働き方改革はどこへ向かい、何をもたらすのか (2017/5/19 瓦版)
働き方改革はどこへ向かい、何をもたらすのか
同一労働同一賃金の目的と行方
働き方改革になぜ「同一労働同一賃金」が必要なのか。生産性向上や時間や場所に捉われない働き方の実現については、ストンと腹に落ちるだろう。だが、雇用形態による賃金格差の是正はそれほど重要なのか…。働き方改革を高らかに宣言した安倍首相は「非正規という言葉をなくす」とまで明言している。
これを解くカギは「1億総活躍社会の実現」という言葉に凝縮される。老若男女が活躍し、高齢社会における労働人口の減少に立ち向かおう。とりわけ、ママさんや高齢者など、一度就労現場から離れた人材こそ戦力として活用しよう――。それが総活躍に込められた意。そうした層が、潜在的にそうしたいと思っていても時間や体力的に限られるケースも多く、どうしても雇用形態は融通の利く非正規を選択せざるを得ない…。
就労者全員に活躍を求めながら、制約のある人、つまりやむを得ず非正規を選択するワーカーの賃金が低い。それでは公平感がまるでない。実際、非正規でも、正規以上に活躍する人材は少なくない。だからこそ、同一労働同一賃金にして、雇用形態による賃金格差を是正。理にかなった“出戻り人材”の受け入れ態勢を整備する必要がある。
多様性という潮流も連動する。右肩上がりの時代が終わり、労働者の価値観は激変。会社に粉骨砕身し、頑張った分だけ報酬をもらうという価値観から、仕事はほどほどにライフの充実を優先する。そうした価値観の労働者も増えている。こうした風潮を最適化するには、個々の働き方の選択に応じ、それに応じた適正な報酬がもたらされる土壌が不可欠だ。非正規で週三勤務を選択しても、やっている業務が同じなら時間単位では報酬は同一にする。そうであれば、個々が納得の上で、働き方を柔軟に選ぶことが可能になる。
賃金のフラット化で拡がる働き方のバリエーション
正社員という働き方が標準でなくなれば、「複業」へも柔軟に対応出来る。A社と週2、B社と週3という契約を正規同様の待遇で締結することができるなら、迷うことなく複業へシフトもできるだろう。要するに、同一労働同一賃金を実現することで、働き方の選択肢を大幅に増やすことが可能になるのだ。
逆にいえば、正社員は安定という正社員神話が働き方を硬直化させ、人材流動化を停滞させる元凶だったともいえる。もちろん、右肩上がりの成長モデルとして終身雇用/年功序列は大きく寄与してきた。しかし、少子高齢化でその前提が崩れた今、それに引きずれれることは欠陥が多過ぎ、多くの労働者を不幸にしてしまう。実はその大きなカギを握っているのが、同一労働同一賃金の実現なのだ。
もっとも、同一労働同一賃金の実現は働き方改革の中でも最難関といえる。時間無関係に働き、業務領域もあいまいで、責任も大きい正社員。この日本固有ともいえる雇用形態と、仕事は正確にしっかりこなすが、時間通りで、責任も少ない。これを同列にすることへの相当な反発が予想されるからだ。
さすがに劇的に変えることは難しいだろう。やれば確実に大きな摩擦が起こるだろう。少しずつ、徐々に溝を埋めながらその差を縮めていく。若者とシニアの賃金格差を埋めるのと同様の段階を踏みながら、課題をひとつづつクリアしつつ、格差を縮めていく。労働者の価値観も着実に変質しており、ジョブ型への移行の道筋もみえつつある。うまい具合に全てがうまく噛み合えば、最難関のクリアも不可能ではないハズだ。(続く)
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