に参加したことで、福井を始め、地方に眠る知られざる魅力に興味を持つようになる。現在は、自身が運営する福井県の情報サイト「Dearふくい( https://dearfukui.jp )」などで、地方の魅力や地方創生にスポットを当てた記事を多数執筆している。
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