良くも悪くもあくまで「ビジネス」―日米病院、ここが変だよ(2) (2017/6/20 メディ・ウォッチ)
米国医師である筆者が日本と米国の病院における「ここが変だよ」を考える連載。2回目は、良くも悪くも一営利企業の「ビジネス」と割りきって展開される米国の病院について、日本の病院と比較しながら具体的な事例を見ていきます。
なぜ病院の食堂でジャンクフード?
筆者がまず、日本の病院を「うらやましい」と思うのは、病院の食堂で出されるメニューです。写真1が米国の病院、写真2が日本の病院のメニューです。一目瞭然かと思いますが、米国の病院のメニューはカロリーやコレステロールが高そうな「ジャンクフード」のようなメニューばかりで、日本の病院は野菜の緑も多く、体に良さそうなメニューが多いです。医師が「塩分や油の多い食べ物は避けましょう」と言っても、病院の食堂が写真1のような状態では説得力がありませんし、いくら病院で特別食などを出しても、患者家族が食堂で写真1のような食べ物を購入し、患者に与えてしまえば、全く意味がありません。
食堂で出されるメニューに限らず、こうした信じがたい光景が米国の病院で見られる背景には、米国の病院は、あくまで「ビジネス」という立場にあることが大きいです。米国の病院は、利益を出すためコスト削減への意識が非常に高い傾向にあります。食事のほか医療材料、薬剤など病院で用いるあらゆるものをできるだけ低コストに抑えようとします。結果、写真1のようなメニューになっていると、筆者は考えています。
こうしたビジネスライクな光景は、医師への報酬などでも見られます。代表的な例は、医師の技術料に対する「ドクターフィー」ですが、最近では医師それぞれに対する患者の満足度に応じてボーナスを決める仕組みがトレンドです。純粋に患者満足度を高めることに異議はないと思いますが、患者へ行った満足度のアンケート結果などを見ると、この仕組みが必ずしも歓迎すべきものではないことが分かります(図表1)。例えば、「受付嬢が笑顔」「待ち時間が短い」など医療の質と全く関係がないことに満足を感じていたり、医療の質においては「薬をたくさんくれた」「他の医師がしない検査をしてくれた」など過剰医療に満足感を得ている可能性も否定できません。つまり、ボーナスというインセンティブが、医療をあるべき方向とは違う方向へ導いてしまう危険性があるということです。
ビジネス視点で誕生した「さまよう皮膚科医」
ただ、「ビジネス」の感覚が必ずしも好ましくないわけではありません。
米国最大級の病院グループ企業である「Kaiser Parmanente(カイザーパーマネンテ)」は、保険会社でありながら、独自の病院などの医療施設を所有して運営しています。カイザーの保険に加入している患者は基本的にカイザーの傘下病院で診る仕組みになっており、カイザーグループの保険に加入する患者が増えて医療費がかかればかかるほど、それだけグループの保険会社の支出が増え、グループ全体の利益を圧迫する仕組みになっています。
従って、いかに入院しないように予防医療のレベルを高めるか、入院しても早期に退院させることはできないかなど、さまざまな工夫がなされています。最近、カイザーを見学して面白かった話として、「Roving Dermatology」があります。これは日本語に訳すと「さまよう皮膚科医」みたいになりますが、カイザーのコスト削減戦略の一つになります。
通常、皮膚の疾患の初診は、一般内科の診察を受けた上で、皮膚科の専門医につなぎます。ただ、皮膚の疾患は専門家が一目見れば、治療方針をすぐに決定できるものがほとんどです。従って、一般内科医の診察というワンクッションを置かず、外来で皮膚科医が文字通り「さまよう」ことで、皮膚科の専門知識が必要な患者がくればその場で診察し、治療方針も決めて、それを一般内科医がオーダーするというところまでします。こうすることで、皮膚科の外来診療の多くが効率化される一方、一度の通院で済むため患者負担も軽減されます。
「ビジネス」の視点が医療を好ましくない方向へ導く可能性があることは否定できません。しかし、それが医療と経営の質向上に結びつけている事例も多数あります。そういう意味では、トライアンドエラーを繰り返しながら、良くも悪くもビジネス感覚が医療の進化に一役買っているのが、米国の病院の特徴の一つと言えそうです。
- 関連記事
- 若者の人生変える恐怖の請求額―日米病院、ここが変だよ(1)
- 紹介状なし外来患者の5000円以上定額負担、500床未満の病院にも拡大すべきか―中医協総会(1)
- 地域医療へ配慮し、国民に分かりやすい専門医制度を目指す―日本専門医機構がQ&A
- 薬剤師など多職種の病棟配置、看護師と併せて入院基本料の中で評価せよ―日慢協・武久会長
- 地域に密着した薬局が健康寿命を延ばす!?女性がカラダの悩みを気軽に相談できる社会へ