株主提案権を制限へ、会社法改正の動き (2018/1/16 企業法務ナビ)
はじめに
日経新聞電子版は15日、法務省法制審議会が1人の株主が提案できる議案数に制限をかける会社法改正試案をまとめた旨報じました。パブリックコメントを経て来年2019年の通常国会提出を目指すとのことです。今回は会社法改正案のポイントを見ていきます。
株主提案権とは
株主提案権とは一定の議決権割合を有する株主が、会社が招集する株主総会で一定の事項を会議の目的とする権利を言います。株主総会は原則として取締役が招集し(会社法296条3項)、その議題も基本的に取締役等が决定することになります。そうすると少数株主は株主総会にあまり影響を与える機会が無いことになります。そこでそういった少数株主も積極的に株主総会に参加し、意思を反映させる機会を確保することが目的となります。しかし濫用的な行使を防止するため一定の要件が規定されております。
株主提案権の種類
(1)議題提案権
議題提案権とは一定の事項を株主総会の会議の目的とすることを請求する権利を言います(303条1項)。議題とは例えば「取締役解任の件」「監査役選任の件」「定款一部変更の件」といった会議の目的そのものを言います。
(2)議案提案件
議案提案件とは株主総会で会議の目的となっている議題についての議案を提出する権利を言います(304条)。議案とは議題で决定すべき具体的内容のことで、例えば「取締役選任の件」という議題に対し、「◯◯氏を取締役に選任すること」といった議案を提出することをいいます。しかし本来会議の一般原則から、会議参加者は動議の提出を当然にできるものであり議案の提案件はその原則を確認しただけとも言われております。
(3)議案要領通知請求権
株主総会の目的となっている議題につき、株主が提出しようとしている議案の要領を招集通知に記載するよう請求する権利を議案要領通知請求権といいます(305条1項)。株主総会の招集を書面または電磁的方法で行う場合にはそれらに記載して、そうでない場合は別途株主に通知することを請求できます。
行使要件と行使方法
株主提案権を行使するためには一定の議決権要件があります。まず公開会社では議決権の1%または議決権300個を6ヶ月以上保有する必要があります(303条2項)。非公開会社で取締役会設置会社の場合は議決権割合については同じですが、保有期間の制限はありません。
非公開会社で取締役会非設置会社の場合はこれらの議決権要件はありません。そして行使する場合は株主総会の日の8週間前までに会社に請求する必要があります(303条1項、305条1項)。
また内容の制限として、議案の内容が法令定款に違反するものや以前に議決権の10%以上の賛成を得られず否決され3年を経過していないものは不可となります(305条)。
改正案のポイント
現在法制審議会会社法部会が取りまとめた試案によりますと、株主提案権で株主が提案できる議案数に制限をかける案が出されております。1人の株主が数百件の議案を提出したといった例もあり、このような総会の遅延や混乱を目的とした濫用的な株主提案を防止する趣旨です。
1人の株主が提出できる議案数を5個までにする案と10個までにする案が出されているとのことです。議決権要件は変更せずに、招集通知の発送を現在の2週間前から3週間前、4週間前に前倒しし、株主により早く情報提供する案も出されております。
またそれら以外にも株主の個別承諾無く事業報告などをインターネットで提供できる案や、社外取締役の設置の義務付け、特別取締役制度の拡充案なども盛り込まれております。
コメント
今回の改正案が実現した場合、株主から提案される議案の数が大幅に制限されることになります。米国やドイツといった海外の会社法では1人の株主が提案できる数は1個であったり、提案内容で制限している国もあるとされます。
現在日本の会社法ではこのような制限はありませんが、法改正によって1人で数百件の提案といった濫用的な提案が防止でき、総会運営が迅速なものとなり、本来重点を置くべき議題に集中できるよう期待できます。
また事業報告が原則インターネットとなり、よりコスト削減も期待できます。株主提案や招集通知といった株主総会の手続きに関しては、不備があった場合は株主総会決議取消の訴えの対象となってきます(831条1項1号)。法改正の情報に注視しつつ、株主提案などがなされた場合には議決権要件や期間要件、行使方法に問題が無いかなどを慎重に確認していくことが重要と言えるでしょう。
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