甘利大臣に迫るあっせん利得処罰法とは?  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   甘利大臣に迫るあっせん利得処罰法とは?

[用語解説]あっせん利得処罰法

甘利大臣に迫るあっせん利得処罰法とは? (2016/1/27 政治山)

 週刊文春が報じた甘利明経済再生担当大臣の金銭授受疑惑で安倍政権が揺らいでいます。「これで衆参同日選が消えた」「3月中に衆院解散も」などと先走った政局予想まで出る一方、今回告発した業者の担当者が50時間以上の録音記録や証拠写真を揃えていることから「用意周到で悪質なワナだ」「秘書が勝手に動いており甘利氏は知らなかったのでは」と報道内容を問題視する見方も浮上しています。

甘利明経済再生担当大臣の公式サイト

甘利明経済再生担当大臣の公式サイト

甘利大臣も秘書もあっせん利得処罰法違反?

 報道によると、千葉県の建設会社の総務担当者が、都市再生機構(UR)との道路建設を巡るトラブルを解決した口利きの謝礼として、甘利氏に計100万円を渡したと主張。その後も、主に秘書を相手に現金授受やフィリピンパブ接待を行い、「確実な証拠が残っているだけで1200万円」と述べており、あっせん利得処罰法に抵触する可能性があります。また、担当者が秘書に渡した500万円のうち、300万円が政治資金収支報告書に記載がないとされ、政治資金規正法の虚偽記載の疑いも浮上しています。

 では、「あっせん利得処罰法」とはどんな法律なのでしょう。

2001年に施行された新しい法律

 正式名称は「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律」で、2001年3月に施行された比較的新しい法律です。

 2000年6月に元建設大臣が受託収賄罪で逮捕・起訴されたことから制定されました。国会議員や地方議員が、国や地方公共団体の公共工事について公務員に影響力を行使した見返りに金品を受け取ることを禁じています。

 あっせん利得処罰法第1条で、議員が、国や地方公共団体、もしくは公的法人(国や地方公共団体が資本金の半額以上を出資)などの契約に関し、請託を受けて影響力を行使してあっせんし利益を受けた場合、あっせん利得罪として3年以下の懲役が科されるとしています。また、第2条では、国会法第132条に規定する秘書(公設秘書)その他衆議院議員又は参議院議員に使用される者で当該衆議院議員又は当該参議院議員の政治活動を補佐するものによるあっせん利得について2年以下の懲役としています。第4条では、上記で利益を得た者に対し、利益供与罪として1年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処すると定めています。

収賄

刑法のあっせん収賄罪との違いは?

 一方、刑法197条の4にもあっせん収賄の規定があります。こちらは広く公務員の収賄が処罰の対象となりますが、あっせん行為については「不正な行為」をさせることが前提となります。あっせん利得処罰法では、公務員に「適正な職務行為」をさせるか、「不当な行為」をさせないものであっても処罰の対象とされています。

 また、報酬の見返りとして、刑法197条の4では「賄賂」とされていますが、あっせん利得処罰法では、「財産上の利益」に限定されており、名誉職の提供や異性間の情交などは含まれません。

 刑法のあっせん収賄罪が対象を公務員全員の職務行為としているのに対し、あっせん利得処罰法は、公職にある者や秘書の政治活動を対象としています。このため、それぞれの要件を満たせば、1つの行為でも、あっせん利得処罰法(のあっせん利得罪や利益供与罪)と刑法(のあっせん収賄罪)の両方が成立することもあり得ます。

 その場合、1つの行為が2つ以上の罪名に触れるので、刑法54条前段の観念的競合が適用され、より重いあっせん収賄罪(5年以下の懲役)により処罰されます。

議員と秘書は疑われる行いを慎む心構え必要

 議員も秘書も社会的地位がある身として、より高い義務を伴うノブレス・オブリージュの自覚が必要です。甘利大臣の進退はまだ予断を許しませんが、誰も見ていない所でも気を抜かない「李下に冠を正さず」の意識を常に持ち、秘書にも徹底させなければ、長年かけて築き上げた信頼も一瞬で崩壊することを、今回の問題は示したのではないでしょうか。