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軍事研究 枠組み作りばかりが先行、自分なりの「指針」持つべき (2016/12/5 筑波大学新聞

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 日本の大学で研究と軍事の距離が接近している。契機は昨年7月に防衛省が始めた制度だ。大学などの研究者に、安全保障技術の研究資金を支給するもので、今年度は全国の大学が23件応募し、5件が採択された。現在、研究費の支給は1件最大約1億円だが、防衛省は来年度からこれを数十億円にする構えだ。この状況をどう考えるべきか。ロボットスーツ「HAL」の開発で知られるサイバーダイン社(つくば市)社長の山海嘉之教授(シス情系)は「人を傷つけることが目的の技術開発は私の生き方にあわない」と話す。この明確な基準に全面的に同意したい。

研究

 防衛省が昨年始めたのは「安全保障技術研究推進制度」。今年度募集では採択10件中、5件が北大、東京農工大、東京理科大学などの大学だった。

 この制度を念頭に昨年11月、本紙は、筑波大学生600人に大学の軍事研究についてアンケートした。その結果は賛成派が33.5%で、反対派の27.4%を上回った。だが驚いたのは「どちらとも言えない」が38.7%と最も多かったことだ。その理由も「問題をよく知らない」が最多だった。

 私はこれは問題だと思う。学生一人ひとりが軍事研究に関する明確な意見を持たなければ、大学と軍事研究という日本の将来を左右する問題の是非を論じることが出来ないからだ。さらに驚いたのは取材中に出会ったある全国紙記者の言葉だ。この記者は大学の軍事研究について研究者を取材してきたが、「軍事研究に関する意見が定まらない研究者が少なくない」との印象を持ったというのだ。

 ここで思い起こすのが山海教授への取材だ。

 山海教授が開発するのは、体に装着し、体内の信号を読み取って動くロボットスーツ。装着で労働現場の作業や、脳や筋肉の疾患で体を動かすことが困難な患者の支援につながる。一方で、形状が似た装着型ロボットは米国などで軍事技術としても開発されている。重い装備品を持ちながらの移動などに利用できるからだ。

 だが山海教授は「自分の技術は軍事転用しない」と断言する。根底にあるのは、小学生の頃から抱き続ける「科学技術は人や社会の役に立ってこそ意義がある」との理念。サイバーダインには「平和倫理委員会」があり、技術の軍事転用防止に向けた方策を話し合ってもいる。

 私がこの問題について初めて記事を書いたのは、昨年12月発行の本紙だった。

 その後、本紙の学生アンケート結果などへの報道機関からの反応は早く、新聞社や放送局からの取材を受けた。この間、マスコミの報道件数も増えた。朝日新聞では、軍事研究に関する記事が2014年は6件だったのが、16年は11月25日時点で25件になった。9月には、NHKの「クローズアップ現代+」でも特集された。

 だが、私の記事も含めたこうした報道が、一人ひとりの問題意識に結びついていないように感じる。

 確かに大学や研究機関側はいま、「基準作り」にやっきだ。日本の科学者の代表機関・日本学術会議は、戦後2度軍事研究の否定声明を出してきたが、今年5月から軍事研究に対する立場の見直しを含め議論している。来年3月までに一定の見解をまとめる予定だ。一方で、新潟大学は昨年10月、学内の「科学者の行動指針」を改定し「軍事への寄与を目的とする研究は行わない」とした。

 科学研究の本来の目的は人類の幸福であり、人を傷つけることでは決してないはずだ。科学と軍事の線引きが難しさを増すいま、「上から」ではなく、一人ひとりが問題を考え、一人ひとりが「指針」を持つことを求めたい。

(添島香苗=筑波大学 生物学類4年)

提供:筑波大学新聞 第322号 2016.12.5発行

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