ドイツの公的介護保険、2017年1月から認知症患者に対する給付を改善 (2016/6/24 メディ・ウォッチ)
ドイツの公的介護保険制度が改正されます。来年(2017年)1月から要介護認定の基準が見直され、認知機能低下についても、身体機能低下と同等の評価となります。このため認知機能低下者や精神障害者の等級(いわば要介護度)が自動的に2ランクアップするようです。
もっとも介護費の増加が見込まれるため、保険料率の引き上げが行われるほか、「リハビリの優先」原則が強化され、介護ボランティアサービスの拡充なども目指すことになります。
我が国でも介護保険制度改正に向けた議論が、社会保障審議会・介護保険部会を中心に進んでおり、諸外国の動きも重要な視点の一つになります。
身体的機能低下者に比べ、認知機能低下者は要介護等級が低くなるとの批判
ドイツの公的介護保険制度は1995年にスタートしました。我が国の介護保険制度と同じように、利用者の申請を受けて、要介護状態であるか、要介護等級(要介護度)がどの程度かを判定し、要介護等級に応じた給付上限額が設定されています。
ドイツの要介護等級は、▽身体ケア(洗顔やシャワーなど)▽食事(調理や栄養摂取など)▽運動能力(起床や歩行など)―に着目して3段階に区分されています。つまり「身体的機能」の低下に着目した判定が行われているのです。
このため認知機能が低下した人は、身体的機能低下者に比べて要介護等級が低く(軽度に)判定されているとの課題がかねてより指摘されており、今般の見直しにつながりました。
2017年1月から新要介護認定基準、認知機能低下者の等級が2ランクアップ
新たな要介護認定制度は来年(2017年)1月からスタートします。具体的には、(1)運動能力(2)認知機能およびコミュニケーション能力(3)行動および心理症状(4)日常動作(5)病気または治療への退所(6)日常生活および社会生活―の6分野について、申請者の自立度がどの程度かを調べ、要介護等級を判定することになります。
国立国会図書館では、「従来の要介護認定は『介護者』に着目(実際に他者が援助しているかどうか)していたが、新制度では『要介護者本人の能力』が重要となる」と分析しています。
併せて要介護等級も、従来の3区分から次の5区分に細分化されます。
▽要介護等級1(自立性または能力の軽微な障害)
▽要介護等級2(自立性または能力の相当な障害)
▽要介護等級3(自立性または能力の重大な障害)
▽要介護等級4(自立性または能力の著しく重大な障害)
▽要介護等級5(自立性または能力の著しく重大な障害、および介護における特別な困難)
前述の要介護認定基準(6分野)の各項目に設定された点数(モジュールと呼ばれる)を算出し、例えば12.5点以上27点未満であれば要介護1、90点以上100点未満であれば要介護5という具合に判定されるのです。
給付費増が見込まれることから、保険料率を0.2%引き上げ
今般の要介護認定基準や要介護等級の見直しによって、「認知機能低下または精神障害により要介護等級を認定されていた人」は、自動的に2ランク上の要介護等級に移行すると国立国会図書館は分析。これに伴い、認知機能低下者への給付額が増加します(より限度額の高い等級に移行するため)。
さらに要介護等級が5段階になり、新たな要介護者が50万人程度増加すると見込まれており、全体としての介護費用も増加することになります。
こうした費用を賄うために、介護保険の保険料率も引き上げられ、2.55%(被用者では労使折半)となります(従前より0.2%引き上げ)。さらに、子どものいない23歳以上の人の保険料率は、折半分に0.25%を加えた1.525%となります。
一方、介護費用の増加を抑えるために「リハビリ優先」原則の強化や、「介護ボランティアサービス」の拡充などの対策が行われます。
なお、介護保険制度改正とは別に、「疾病予防や健康増進施策」の強化を目指す医療保険制度改正も行われています。国立国会図書館では「医療保険、介護保険が一体となって、国民ができるだけ長く健康に暮らすことで、保険料負担などの軽減をもたらすものであり、介護を巡る状況の改善につながる」ことを期待しています。
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