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着物でつくる「究極のオートクチュール」ー若手作家が切り拓いた自分だけの手描き友禅 (2017/12/25 70seeds

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織物、陶芸、染色…。日本各地にはたくさんの伝統工芸品が存在します。最近では、その歴史ある伝統に若手デザイナーやクリエイターの感性が加わることによって、新しい伝え方、ものづくりへの展開も盛んですよね。

今回ご紹介する眞鍋沙智さんもその担い手の一人。京都にアトリエを持つ、愛知県出身の若手の手描友禅作家です。

「友禅」とは、日本の代表的な染色工芸のひとつ。そのなかでも手描友禅は、すべての工程を緻密な手作業で絵画のように描き染めていく、江戸時代から続く染色技法です。

手描き友禅

目を奪われるような大胆なデザインと華やかな色づかいが特徴的な眞鍋さんの着物はどうやって生まれたのでしょうか。“伝統”と“現代”の狭間に揺れ、紆余曲折を経ながらも道を切り拓いた彼女のストーリーを追いかけました。

着る、描く、歴史、アート…全ての「好き」がリンクした友禅

――そもそも、友禅との出会いは何だったんでしょうか?

親戚に能楽師がいたので中学からお能をやっていたり、小さいときから日本の伝統芸能に触れる環境があったことと、歴史に関心が強かったことですね。

絵を描くことも好きだったので、母から「友禅は絵を描くように着物に柄付けして染めてるんだよ」と教えてもらったことをきっかけに、歴史の勉強ができて、もともとなじみのある京都の大学の文学部に進学しました。

芸大への進学にも関心があったのですが、「絵は勉強しながらでも描き続けられるんじゃない?」という親の誘導もありましたね(笑)。

眞鍋沙智さん

――親の誘導…芸大・美大志望の子どもを持つ親御さんのあるあるですね。

就職難の世代だったんですよね。でも大学に入ってすぐ、絵の基礎づくりをするために通い始めたアトリエ路樹絵というデッサンスクールで知り合った人に教えてもらった、京都市が主催している手描友禅の講習で見事にハマってしまい…。技法が自分と合っていたんですよ。

――技法が合っている?

はい。ファッションも好きだったので、着れて、描けて、歴史やアートにもリンクする。見るものとしても着るものとしても成立する着物の魅力に惹かれたんです。

将来的にそっちにいくためにはどうしようかと考えながら、美術館巡りをしたりインプットを蓄積して過ごしていたある日、後にお世話になる師匠(友禅作家・吉田喜八郎氏)の元で働いていた方と知り合い、工房に来てみないかと声をかけていただきました。

――門をたたいたと。

師匠の作品があまりにも美しかったので、惚れ込んでしまって。厳しい業界だぞ、ということは事前に伺っていましたが、着物を作りたい、どうやったら作れるんだろうという希望と熱意に突き動かされ、弟子入りを申し入れ、受け入れていただきました。

それでも夢と希望しかなった

――先生もおっしゃったとおり、業界が厳しいなか、一般的な就職とは異なるキャリアスタートに不安や周りからのプレッシャーはありませんでしたか?

めちゃくちゃありましたね。私たちの世代って前倒し前倒しで就活していたので、ずっとキャリアセンターから「どうなってるんですか?」って詰められてたし。親はなかば諦めがついてたので応援してくれてたんですけど、友人のことは気になっていました。

文学部だったので、公務員や学校の先生になった子も多かったし、ダラダラしてた人たちでも一般企業の内定をガッチリ決めていくのを見ていたら、私これでいいのかな…みたいな。

――そんなときでも自分のやりたいことを貫き通せたのはなぜだったんでしょう。

若くて怖いもの知らずだったっていうのもあるかな。なんとなく、今着物ってそんなに売れてないだろうなぁぐらいはあっても、夢と希望しかなかったんです。友禅ができるし、できるようになりたいし、どうやって作ってるのかを解明したい…そういうパッションで。

――そこまで眞鍋さんをひきつける手描友禅の魅力はなんだったんでしょうか。

染料の色が絹にのったときの発色の美しさは他にはないと思います。これほど人の手仕事で手間をかけられるぐらい美しいものが実際に作り上げられることに感動しました。その分大変なんですけど、途中での軌道修正も実はできなくなかったりするので制作においても自由度が高いと思います。

眞鍋沙智さん

――その発色の美しさにたどり着くまでに、気が遠くなるほどの工程があるそうですが…。

いやぁ、辛いです(笑)。まず、原寸大の下絵を描き、主線をなぞって消しゴムで消し、生地に下絵をトレース。糸目糊で模様の輪郭をなぞって防染し、染めムラやにじみを防止する地入れ作業を経て、やっと彩色ができます。その後の加工も大変で…。

こんなにも一筋縄でいかないものかと入ってから気付きました。

リーマンショック…そして退門からの独立

――やっと解明できたと思ったら想像以上に大変だったと。先生のところではどれくらい師事してたんですか。

3年ほどお世話になりました。業界の状況は芳しくなく、景気の悪化もあいまって徐々に体調を崩してしまい、1カ月ほど熱が出るような不調に陥り、止むを得ずいったん退職しました。

――そんな厳しい状況を目のあたりにしながら、今度は独立して手描友禅に戻ったのは?

正直、一度やめようかなと思い実家の名古屋で過ごしたりもしていました。友人からお寺で開催される着物コレクション展に出品してみないかと誘われて、そういう機会があるんだったらぜひと。

――手描友禅作家として再スタートを切ったわけですね。どのような変化がありましたか?

