1兆円の防潮堤計画、被災者の賛否二分 まるで万里の長城…海外も注目 ニュースフィア 2014年7月1日
東日本大震災で、東北の沿岸地域が津波による甚大な被害を被ったことから、政府は今後の対応策として、約1兆円をかけ、新たに440の防潮堤を、東北の海岸に建設しようとしている。防潮堤の効果については懐疑的な見方もあり、建設が計画されている地域の住民を二分する論争にもなっている。
【本当に必要?】
海外各紙は、防潮堤計画が「日本の万里の長城」と呼ばれていることを紹介。その効果を疑問視する意見があると、伝えている。
東北大震災のとき岩手県普代村では、3000人の住民が、高さ15メートルの防潮堤のおかげで助かった。しかし、釜石市では、当時ギネスブックで世界一巨大と認定され、1200億円を投じた防波堤を津波が破壊。その内側にあった防潮堤も波に飲み込まれ、役に立たなかった。
東京大学の都市計画の専門家、クリスチャン・ディンマー助教授は、ガーディアン紙に「防潮堤が人命を守る可能性はあるが、それは実際の津波の高さと到達高度が想定を越えなければの話」と述べる。津波の高さは予測不能で、どんなに高い防潮堤でも、その効果は絶対ではないとしている。
【地域再生への障害】
大震災で大きな被害を受けた気仙沼市小泉地区を取材したガーディアン紙の記者は、防潮堤建設を巡り、地元住民が二分される事態になっていると報じている。
記者の取材に答えた反対派の小学校教師は、「世界の人々に日本はコンクリートの要塞だとは思われたくない」、「政府にはただ壁を作るだけでなく、海岸の形を変えて、津波のインパクトが最小限に抑えられるようデザインし直してほしい」と述べた。
しかし彼は、かつての隣人たちが、「すでに計画され、予算もついてるんだから、干渉することはない」とし、この問題を政府任せにしようとしていると嘆く。
前述のディンマー助教授は、この小学校教師の懸念を理解するものの、政府が高く土地を買い取ってくれるなら、住民には選択の余地はないと述べる。小泉地区では、他の場所で生活を再建するための費用が必要で、防潮堤建設のため喜んで立ち退きを受け入れる人がいるのが現実なのだ。
防潮堤計画で、住民の団結が弱まり、地域の再生が暗礁に乗り上げるのではと言う声が、地元から出ているとガーディアンの記者も指摘している。
【首相夫人も反対】
政府の防潮堤計画に関しては、安倍首相の妻、昭恵夫人まで、観光や地元の生態系にはマイナスだとして反対の声を上げていると海外紙は報じているが、計画の見直しは難しいとしている。
今年末には、小泉地区の立ち退き者は、海岸から3キロ内陸へ引っ越すことになっている。地元住民は、新たに建設費2億3000万円を投じて作られる14.7メートルの防潮堤が守るものは、「田んぼぐらいのもの」とガーディアン紙に皮肉を述べている。