目指すはワイナリー建設!村人に寄りそう岩手県「株式会社のだむら」 (2016/8/25 nezas)
岩手県野田村は、県の北東部に位置する太平洋に面した村です。天然塩『のだ塩』や『荒海ホタテ』、『塩蔵ワカメ』などが特産で、塩を使ったロールケーキやかりんとうなどのスイーツも名物となっています。人口は4,416人(2016年7月末時点)で、小学校、中学校、高校がそれぞれ1校ずつの小さな村です。
幅広い事業を担う「株式会社のだむら」
この野田村で「道の駅のだ」や「観光物産館ぱあぷる」の管理・運営を担っている第三セクターが「株式会社のだむら」です。日頃から情報発信地やコミュニティの役割も担っていた「のだむら」は、震災時にも大きな役割を果たしました。
津波の被害を免れた同社は、地震から数日後に敷地内に仮設トイレを設置するなど、震災対策基地のような存在となったのです。従業員たちは、携帯電話で情報を収集してお客さまたちに伝えつつ、物資の入手に走りました。交通手段のない人のために携帯電話でタクシーを呼び、どこかに連絡したいという人には携帯電話を貸し出しました。そして、6日後には売店を再開しています。近隣の道の駅とも連携し、大量に提供された野菜を配布したこともありました。
柱は「塩」
「のだむら」は、国や地方公共団体(第一セクター)と民間企業(第二セクター)が共同出資して立ち上がりました。事業の柱は、名産である塩の製造です。
野田村の海岸では、江戸時代から製塩が行われていました。海水を鉄鍋で煮詰める製塩は「直煮(じきに)出し」という重労動で、塩は貴重な商品でした。野田村で作られた塩は、北上山地を越えて雫石や盛岡に運ばれ、米や粟などの穀物と交換されていたという歴史を持ちます。しかし1905年には、塩の扱いは国が独占的に作って売る「専売制」となり、1910年に全国の製塩が廃止されてしまいます。
その後、野田村で製塩が復活したのは平成に入ってからです。村の青年部が、村の宝を再発見することで活性化につなげたいと、村内のイベントで製塩を実演する活動が始まりました。東日本大震災で、「のだむら」の「のだ塩工房」は流失してしまいましたが、再起して伝統の製法「直煮(じきに)出し」で新しい『のだ塩』を完成させました。
のだ塩は丸い甘みを持ち、素材の持つ味わいを十分に引き出してくれると評判です。焼き魚や天ぷらばかりでなく、スイーツ作りにも使えます。特に、「道の駅のだ」で販売している『のだ塩ソフトクリーム』は、塩がミルクのコクを引き出し、さっぱりした甘さで夏にぴったりと人気です。
次は「ワイン」?
塩スイーツに続こうと、いま野田村で盛り上がっているのがワインです。岩手県は山ぶどうが盛んに栽培されていて、その中でも野田村は、約12ヘクタールの畑を持つ県内有数の山ぶどう産地なのです。初夏に太平洋から吹く「やませ」と呼ばれる涼しい風により、果実がじっくりと育ち熟成します。そんな山ぶどうの果汁100%で作られたワイン『紫雫(しずく)』は、国内のワインコンクール「Japan Wine Competition」で銅賞を受賞した実績もあります。
「のだむら」では、2015年から「野田村山ぶどうプロジェクト」をスタートさせました。『紫雫』は、現在は隣接する葛巻町で委託醸造していますが、 野田村にワイナリーを建設して村のオリジナルワインを作ろうという試みです。
そのワイナリーは、2016年春に建物が完成しており、名前は「涼海(すずみ)の丘ワイナリー」と決まりました。秋から醸造をスタートさせる予定です。運営はもちろん、「のだむら」です。高品質の野田村産山ぶどうのみを原料とし、施設に隣接する旧マンガン鉱山の坑道の一部をワインの蔵置場所として活用するなど、地域らしさを最大限に生かす計画となっています。また、地元での就労を希望する村の人材を積極的に雇用し、就労機会の創出に貢献するという効果も見込んでいます。
村長でもある「のだむら」の小田祐士代表は、ワイナリー建設は震災復興に向けた新しい取り組みであり、ぶどう農家、村、「のだむら」が一丸となって愛されるワインを作ろうとしています。野田村の山ぶどう生産農家の人々も、地元のワイナリーは農家の悲願であり、雇用機会が生まれれば村の復興につながるのではないかと期待を寄せています。第三セクターとして、地域にぴったりと寄り添い、地域の発展に貢献し続ける「株式会社のだむら」の挑戦は続きます。
提供:nezas
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