タカタ元社員に米国公益通報者報奨金として1億円超支払いへ (2018/4/10 企業法務ナビ)
はじめに
日経新聞電子版は先月27日、アメリカの自動車安全公益通報者法に基づいて、タカタの元社員2名に報奨金113万ドル(約1億2000万円)が支払われることとなった旨報じました。同法に基づく報奨金は今回が初とのことです。今回は日本と米国の公益通報者保護制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、タカタ製エアバッグ・インフレーターの欠陥により死亡事故が発生した件で、同社の元従業員であるマーク・リリー氏と匿名のもう一人が米当局に告発、捜査に協力していたとされます。
同社では2000年ころからエアバッグを膨らませるためのインフレーターにより爆発力が強い硝酸アンモニウムを使用しはじめましたが、当初より安全性に疑問の声があり、両氏は同社に危険性を警告していましたが受け入れられなかったとのことです。
また同社は適切な試験を行わず、データも改ざんし欠陥を指摘する報告書も隠蔽していたと言われております。両氏の協力により米当局から刑事責任を追求され、2017年1月に米司法省に10億ドルを支払うことで合意が成立しました。
日本の公益通報者保護法
日本の公益通報者保護法では通報者が公益通報を行ったことを理由に解雇したり不利益な取扱をすることを禁止しております(3条~5条)。そして公益通報は通報先が3種類存在し、(1)労務提供先、(2)処分権限を有する行政機関、(3)その他マスコミや消費者団体などがあります。
それぞれに公益通報として保護されるための要件があり、(1)の社内通報の場合は通報事実が存在すると「思料」するだけで認められますが、(2)の行政機関の場合は信じるに足る相当な理由が必要です。そして(3)のそれ以外の場合は相当な理由に加えて、社内通報では解雇されたり隠蔽されたり危害を加えられる可能性があるといった場合に認められます。現行法上は違反しても罰則は存在しておりません。
米国の公益通報者保護制度
米国の公益通報者保護に関する法としてはまずSOX法(サーベンス・オクスリー法)が挙げられます。主に企業会計や内部統制の強化を目的とした法律ですが、日本のものと同様に内部告発を理由とした解雇や降格、嫌がらせや脅迫などの不利益取扱が禁止され禁錮刑を含む刑事罰が規定されております。そしてリーマンショックを機に制定されたドッドフランク法があります。これは金融市場や証券市場の安定と消費者保護などを目的としたもので証券取引法違反事実に関して内部告発を行った者に報奨金を支給する点に大きな特徴があります。
そして今回のタカタエアバッグの欠陥問題を受けて制定されたのが自動車安全公益通報者法です。この法律は連邦自動車安全法に違反する事実について内部告発を行ない、当局の捜査に協力し、それによって当局から100万ドル以上の罰金が課された場合にその10%~30%が報奨金として受け取れるというものです。ドッドフランク法と同様に高額な報奨金によって内部通報へのインテンシブを与えることを目的としています。
コメント
本件でタカタの元従業員であるマーク・リリー氏らは113万ドルの報奨金を受け取ることとなりました。同社が米司法省に支払う10億ドルのうち2500万ドルが罰金ということになり、その約1割が報奨金として与えられることとなります。
日本で内部告発者を解雇または不利益な取扱を行っても未だ罰則はなく、解雇無効確認か不法行為に基づく賠償請求といった民事訴訟によることになります。しかし米国をはじめとする諸外国では罰則も強く相当高額な罰金が課され、特に米国では数千億円規模の制裁金が課されることもあります。そこに加え高額な報奨金によって内部告発を促す法律が増加しております。
諸外国にくらべ日本の内部告発者保護は遅れていると指摘されており、公益通報者保護法に罰則を盛り込む改正に向けて政府も検討に入っております。これらの法制度の動きに注視しつつ特に海外進出の際にはコンプライアンス体制を今一度見直すことが重要と言えるでしょう。
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