それまでは師事先で学んだ作品作りを踏襲していましたが、一度既存の概念を忘れ、思い切って自分の作りたいものを考えて作ってみようと思い、制作を再スタートさせました。

――ギャラリーも拝見しました。これまでの着物にない、大胆で華やかな作品に目を奪われます…このダイナミックな蝶々が描かれたものとかすてきですよね。

手描き友禅

これは、スペインを訪れたときに行ったダリ宝飾美術館が発想の起点になりました。ダリは絵画以外にもジュエリーを作っていたんですが、動く宝石とかもあって発想がすごく面白いと思いました。スペインの建築物や歴史的な背景も吸収しつつ、ジュエリーのような蝶々が体に留まるイメージができあがりました。

あとは、つねづね着物に対して抱えていた不満があって…。近くでみると華やかで美しい着物も、遠くから見たらピンクの花柄の着物だったね」で終わってしまう。そうじゃなくて、形で勝負できない分、柄でイブニングドレスと並んでも印象に残るような負けないような華やかな着物を作りたかったんです。

インスピレーションは映画や音楽、異業種の友人

――普段は、どんなところからインスピレーションを?

おもにインプットの対象にしているのは、映画、音楽、文学、歴史、海外のハイファッション雑誌とかも参考にしています。あとは、異業種の人たちとのコミュニケーション。

――例えばどういうことですか?

友人に素晴らしくアーティスティックなメイクと衣装でドラァグクイーンのパフォーマンスをしている方がいるんですけど、美意識が高く、また第3の目を持ってるような視点があるので刺激になりますね。心理カウンセラーの友人は、他の人が見ない人間の本質みたいなものをずっと見てきているので。

直接的ではないんですけど、そういう話から得たカケラが色んなかたちで熟成されて妄想して、私の着物の世界になんとなく影響を与えてくれています。

――伝統工芸の世界は閉ざされていることが多いなか、興味深いです。

同業の人だけだと閉塞しててつまらなくなってしまうこともあるし、足の引っ張り合いになってしまうこともあるなぁと思っていて。大学も美術系じゃなかったから、同期もそれぞれ違うことやっていて、話を聞くのも面白いし、私の話も面白がって聞いてくれます。

眞鍋沙智さん

――最近では眞鍋さんのように、若いクリエイターの人たちの力によって、伝統工芸に新たな可能性をもたらす動きも活性化しています。そのなかで眞鍋さんが意識していることはありますか?

自分の個性を怖がらずに出すこと。中途半端に、コンサバなもののほうが売れそうと思って作ってしまうと、自分も納得してないし、落としどころがなくできあがってしまう失敗を何回かしてきて。先ほどの話の繰り返しになりますが、思いきって作りたいと思っているものを作ったほうが結果いいなということを、身をもって感じました。

――はい。

でも、ある程度数を作ってきてバランスがうまく取れるようになってきましたね。私の着物はニッチな層のお客さんが好んでくださっていたので、これまで「ホームランか三振か」みたいな当たり方をしてきたんですけど、最近やっと、そこまで奇抜じゃないけど自分のエッセンスが出せるようなものづくりも出来るようになってきたように思います。

デザインの力で「友禅ってなんだろう」を増やす

――とは言っても、着物は同じように時間やコストがかかるわけで、特に独立後は食べていくのは大変じゃないですか?

そうですね。着物の制作はどうしても時間がかかってしまうので、アクセサリーや小物など、友禅を使ったプロダクト展開も進めています。自分のセールスポイントはデザイン性と色彩美だと思っているので、着物を着ていただくことが一番ですが、デザインとして認知してもらえるだけでも嬉しいです。

商品には必ず友禅の言葉を入れるようにしているので、「これ友禅なんだ、じゃあ友禅ってなんだろう」でもいいんです。友禅を知らない人のほうが多い現状なので、魅力を少しずつでも知ってもらえれば。それが最終、着物じゃなかったとしても。

友禅を使ったプロダクト

――もっと広く、友禅がみなさんの生活に馴染んでいくといいですね。

はい。ライフスタイルも多様化しているので、老若男女、国籍問わず見てもらえるようなものが作れたらいいなと思ってます。

――最後に、眞鍋さんが今後やりたいことを教えてください。

連作の着物を作ってみたいですね。例えば、4枚で一連の意味があるような着物。衣装性もデザイン性も高くて、着ることもできる。クリスチャンディオールのドレスとかってすごく夢があるじゃないですか。着物で究極のオートクチュールが作れたらいいかな、なんて思ってます。

◇        ◇

【取材を終えて】
業界の浮き沈みを経験し、それでも道が途切れなかったのは、周りの人の支えがあったから、そして、まさに友禅を描く一本一本の線のように繊細ながらも力強く、眞鍋さんが確実に歩んできたからなのだと感じました。

取材後、自宅の2階にあるという眞鍋さんのアトリエで作業を見学。朝から晩までこもってやっていることも珍しくないのだそう。凛とした表情で手際よく筆を走らせる彼女の手先から、次にどんな着物が生まれるのでしょうか。楽しみです。それにしても、職人さんの集中力、忍耐力、根気強さはすごい。

提供:70seeds

WRITER 
藤田郁

藤田郁
京都出身。IT企業、戦略PR会社を経て、2016年より70seeds編集部に所属。主なテーマは、地域、食、女性の生き方、ものづくり。”今”を生きる人たちのワクワクする取り組みを追っています。

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