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フィンテック、銀行参入の規制緩和と今後 (2015/12/15 企業法務ナビ

1.銀行業への規制緩和

 今月13日、金融庁は銀行による、フィンテックを手がける企業の買収を可能とするよう規制緩和に踏み出し、同月中に銀行法等の関連法案の改正案を取りまとめる方針を発表した。

 ITを利用した新しい形での金融サービスについては国内法では規制が無く、既存のモデルでは適応出来ず、かねてより法の枠組みの必要性が説かれていた。また銀行自体も金融業に関係の無い企業を買収することが制限されていたため、法整備と規制緩和が進めば業界が大きく変わることは間違いないだろう。

お金

2.フィンテックとは

 フィンテック(FinTech)は、金融を意味する“finance”と、技術を意味する“technology”を併せた造語で、ITテクノロジーを利用した金融サービスを意味し、金融イノベーションの主役である。融資や資産運用、AIやビッグデータなどの分野で存在感を増しているが、とりわけ決済について新規サービスが伸びている。我々の身近なもので例を挙げれば、アプリを介した電子マネーによる決済等がそれに当たる。クレジットカードや銀行振り込みと異なり、個人の銀行口座を介せず小口の決済から利用できる手頃さと決済スピード、手数料の低さ、そして匿名性が売りだ。消費者のオンライン上での売買の増加という情勢の変化に沿って進化してきたサービスといえよう。

3.フィンテック決済の問題点

 一方で銀行口座を介しない決済の容易さと匿名性は、非合法的組織によるマネーロンダリングに利用される危険性もはらんでいる。マネーロンダリングの危険については電子マネー黎明期から指摘されており、現在では現金化することの出来る電子マネーやプリペイドのモバイルバンキングシステムを利用した送金、指定先に振り込むだけのマネーミュール(運び屋)等、その方法や規制すべき対象は多岐にわたっている。

 この点銀行は、非合法的組織がマネーロンダリングに利用するにはリスクが高く、忌避される傾向にある。イギリス政府が発表した金融各業態についてマネーロンダリングとテロリスト利用におけるリスク査定では、銀行は12業態中最も評価が高かった(UK national risk assessment of money laundering and terrorist financingより。各数値は利用するテロリスト側のリスクの高さであるため、数値が高ければ高いほど、リスクに対するセキュリティが堅固であることを意味している)。逆にビットコインは5点と最も低く、取引管理者の不在が評価に影響しているものと考えられる。銀行がフィンテックを自己業務に取り入れるとするなら、リスクマネジメントやセキュリティの観点から自行に合わせた工夫が必要とされるだろう。

4.おわりに

 フィンテックが既存業種から仕事を奪いかねないという指摘もある。昨年末、オックスフォード大学でAIを研究するマイケル・A・オズボーン准教授らによる「あと10年後には消える職業」という論文が話題を呼んだ。同論文は、現在米国の総雇用者の仕事の内、47%が機械に取って代わられると予測する。同様のことが金融業界にも言える。

 「人間相手よりフィンテックの方が安心する」。実際にフィンテックによる資産運用を利用するあるアメリカ人女性の言だ。窓口の担当者自身の保身や昇進から生じる欲目や無謀さといったものが排除されているからだという。数字の分析に長けたAIやシステムと既存の人的配置との兼ね合いのバランスへの配慮を要すると考えられる。

 また、いかにフィンテックに取り組んでいくかという国家としての姿勢も明らかにすべきだ。例えば、イギリスでは“innovate finance”という組織が、国家的にフィンテックをリードすることを目的として、監督官庁、自治体、企業、ベンチャーキャピタルなどが協調関係を構築する地盤を整えている。日本では市場先行型で各種規制をそれに追従させる形で法整備を進める方針であるが、一定程度方向性が決定した後には、各種関係者が連携を取れる体制の構築も視野に入れるべきではないだろうか。

 フィンテックは新たなチャンスを獲得する金の卵となるのか? あるいは銀行や証券会社から仕事を奪うのか? フィンテックがこれからの社会にどのような変化をもたらすのか、その動向に注視したい。

提供:企業法務ナビ

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