北朝鮮「ムスダン」6発目で成功か 最大射程4000キロが持つ意味、金委員長の狙いとは? ニュースフィア 2016年6月24日
北朝鮮がまたもやミサイルを発射した。新型の中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられている。今年4月の初発射後、5月までに計4発のムスダンが発射されていたが、いずれも直後に爆発するなどし、失敗したとみられている。だが今回に関しては、2発発射されたうちの2発目が約400キロと、過去最も飛距離が長かった。さらに2発目に関しては、北朝鮮の計画どおり飛び、実験は成功だった、との見方が強まりつつある。もし成功であれば、日本やアメリカ、韓国にとって大きな脅威となりうる。
◆国連安保理の制裁強化後にミサイル実験を加速
言うまでもなく、北朝鮮は現在、国連安全保障理事会決議によって、弾道ミサイル発射を禁じられている(ロケット含む)。北朝鮮が今年1月に行った4度目の核実験と、2月のロケット発射を受けて、3月、安保理は北朝鮮への制裁をさらに強化した。にもかかわらず、もしくはそれゆえに、北朝鮮は以来、ミサイル発射をさらに頻繁に行うようになっている。
韓国・聯合ニュースによると、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長(当時は第1書記)は3月、早い時期に核弾頭の爆発実験と、核弾頭の装着が可能な弾道ロケット(ミサイル)の発射実験を実施するよう指示したという。NHKによると、3~5月に発射された弾道ミサイルなどは計24発に上る。ムスダンもその一角だ。
◆ムスダンは唯一、グアムを直接攻撃可能な中距離ミサイル
ムスダンは、日本の防衛省によると推定射程が2500~4000キロ(ロイター)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)や聯合ニュースは3000~4000キロと伝えている。これは、日本全域をカバーするばかりか、米軍基地のあるグアムまでを射程に置く。
北朝鮮は常々、事と次第によってはアメリカを核攻撃すると挑発を繰り返してきた。もしも仮に、ミサイル搭載可能な核弾頭を開発済みだという北朝鮮の最近の主張が事実であれば、ムスダンは搭載機としてまさにうってつけだ。韓国国防省によれば、ムスダンには約650キロの弾頭を搭載できるという(朝日新聞)。
国際社会からの制裁で追い込まれている北朝鮮にとって、アメリカとの交渉のテーブルに着くために、(本土は無理としても)アメリカを直接攻撃可能な核ミサイルを今何よりも手に入れたいはずである。またグアムは、インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)によると、朝鮮半島有事の際には米軍が援軍を送りだす重要拠点になる。同紙によると、ムスダンは、グアムの米軍基地に到達可能な射程を持つ北朝鮮の中距離弾道ミサイルとして唯一のものである。
さらに、ムスダンは移動式発射台からの発射が可能だ。22日に発射された2発のうち、最初の1発の発射後に、韓国軍合同参謀本部は、これは移動式発射台から発射されたものだとの見方を示していた。WSJが指摘するように、固定設置のミサイルと比べ、移動式は発射前の探知、破壊が難しくなる。またWSJが一般論的に語るところでは、北朝鮮がもし潜水艦搭載型や、車両型移動式発射台から発射可能な核ミサイルを保持していれば、北朝鮮に対しいずれかの国が先制核攻撃を行った場合、北朝鮮から核による報復を受ける可能性がある。つまり、北朝鮮は核抑止力を持つことになる。
日本にとっては、ムスダンによって、日本を射程とする北朝鮮のミサイルの種類が増えることになる。中谷元防衛相は22日、そのことにつき「日本の安全保障上、強く懸念する」と語った(ロイター)。日本はこれまでにも、射程約1300キロの中距離弾道ミサイル「ノドン」によって、ほぼ全域が射程に入れられていた。ロイターが韓国メディアの情報として伝えるところによると、北朝鮮は最大30発のムスダンを所有していると考えられているという。
