消費者団体の指摘によりジャニーズファンクラブ規約改訂へ (2016/11/28 企業法務ナビ)
はじめに
芸能事務所ジャニーズ所属タレントのファンクラブ会員規約が消費者団体からの指摘を受けて来年にも見直されることがわかりました。会員規約には事務所側の都合により一方的に改訂できることや退会となった会員は損害賠償等が一切できないなどと規定されておりました。今回はこのような規定の消費者契約法上の問題について見ていきます。
事案の概要
適格消費者団体である消費者被害防止ネットワーク東海の発表によりますと、ジャニーズファンクラブの会員規約には以下のような規定がなされておりました。
まず、規約は予告なく改訂することがあり、その効力は閲覧可能となった時点から発生する(2条4項)。
事務所側の判断で会員を催告無く即時に会員資格を抹消することができ、退会された会員は損害賠償等の一切の権利行使ができない(4条2項3号、3項)。
事務所及びタレントはファンクラブのサービスに関し、いかなる責任も負わない(5条1項)。
支払い済みの入会金・年会費は理由の如何を問わず返還しない(4条3項)。
これらの規約は問題があるのではないかとのファンクラブ会員からの相談により同団体が調査を行い、消費者契約法上不適切であるとしてジャニーズ事務所側に是正の申し入れを先月18日に行っておりました。これを受け事務所側は見直しに着手しており来年にも改訂する見通しです。
消費者契約法8条について
消費者契約法8条では事業者が債務不履行や不法行為を行った際に事業者の責任を免除する旨の規定は無効としています。ここで無効とされるのは全部免除の場合と、故意または重過失がある場合の一部免除を言います。つまり軽過失の場合に一部免除する旨の規定は有効ということです。そして有償契約の場合において瑕疵担保責任を負わない旨の規定も無効となります(同5号)。これについては事業者が修繕、代替物提供を行う場合には有効となります(同2項1号)。事業者の賠償責任は◯円を限度とする。間接的な損害については責任を負わないといった条項が該当することになります。
消費者契約法9条について
本条については以前にも取り上げましたが簡単に触れておきます。9条1項によりますと、契約の解除に伴う損害賠償額の予定や違約金を定める場合、同種の消費者契約の解除に伴い生ずべき平均的な損害の額を超えるものは無効となります。ここに言う「平均的な損害の額」とは一般的に同業者の同種の契約が解除された場合を想定し、事業者に生じる平均的な損害額を言います。裁判例では中古車売買における価格の15%の違約金条項や3月31日までに入学辞退した場合の入学金不返還条項などが無効となりました。これらは実際には損害が生じていないと評価されたものです。
消費者契約法10条について
消費者契約法10条によりますと、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する・・条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反し消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」としています。簡単に言いますと、消費者に一方的に不利になる条項は信義則に反し無効であるということです。これに該当するかについては(1)当事者間の情報力や交渉力の差(2)契約時の状況(3)条項の消費者にとっての理解しやすさ(4)条項の具体的内容の知る機会の有無等を総合的に判断することになります。
コメント
本件でまず、退会となった会員は損害賠償等の一切の権利行使が出来ないという点と事務所側はいかなる責任も負わないという点は賠償責任を全部免除する条項であり8条1項に抵触するおそれが高いと言えます。また途中退会となった場合でも入会金・年会費は返還しないとする点は実質的に違約金と同視することができ、平均的な損害額を超えるものとして9条1項に抵触するおそれがあります。そして事務所側の都合で随時規約を改訂することが出来、事前告知もなく閲覧可能となった時点で効力が生じるとする点は消費者側の権利・利益を一方的に制限するものとして10条に反するおそれが高いと言えるでしょう。
以上のように事業者側に一方的に有利になる内容の規約や基本契約約款は消費者契約法の規定により無効とされます。現在民法の改正案に上げられているものの中に、相手方の利益に合致する場合、契約の目的に反せず必要性相当性があり合理的な場合は約款を一方的に変更でき、適切な時期に適切な方法で周知しなければならない(民法改正案548条の4)というものがあります。
定形約款は多くの契約で使われておりますが、多くの場合は事業者に有利な内容となっております。民法改正の動向を踏まえつつ消費者契約法に合致しているか今一度確認することが重要と言えるでしょう。
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