【経済】TPP交渉、新聞報道なぜ真逆? 読売は“前進”、産経は“停滞”…海外は「不透明」と判断保留 ニュースフィア 2014年5月22日
19日~20日、シンガポールでTPP閣僚会合が行われた。秘密交渉だけに、進展はあったと強調する報道もあれば、なしと評する報道もある。同一人物の発言に基づいていても、である。
前進か停滞か、対照的な評価
国内報道では、読売が「大筋合意へ大きく前進」と報じているのに対し、産経は「不発」「漂流懸念」などと、正反対の様相である。
甘利TPP担当相の発言についてみれば、読売が「今までよりはるかに霧は晴れてきた。交渉は最終局面にある」と伝えているのに対し、産経は、7月の首席交渉官会合が「大きなヤマ場」であるがそこでの合意を想定するのは「楽観的だ」、と述べたと報じている。朝日などは中間的で、「間合いは相当詰まってきた」が「電撃合意までは難しい」、との発言を拾っている。
同様に、マレーシアのムスタパ貿易産業相の発言についても、読売が「重要な成果は、交渉参加国の間で、柔軟に対応していくことで合意できたことだ」と伝えたのに対し、産経は「満足するものとは言えない」と冷めた見方を示した、と報じている。
なおロイターは、「いくつかの進展がありました。もちろんそれは完全に満足できるものではありません。市場アクセス問題を前進させるにはいくつかの方法があります」と伝えている。産経は、全体としてはそこまで悲観的でない発言のうちから、単体では悲観的に聞こえる一部分を抜き出したように思われる。
産経は、アメリカがTPPを急いでいる理由として、選挙前にアジア歴訪の成果をアピールしたいオバマ米大統領の意図を挙げている。読売はそのような点には触れず、全文に渡ってひたすら今回の進展を強調している。ロイターは、「各国政府は今週の会議での進展を強調しようと躍起であったが、契約を11月の米議会選挙前にまとめられるかどうかは不透明だ」と評している。
ただのカツアゲ
ロイターは、交渉が進んでいないのは主に、もともと関税全撤廃が目的のはずのTPPにおいて、日本が農業聖域について抵抗しているせいだと評している。
一方フォーブス誌(元米国務省のスティーブン・ハーナー氏寄稿)は、アメリカの日本への自動車市場開放要求について、まったく不当な内容だと厳しく批判する。安倍政権の側についても、「概ね妄想」である中国脅威論にとらわれるあまり、アメリカの機嫌を取ろうと譲歩し過ぎるおそれがある、と警告している。
それによると、日本でアメリカ車が売れないのは単に魅力に乏しいからであって、現に欧州メーカーは軒並み、昨年日本で過去最高の売り上げを叩き出している。ヨーロッパ車は新車の3分の2が日本のエコカー減税を適用されているのが強みだが、アメリカ車はそれがゼロである。にもかかわらずアメリカは市場開放と称して、日本で義務付けられている安全性その他の政府審査をアメリカ車に対し免除せよ、アメリカが作っていない軽自動車への減税を廃止せよ、などと「息を呑むほど横柄な要求」を押し通そうとしている。アメリカはこうしたゴリ押しを「同盟」における「リーダーシップ」と称しているが、単にパートナーの利益を無視しているだけのことだ、との主旨である。
同誌のサイトには以前、日本の自動車市場の閉鎖性について報道されていないことを糾弾し、「慰安婦、靖国は“おとり”だ」とまで断じた、根拠薄弱な記事も掲載されていた(アイルランド人ジャーナリストのエーモン・フィングルトン氏)。今回の記事は逆に、関税ゼロの日本の自動車市場に対する、アメリカの不当な要求を批判する、筋の通ったものといえる。