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スタートから混乱のインドネシア高速鉄道計画、中国にとって試練…“まだ前兆に過ぎない”  ニュースフィア 2016年2月8日

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「中国主導の高速鉄道計画は欠陥だらけ」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)、「中国製の高速鉄道、前途多難なスタート」(ブルームバーグ)、「中国の55億ドルの高速鉄道計画が停滞」(フィナンシャル・タイムズ紙=FT)――。日本との受注競争を制した中国主導のインドネシア高速鉄道計画が、スタートからつまずいている。先月21日にジョコ大統領も出席した華やかな起工式が行われたが、工事は未だ手付かず。世論の批判や問題点を、主要欧米各紙も大々的に報じる事態となっている。

◆安全・環境基準、用地買収など問題山積
 完成すれば東南アジア初となるインドネシアの高速鉄道計画は、首都ジャカルタと第3の都市バンドン間の140kmを4駅で結ぶ。総工費は約55億ドル(約6400億円)で、2019年の開業を目指す。海外投資の積極誘致を主要政策に掲げるジョコ大統領肝いりの一大プロジェクトだ。日本との激しい受注競争の末、昨年10月に中国案が正式に採用された。

「ルートも駅の位置も日本案と全部同じで、違うのは金額の見積もりだけ」という当時のインドネシア運輸省幹部の発言に象徴されるように、最終的には「安さ」を取ったという見方が強い。国内世論では、日本案を採用すべきだったという声も目立っていたが、起工式を終えた今になっても、「安物買いの銭失い」になりかねないという懸念が強まっているようだ。

 WSJは、計画にはインドネシアの安全基準が全く反映されておらず、同国運輸省が認可をためらっていると報じている。同省のヘルマント鉄道総局長は、プロジェクトを進める中国・インドネシアの合弁企業側から具体的な計画書類が提出されているのは、140kmの全路線のうち、わずか5km分だけだとメディアに明かしている。FTによれば、「建設を請け負う中国とインドネシアのコンソーシアム(合弁会社)が必要な書類を提出していないため、同省はまだ建設許可や事業権契約に署名していない」という。環境評価の認可の手続きは進んでいるようだが、これにも時間がかかっている。また、線路敷設のために膨大な用地買収が必要で、人口密集地を通るだけに、短期間での実現は不可能だとする政府関係者らの発言も報じられている。

◆「中国企業の能力が試される」
 FTは、インドネシア政府側の「官僚主義」も、認可が遅れている原因だと指摘している。同紙は、「許可書の問題は外国人投資家が繰り返し口にする不満の一つだ」とし、世界銀行によるビジネス環境のランキングで、「インドネシアは官僚主義で知られる中国の84位より低い109位」というデータを紹介している。

「中国企業が複雑な民主主義の下で事業を行う能力が試されるとみられている」とFTは指摘する。国家肝いりのプロジェクトに簡単に認可が下りる一党独裁の共産主義国家とは違い、特にインドネシアの政治は極めて複雑だと同紙は記す。インドネシアでは、過去にも「土地の買収、環境問題、政争などのために、多くの計画が何年も中断したり、撤回されたりしている」といい、「今回の問題は、中国が直面するであろう数々の問題を味見した程度にすぎない」というアナリストの見解を紹介している。

 ジャカルタ在住の政治アナリスト、ポール・ローランド氏は、「この計画を2年ほどで終えられると思うのは、もともときわめて希望的な観測だった」とFTに述べている。WSJも、「ジョコ大統領の巨大事業を実行する力の限界」が浮き彫りになっていると、計画の実現に疑問符をつける。「中国国内の3倍」「イランの同様の計画よりも高い」と、工費が“ぼったくり”だという批判も国内メディアから出ている。WSJやFTは、こうした状況を俯瞰して、大統領肝いりのプロジェクトにより、逆に政権の信頼が揺らぎつつあると見ているようだ。

◆そもそも高速鉄道は必要か?
 こうした懸念を裏付けるように、国会議員からも具体的な批判が飛び出している。地元紙、ジャカルタ・ポストによれば、ファーリ副議長が2日、記者団に対し、「巨額を投じる高速鉄道計画が、社会と経済に負のインパクトを与えかねない」と、懸念を示した。同氏は、「この計画には悪影響が多すぎる」と述べ、ジョコ大統領のインフラ推進政策にも合わないと指摘した。

 路線は人口密集地を通るため、ファーリ氏は用地買収などによって周辺住民に多大な影響を与えることを心配しているようだ。そもそも、高速鉄道の必要性について、疑問符をつける意見も見られる。計画では、現在3時間以上かかるジャカルタ―バンドン間が40分以下に短縮されるとされているが、野党議員の一人は、先週、記者団に「あのような短い距離に、高速鉄道が緊急に必要だろうか?」と発言している(ブルームバーグ)。反対派・懐疑派の間では、国民のニーズを無視した人気取りのための巨大プロジェクトだという見方が強いようだ。

 ブルームバーグは、ジョコ大統領の狙いは、インフラ投資拡大による経済再生だと記す。しかし、識者の間でも、それを急ぐあまり、とんだ勇み足になりそうだという見方が広がっている。新興国で活動するシンクタンク、「交通・開発政策研究所(ITDP)」のインドネシア担当ディレクター、ヨガ・アディウィナルト氏は、「ジョコ政権は、認可も得ずに強引に計画の進行を急いでいる。そして、大統領は、計画が失敗した時には責任を取らなければならないという圧力にさらされている」と、コメント。計画の実現性には依然、強い疑問符がついたままだ。

提供:ニュースフィア

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