テクノロジーは人事評価の歪みをどこまで修正できるのか… (2018/3/23 瓦版)
コミュニケーションの可視化実験で分かった主観のいい加減さ…
人事は伏魔殿。さすがに昨今、そうした印象は薄らいでいるが、会社内でいぶかしがられる筆頭候補に人事があることは否定できないだろう。人事部の人間が悪いというよりも、人生に関わりかねない評価が、主観を軸になされている印象が強いからだろう。では、そこから主観を排し、客観をメインに切り替えれば、クリーンで公正な評価につながるのだろうか…。
リクルートワークス研究所が、興味深い“実験”を行っている。内容は、コミュニケーション可視化による、人事進化の可能性だ。実験は、協力企業の社員52人を対象に、センサーデバイスを活用し、体の動き、発話による音声データ、コミュニケーションなどを計測。これらの取得データと、事前のアンケート結果を合わせるなどで、自己認知と実際の行動との差を検証した。
結果はどうなったのか。まず、1日のオフィス内での平均時間配分は、「長時間会議」が38.9%と最も長く、次いで、細切れ作業と推測される「移行時間」が19.1%を占めた。協力企業はエンジニアとデザイナーが半数を占めており、意外な結果といえるだろう。多いと思われた「一人作業」(16.4%)、「短い会話」(12.4%)は合わせても3割に満たず、可視化により、イメージと実態のギャップが鮮明になったといえる。
もっとも、このこと自体は特に課題をあぶりだすことにはならない。だが、もしも長時間会議は原則禁止としていたり、長時間労働は削減するという方針が会社として打ち出されているとすれば、「移行時間」を精査し、1日のスケジュールの組み方を変更するなどで、改善につなげることは可能だろう。こうした可視化をせずに、単に「残業禁止!」と、時間制限だけで目的を達成しようとすると、どこかに無理が生じるハズだ。それを考えれば、テクノロジー導入による働き方改革は、なんとなくを明確にする意味で、一定の効果が期待できそうだ。
実験では、社員同士のコミュニケーションの可視化も行われている。その結果、チームによって、コミュニケーションの多寡があることが判明。さらにマネージャーと部下のコミュニケーション割合も計測し、大きな偏りがあることが分かった。こうしたことは、どの企業でもありうることだが、例えば、コミュニケーションが多いチームは軒並み業績がいい、部下とのコミュニケーションが偏りがちな上司はマネジメント力が弱い、などの相関が分かってくれば、人事における評価データとして有効活用できるかもしれない。
テクノロジーとヒューマンジャッジの組み合わせによる人事最適化の可能性
客観評価の有効性を裏付けるような結果も得られている。会話や行動スタイルの認知について、なんと3割以上は、認知がズレていたのだ。会話のスタイルとは例えば「自分は全ての部下とまんべんなく話している」、行動スタイルは例えば「よく動き回るほうだ」といったもの。本人がそう認識していても、センサーデバイスによる“可視化”では、約7割がそうでない結果となっている。裏を返せば、主観による評価がいかにいい加減かを逆説的に証明している結果といえるだろう。
実験を行ったリクルートワークス研究所の研究員、城倉亮氏は、こうしたコミュニケーション可視化の可能性について次のように展望する。「センサーデバイスを管理に使うということにならないことが大前提だが、得られた情報を務めてオープンにすることで、人事課題の解決に活用できる可能性は十分にある。時間配分の可視化は量ではなく質への転換への転換へつなげられるし、コミュニケーションの可視化によって思い込みを排除できる。主観でなく客観データをベースにすることで、実効性のある人材育成も可能になる」。
職場では、信じられないような理不尽なやり取りが発生することがある。ロジックなしの無茶な指示・命令が飛び交うことも珍しくない。それを乗り切ることで成長につながる、という超主観的な理屈がその根拠だったりする。右肩上がりの時代なら、それでも結果はなぜか出たかもしれない。だが、今の日本は成熟期。頑張るだけで結果が出る時代ではない。行動やコミュニケーションの可視化が必ずしもベストとはいえないだろうが、主観とバランスよく組み合わせることで、働き方改革にも風穴が開き、まさに次世代型の職場が生まれる可能性も大いにありそうだ。
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