NYの視点:11/29IMMでは年初来初めての円売り持ち、今週の注目は伊国民投票、ECB定例理事会、オーストリア選挙 株式会社フィスコ 2016年12月5日
短期投機、投資家の円のネットポジションは、年初来で初めて売り持ちに転じた。このため、一段の円の下落はより緩やかなペースになる可能性がある。
今週は、イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票や欧州中央銀行(ECB)の定例理事会に注目が集まる。また、オーストリア大統領選挙のやり直しも今週末実施されるが、思わぬリスクを生む可能性も警戒されている。オーストリアの極右政党、自由党に所属するノルベルト・ホーファー議員は、欧州連合(EU)で英国離脱後に中央集権が強まれば、オーストリアでも離脱を問う国民投票を実施するよう訴えると述べた。同氏は12月4日にやり直し投票となる大統領選挙の有力候補。ホーファー氏が勝利した場合、欧州で唯一の極右政党出身の元首が誕生することになる。
イタリアの銀行セクターは、不良債権が膨らみ崩壊寸前の状態となっている。そんな中、レンツィ首相は銀行セクターの整理をめざし、自身の進退をかけて国民投票に臨む。憲法改正により権力を上院から中央政府に集中させ、安定した政府を目指す。英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票とは違い、金融市場を揺るがす結果になるとは考えられていない。しかし、万が一、「ノーボート」となった場合は、レンツィ首相が辞任。政局不安が強まるほかイタリアの銀行に打撃を与え、予想外に英国が欧州連合(EU)離脱を決定した国民投票のように、欧州や世界の金融市場を再び揺るがしかねないと警戒されている。
また、欧州中央銀行(ECB)は定例理事会で、政策金利を据え置く見込み。ただ、2017年3月に期限を迎える資産購入プログラムの行方や購入条件変更の有無、さらに、イタリア国民投票の結果を受けた対応に焦点が集まる。ECBは万が一、イタリアの国民投票で憲法改正が否決され、イタリアの債券相場が下落した場合、緊急措置としてイタリアの債券買いを行うとすでに通達済み。
資産購入プログラムに関しては、対象となる債券不足から、プログラムの解消(テーパリング)の思惑も根強い。解消されると、ユーロのショートカバーにつながる。ただ、ドラギ総裁はたびたび、欧州の経済には依然緩和策が必要との見解を示している。このため、今回の会合で、量的緩和(QE)の延長が発表されるとの見方も少なくない。ドラギ総裁が債券不足に対しても「対応可能」と強調していることから、債券不足に対処するために条件を緩和する可能性も指摘されている。現在、利回りが預金ファシリティレート(‐0.4%)を下回る債券の購入は不可能。条件の緩和、QEの延長はユーロ売りにつながる。
米国では米労働省が発表した米11月雇用統計は、12月の利上げを一段と確実にした。失業率は4.6%と、予想外に10月4.9%から低下し2007年8月来の低水準となった。非農業部門雇用者数は前月比+17.8万人と市場予想にほぼ一致。10月の+14.2万人から伸びが拡大した。年初来の平均も+18万人と+20万人を小幅下回るものの、労働市場が引き続き拡大している証拠となる。ただ、注目されていた平均時給は前月比‐0.1%と、予想外に2014年12月以来のマイナスに落ち込んだ。また、前年比では+2.5%と、予想外に10月2.8%から低下し8月来の低水準。不完全雇用率(U6)は9.3%と2008年4月以降ほぼ8年半ぶりの低水準となったが、労働参加率は62.7%と、10月62.8%から低下した。イエレンFRB議長やFOMCメンバーが指摘しているように、労働市場のたるみが依然として存続している証拠も見られる。
大統領選挙後のドルの上昇が急速なペースであったため、高値警戒感もある。米資産運用会社ダブルライン・キャピタル のジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)は「ドル高、株高、債券安」という「トランプラリー」が「行き過ぎ」と言及、債券を購入したことを明らかにしている。ジャナスキャピタルのビルグロス氏も債券安が行き過ぎと言及。また、カプラン米ダラス連銀総裁も再三にわたりドルの動向を監視するとし、金融政策でドルの潜在的な上昇を考慮する必要性を指摘している。
■今週の主な注目イベント
●米国
3日:ダドリーNY連銀総裁が講演
5日:ダドリーNY連銀総裁、エバンス・シカゴ連銀総裁、ブラード・セントルイス連銀総裁が講演、11月労働市場情勢指数:10月0.7、11月ISM非製造業景況指数:予想55.3(10月54.8)
6日:10月貿易収支:−415億ドル(9月‐364億ドル)、7−9月期非農業部門労働生産性確定値:予想+3.2%(速報3.1、4−6月期‐0.2)、単位労働費用:予想前期比+0.3%(速報0.3%、4−6月期+3.9%)
7日:10月JOLT求人:予想539万(9月548.6万)
◎危機前に比べ状態が改善 ← 危機前の水準と比較
9月解雇率(Layoffs/discharges rate):1.0%(8月1.2%) ← 1.4%
11月失業率(Unemploynent rate):4.6%(10月4.9%) ← 5%
9月求人率(Job openings rate):3.7% (8月3.6%) ← 3%
9月退職率(Quits rate):2.1%(7月2.1%) ← 2.1%
11月雇用者数(Nonfirm payrolls):+17.8万人(10月+14.2万人) ← +16.18万人
◎状態が危機前より依然悪い ← 危機前の水準と比較
11月広義の失業率(U-6):9.3%(10月9.5%) ← 8.8%
11月長期失業率:39.2%(10月40.1%) ← 19.1%
11月労働参加率:62.7%(10月62.8%) ← 66.1%
9月採用率(Hires rate):3.5%(8月3.6%) ← 3.8%
●欧州国民投票
4日:イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票、オーストリア大統領やり直し選挙
●欧州
8日:ECB定例理事会:主要政策金利:予想0(前回0)、預金ファシリティレート:予想‐0.4%(前回‐0.4%)、限界貸付金利予想+0.25%(前回+0.25%)
●地政学的リスク
ウクライナ紛争
ガザ紛争
イラク、イスラム過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」
シリア
イエメン
トルコ
【IMM】
*円
ネット・円買い持ち:−269(11/29)←円買い持ち:+10,900(11/22)(直近ネット円買い持ち最高水準:08年3/25+65,920、04年2/6+64499)(過去最高ネット円売り持ち高:07年6/26-188,077)
*ユーロ
ネット・ユーロ売り持ち:-119,240(11/29)←ユーロ売り持ち:- 119,348(11/22)(07年5/15:+119,538過去最高買い持ち高、10年2/9-57,152過去最高の売り持ち高)
*ポンド
ネット・ポンド売り持ち:- 78,135(11/29)←ポンド売り持ち:- 74,318(11/22)(07年7/22:直近ネット買い持ち高最高水準+98,366)
*スイスフラン
ネット・スイスフラン売り持ち:- 24,334(11/29)←スイスフラン売り持ち:-22,900(11/22)(過去最高スイスフランネット売り持ち高:07年6/19:-79,331)
*加ドル
ネット・加ドル売り持ち:- 18,576(11/29)←加ドル売り持ち:- 17,462(11/29)(直近ネット買い持ち高最高水準:07年10/12+83001)
*豪ドル
ネット・豪ドル買い持ち: +20957(11/29)←豪ドル買い持ち:+30705(11/22)
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