◆驚きのハイペースで失敗の連続
ムスダンの初めての発射実験は4月15日に行われた。しかしこれは発射直後に爆発し、失敗したとみられている。その次には、同月28日に2発を発射したが、これも失敗。5月31日に発射した1発は、車両に載せた移動式発射台で爆発したと韓国軍当局は分析したという(聯合ニュース)。
聯合ニュースによると、(驚いたことに)北朝鮮は2007年、発射実験もなしにムスダンを実戦配備したという。これは、ムスダンがロシア製の潜水艦発射弾道ミサイルを改造したものであるため、性能に問題がないと北朝鮮は判断したのかと、聯合ニュースは1つのアイデアを示している。
そして、22日の2発の発射だ。積み重なった失敗にもかかわらず、驚きのハイペースである。韓国科学技術研究院の李春根研究委員は、過去の失敗事例について、「根本的な技術欠陥であれ、維持補修能力の問題であれ、これほどの欠陥なら1年程度は点検しなければならない状況」と述べていた(聯合ニュース)。通常なら、それぐらいの間隔をあけて再実験に臨むというのだろう。だが、そう言っていられないほど、北朝鮮は焦っている。金委員長が焦らせているのだろう。INYTは、この金委員長の焦りこそが、失敗を連続させている原因だとの専門家の見方を伝えている。金氏は、核兵器、化学兵器でグアムの米軍基地を攻撃する能力を証明しようと急ぐあまり、技術者たちに問題を修正するのに十分な時間を与えていない、というのが専門家らの言だった(技術者は崖っぷちの努力を強いられていたことだろう)。
そして、22日発射の1発目も、失敗とみなされた。これで5回連続の失敗だった。韓国政府の消息筋は「ミサイルは数分間飛行したが、弾道ミサイルとしての最小限の射程にも届かなかった」「弾道ミサイルは放物線を描くが、今回は弾道ミサイルとして正常な飛行をしなかった」と説明したという(聯合ニュース)。なお、ムスダンの最低射程は500キロ以上とのこと。
◆6発目の正直? 異例の高度1000キロ
ところが、2発目に関しては話が違った。2発目は水平距離で約400キロ飛んだ。たしかに推定射程距離よりははるかに短い距離だったが、今回の実験はアメリカや韓国が、ムスダンの実験で即座に失敗だと片づけなかった唯一のものだった、とINYTは語る。ロイターは、これまでの実験で最も望ましい結果を出したとみられるものだと語り、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、今までのムスダンの実験で最も成功したとみられるものだと語っている。
韓国軍合同参謀本部は、韓米両政府が2発目について「徹底的な解析」を行っていると述べた(BBC)。
防衛省の分析によると、2発目のミサイルは、高度1000キロ超にも達していたという(ロイター)。米ミドルベリー国際大学院モントレー校のジェフリー・ルイス氏がロイターに語っているところでは、ミサイルは通常、最大射程を得るためには一定の角度で発射されるもので、よって2発目が高高度に達したことは、日本の上空(通過)を避けるために意図的に選ばれたのかもしれない、という。「このミサイルは完璧に動作していたことがほのめかされる」「通常の角度で発射されていたなら、最大射程まで飛翔していたことだろう」と同氏は語っている。
「北朝鮮が実験を続けるなら、やがては北朝鮮のミサイル開発者は、そのムスダンと同じ技術を、アメリカ(本土)を脅かしうるミサイルに使用するだろう」と同氏は語っている。それはつまり長距離弾道ミサイルだ。時事通信によると、射程1万キロ超の大陸間弾道ミサイル(ICBM)もこの高度まで上昇すると、日本国際問題研究所の戸崎洋史主任研究員(核・ミサイル防衛専門)が指摘しているという。
FTによると、北朝鮮政権の最終目標は、核搭載の弾道ミサイルで米本土に脅威を与える能力であり、それによって国際社会への影響力を得ようとしている、と専門家らは考えているという。
今回の発射がもし成功だったとして、今のところ、ムスダンの成功率は6分の1でしかない。だが、その意味は大きいようだ。