最高裁で遺族側の敗訴が確定、野外ライブ落雷事故訴訟 (2017/7/21 企業法務ナビ)
はじめに
野外ライブ中の落雷事故で観客が死亡し、遺族が主催会社に安全対策に不備があったとして損害賠償を求めていた訴訟の上告審で19日、最高裁は上告を棄却する決定を出しました。遺族側の敗訴が確定したことになります。今回は野外での落雷事故と安全配慮義務について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、2012年8月18日、大阪市の長居公園内にあるスタジアムでEXILEなどの人気アーティストが出演するコンサートが開かれました。当日午後2時過ぎ、同公園の南西部にある林に落雷があり、コンサートを観に来ていた女性(当時22歳)がそれを受け、病院に運ばれたものの翌日に亡くなりました。
亡くなった女性の遺族は、当日大阪市内に雷注意報が出ていたこと、公園入り口からコンサート会場までカラーコーンで誘導しており、来場者の移動ルートが決められていたことから主催者には安全配慮義務があったなどとして、主催していたエイベックス・グループ・ホールディングスの子会社などを相手取り約8千万円の損害賠償を求め提訴しました。
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、一定の法律関係に基づいて特別な社会的接触を持つ関係に入った当事者間において、当該法律関係に付随する義務として信義則上負う義務とされております。例えば労働契約を締結した場合、労務の提供と賃金の支払という本来的義務に付随して、労働者の安全を配慮する義務が信義則上、雇用者に認められるとされます。これは判例によって確立した概念であり明文の根拠はありませんが、民法上の債務不履行(415条)や不法行為(709条)を構成し得るものと言えます。また2008年改正の労働契約法でも雇用者の義務として記載されました(5条)。
落雷事故と安全配慮義務
落雷事故が発生し、主催者や監督責任者に対する賠償請求がなされる場合にもこの安全配慮義務の考え方が使われることになります。イベント主催者やスポーツ大会の監督者には一定の安全配慮義務が認められ、落雷の危険性が生じた場合には適切に避難誘導するなどの義務が認められるということです。
しかし落雷事故が生じた場合、必ずその責任が生じるというわけではありません。その落雷事故に前提として予見可能性や回避可能性がなくてはなりません。落雷事故訴訟では通常この点が争点となります。
同種事例の判例
同種の落雷事故に関する事例で、高校のサッカーの試合中の事故に関する判例が存在します(土佐高校事件、最判平成18年3月13日)。これは校外でのサッカーの試合中に落雷事故が生じ、生徒の一人が重度の機能障害を負ったというものです。本事例の控訴審判決では、雷注意報や遠雷等で、社会通念上直ちに一切の屋外での活動を中止すべきことが要請されているものではないとして義務違反を否定しました。
一方最高裁は試合開始直前の頃には会場の南西上空に黒い雷雲が見え、雷鳴と放電が目撃できたことから落雷の危険が迫っていることを具体的に予見できたとして注意義務違反を認めました。
コメント
本件の一審・二審判決では主催者側に落雷の発生を具体的に予見できていたとは言えない、また落雷現場はコンサート会場から距離があったこと、またカラーコーン等で会場への誘導をしていたからといって直ちに安全配慮義務を負っていたとは言えないとして主催者側の責任を否定しました。最高裁もこれを支持し上告を棄却しました。
以上のように落雷事故に関する安全配慮義務に関しては、当時の具体的な気象状況などからどの程度具体的に危険を予見できたか、また予見できたとして実際に避難させることが可能であったか、主催者と被害者の関係、イベントの性質など、多くの要素を総合的に考慮して予見可能性や回避可能性を判断しているものと思われます。それ故に実際に判決が出るまでは認容されるかどうかの判断は簡単ではないと言えます。
野外コンサートやスポーツイベント等を開催する場合には気象状況に十分注意しつつ、落雷の危険がある場合にはどのように避難誘導するかなど予め周知し、予見義務を尽くすことが重要と言えるでしょう。
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